【ASCO2025】トラスツズマブ デルクステカン+ペルツズマブ併用はHER2陽性進行乳がんの一部でがん増殖を抑制
ASCOの見解(引用)
「Destiny-Breast09試験で得た知見は、HER-2陽性転移性乳がんに対する新たな一次標準治療法に相当するものです。治療期間が年単位で評価できるようになり、QOLと毒性の点での最適化に向けて、この新しい標準治療を使用する適切な順序を検討する機会となりました」と、Rebecca Dent医師(MSc、シンガポール国立がんセンター副最高経営責任者(臨床)、ASCO乳がんエキスパート)は述べた。
試験要旨
焦点 | ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)陽性の局所進行性または転移性乳がん |
対象者 | 総患者数1,157人のうち770人を、トラスツズマブ デルクステカン(販売名:エンハーツ)+ペルツズマブ併用療法を受ける群(383人)と、現在の標準治療を受ける群(387人)に無作為に割り付けた。 |
主な結果 | HER2陽性の局所進行性または転移性乳がん患者において、トラスツズマブ デルクステカン+ペルツズマブによる一次治療は、現在の標準治療よりも長期間にわたり、がんの増殖を抑制することができる。 |
意義 | ・ 乳がんの約15%から20%がHER2陽性である。HER2陽性の乳がんは増殖が速く、体の他の部位に急速に広がることがある。 ・ HER2標的療法によってHER2陽性転移性乳がんの予後は改善したが、ほとんどの患者では一次治療から2年以内に疾患が進行する。 ・ より長く病気をコントロールし、有効性を高め、生活の質を改善する新たな治療法が必要である。 DESTINY-Breast09試験では、転移性乳がんの二次治療以降の治療薬として承認済みで、現在、一次治療で試験されているトラスツズマブ デルクステカンの可能性を検討している。 |
第3相DESTINY-Breast09試験の結果、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)陽性の局所進行性または転移性乳がん患者において、トラスツズマブ デルクステカン(販売名:エンハーツ)+ペルツズマブ(販売名:パージェタ)併用療法は、現在の標準治療よりもがんの増殖を長く抑制できることが明らかになった。本研究は、5月30日から6月3日までシカゴで開催される2025年米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表される。
試験について
「DESTINY-Breast09試験は、10年以上も有意な治療革新がみられていない転移性HER2陽性乳がんに対して、新たな一次標準治療を確立する可能性があります。 トラスツズマブ デルクステカンは非常に有効な標的治療薬であり、HER2陽性転移性乳がんの一次治療および二次治療以降の両方において有望な結果を示しています」と、本試験筆頭著者であるSara Tolaney医師(MPH、マサチューセッツ州ボストンのダナファーバーがん研究所)は述べた。
局所進行性または転移性HER2陽性乳がんに対する現在の一次治療は、タキサン系抗がん剤とHER2標的治療薬トラスツズマブ(販売名:ハーセプチン)+ペルツズマブの併用療法である。この治療法はTHPと呼ばれ、20年以上にわたって標準治療となっている。しかし、THPを受けた患者の大半は、治療から2年以内にがんが増殖する。
トラスツズマブ デルクステカン(販売名:エンハーツ)は抗体薬物複合体と呼ばれるHER2標的療法の一種であり、トラスツズマブに化学療法薬デルクステカンを結合させたものである。トラスツズマブ デルクステカンは、以前の治療が効かなくなって進行した転移性乳がんに対する治療薬として有望視されている。DESTINY-Breast09臨床試験の目的は、トラスツズマブ デルクステカンが一次治療においても患者の転帰を改善するかどうかを調べることであった。
本試験は、化学療法またはHER2標的療法による治療を受けていないHER2陽性の局所進行性または転移性乳がん患者1,157人を対象とした。患者はトラスツズマブ デルクステカン+プラセボ群(387人)、トラスツズマブ デルクステカン+ペルツズマブ群(383人)、THP群(387人)のいずれかに無作為に割り付けられた。しかし、今回の初回解析の時点で研究者らが発表するデータは、トラスツズマブ デルクステカン+ペルツズマブ群とTHP群のデータのみである。これら2群の患者のうち、52%は診断時にすでにがんが他の部位に転移していたde novo病変、54%はホルモン受容体(HR)陽性がん、48%は早期段階で治療後に再発した病変であった。 両群の患者の約半数はアジア出身で、ほとんどの患者は65歳未満であった。
主な知見
中央値でほぼ2.5年(29カ月)の追跡調査の結果、以下の事項が判明した:
- トラスツズマブ デルクステカン+ペルツズマブ併用は、患者の病勢進行または死亡のリスクを44%低下させた。
- 無増悪生存期間(PFS)中央値は、トラスツズマブ デルクステカン+ペルツズマブ併用群で3年超(40.7カ月)であった。 THP群では、PFS中央値は2年をわずかに超えた(26.9カ月)。この有益性はすべての患者分類グループにわたり認められた。
- 2年後、がんの増殖や転移がみられなかった患者の割合は、トラスツズマブ デルクステカン+ペルツズマブ併用群で約70%であったのに対し、THP群では約52%であった。
- トラスツズマブ デルクステカン+ペルツズマブ併用群において、がんが縮小または消失した患者の割合は約85%であったのに対して、THP群では78.6%であった。 トラスツズマブ デルクステカン+ペルツズマブ併用群においては、同治療が奏効してがんの徴候がみられなかった患者の割合は約15%であったのに対して、THP群では8.5%であった。
- 全生存期間の解析は未成熟であるが、研究者らは、トラスツズマブ デルクステカン+ペルツズマブ併用群において全生存期間の改善傾向を確認した。研究者らは、より長期的な全生存期間データを評価するため、引き続き患者の追跡を続ける予定である。
重篤な副作用が生じた割合は両群で同程度であった。しかし、治療期間はトラスツズマブ デルクステカン+ペルツズマブ併用群の方が長く、吐き気、嘔吐、便秘などの特定の副作用がこの群でより多く認められた。間質性肺疾患はトラスツズマブ デルクステカンの既知の副作用であるが、トラスツズマブ デルクステカン+ペルツズマブ併用群の患者の約12%にみられた。 しかし、これらの症例の大半は重症ではなかった。
次のステップ
本試験は、最終PFS解析が行われ、最終的な全生存期間が報告されるまで継続される。
本試験はアストラゼネカと第一三共から資金提供を受けた。
- 監修 下村昭彦(腫瘍内科/国立国際医療研究センター病院乳腺・腫瘍内科)
- 記事担当者 山田登志子
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- 原文掲載日 2025/06/02
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