ポリジェニック リスクスコアが非浸潤性乳がんの浸潤性乳がん発症を予測する可能性

ポリジェニック リスクスコアが非浸潤性乳がんの浸潤性乳がん発症を予測する可能性

異常な乳房細胞を有するとの診断を受けた患者では、313-SNPを基にしたポリジェニックリスクスコア(PRS313)が高い場合、後に浸潤性乳がんと診断される可能性が上がる。

血液検査から得られるPRS313(313-SNPを基にした乳がんのポリジェニックリスクスコア)が、非浸潤性乳管がん(DCIS)または非浸潤性小葉がん(LCIS)の診断を受けた女性の将来的な浸潤性乳がん発症を予測できる可能性があることがわかった。この後ろ向き研究の結果は、米国がん学会(AACR)発行のCancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention誌に掲載された。

乳がんは女性に最も多く見られるがんであり、米国ではすべての新規がん症例の15%以上を占めている。乳管や小葉にある異常細胞は乳がんに進行する可能性があるが、どのケースが乳がんに至るかを科学的に予測することは現在のところ困難であると、本研究の統括著者であり、英国キングス・カレッジ・ロンドンの臨床腫瘍学教授Elinor J. Sawyer博士は述べている。「DCISやLCISと診断された女性の中で、どの人が将来的に浸潤性乳がんを発症しやすいかを予測する方法を見つけることは非常に重要です。これにより、最も適切な治療が提供され、不必要な治療を避けることができます」と同博士は語る。

本研究の筆頭著者であるJasmine Timbres氏(キングス・カレッジ・ロンドンの臨床情報アナリスト)は、PRS313がリスク評価のギャップを埋め、治療方針に関する指針を与える有用なツールになるかを検証した。PRS313は、313個の乳がんに関連するSNP(一塩基多型と呼ばれる遺伝子異常)のうち、どれを有するかに基づいて、患者の乳がんリスクを数値化して推定する遺伝子検査である。PRS313は、これまでに乳がんの既往がない女性の乳がんリスク予測において有効性が確認されており、Timbres氏は、DCISまたはLCIS患者のリスク予測にも使える可能性があるとの仮説を立てた。

研究チームは、PRS313の予測能力を検証するために、英国のICICLE研究およびGLACIER研究のデータを使用し、DCIS症例2,169例およびLCIS症例185例のPRS313と追跡データを評価した。DCIS患者については、PRS313を四分位に分けて転帰と比較し、LCIS患者についてはPRS313の上昇と転帰の関連性を評価した。

その結果、DCIS患者では、PRS313の値が上位25%の患者は、下位25%の患者と比べて、反対側の乳房(対側乳房)に乳がんを発症する可能性が2.03倍高かった。一方、同じ乳房(同側乳房)での乳がん再発との関連は統計的に有意ではなかった。

LCIS患者では、PRS313が高くなるほど、同側乳房で乳がんを発症するリスクが上昇し、スコアの上昇ごとに2.16倍のリスク増加がみられた。

また、家族歴もリスクに影響を与える可能性が示唆された。乳がんの家族歴がある患者では、PRS313の上昇に伴い、LCIS後の同側乳房のがん発症リスクが3倍以上になっていた。さらに、乳房切除術や放射線療法を受けた患者を除くと、リスクは4倍に増加した。

Timbres氏は次のように述べている。「LCISは、DCISに比べて低リスクと見なされるため、外科的切除やホルモン療法が行われないことがあります。しかし、今回の結果は、家族歴のあるLCIS患者では追加治療によって利益が得られる可能性があることを示しています。追加治療によって、さらなるがんのリスクを減らすことができるかもしれません」。

「この研究で明らかになった関連性は、DCISやLCISの診断を受けた女性が治療を選ぶ際に役立つ可能性があります。顕微鏡下での細胞の見た目だけでなく、全体像を掴むことで、患者が自分自身の再発リスクについてより正確な情報を得て、最適な治療の選択肢を知った上で判断できるようになるかもしれません」。

また、Sawyer博士は次のように述べている。「まだ他の患者集団での検証や、さらなる遺伝子変異の評価が必要ですが、今回の結果は非常に有望であり、治療方針に影響を与える可能性があります」。

一方で、今回の研究には制約もいくつか存在する。PRS313は浸潤性乳がんのリスク評価に特化したスコアとして設計されているため、非浸潤性乳がんに関与する未知の重要な遺伝的変化について検証できていない可能性がある。また、LCIS患者の数が少なかったため、統計的に有意な関連性を検出できなかった可能性もある。

本研究は、Breast Cancer Now、Cancer Research UKに加え、Guy’s and St Thomas’ NHS Foundation Trustおよびキングス・カレッジ・ロンドンのバイオメディカル研究センターから資金提供を受けた。Timbres氏とSawyer博士は、利益相反を報告していない。

  • 監修 小坂泰二郎(乳腺外科/JA長野厚生連 佐久総合病院 佐久医療センター)
  • 記事担当者 高橋多恵
  • 原文を見る
  • 原文掲載日 2025/10/01

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

乳がんに関連する記事

【ESMO2025】ER陽性HER2陰性 転移乳がんにギレデストラント併用が無増悪生存を改善の画像

【ESMO2025】ER陽性HER2陰性 転移乳がんにギレデストラント併用が無増悪生存を改善

エストロゲン受容体(ER)陽性HER2陰性の進行乳がんにおいて、次世代型選択的エストロゲン受容体分解薬(SERD)であり完全拮抗薬でもある、新薬giredestrant[ギレデストラン...
【ESMO2025】サシツズマブは免疫療法薬が使えない進行トリプルネガティブ乳がんの転帰改善の画像

【ESMO2025】サシツズマブは免疫療法薬が使えない進行トリプルネガティブ乳がんの転帰改善

悪性度の高いがんの一種であるトリプルネガティブ乳がん(TNBC)のうち、免疫療法薬による治療の対象とならない患者において、抗体薬物複合体(ADC)であるサシツズマブ ゴビテカンを使用し...
HER2陽性転移乳がんのトラスツズマブ+ペルツズマブ維持療法にツカチニブ追加は無増悪生存を改善の画像

HER2陽性転移乳がんのトラスツズマブ+ペルツズマブ維持療法にツカチニブ追加は無増悪生存を改善

トラスツズマブ(販売名:ハーセプチン)、ペルツズマブ(販売名:パージェタ)およびタキサンによる一次治療で疾患進行が認められなかった HER2陽性転移乳がん患者を対象に、トラスツズマブ+...
検診で見つけにくい乳がん’小葉がん’をAI利用で予測しやすくの画像

検診で見つけにくい乳がん’小葉がん’をAI利用で予測しやすく

アメリカで診断される乳がんの10人に1人を占める小葉がんは、悪性度が高く発見が難しいがんであるが、この小葉がんを発症する患者を人工知能(AI)で予測する新しい方法が開発されつつある。オ...