【ASCO2025】ESR1変異進行乳がん、ベプデゲストラントが無増悪生存期間を延長する可能性

【ASCO2025】ESR1変異進行乳がん、ベプデゲストラントが無増悪生存期間を延長する可能性

ASCOの見解(引用)

「ホルモン感受性を有しESR1変異が認められる転移乳がん患者さんにおいて、ベプデゲストラント[vepdegestrant]は、フルベストラント(商品名:フェソロデックス)よりも効果が高いことがVERITAC-2試験で示されました。ベプデゲストラントはこのような患者さんにとって新たな治療選択肢となる可能性があります。しかし、平均すると、いずれの薬剤でも奏効期間を延長するまではいかず、こういった患者さんに対する併用療法と継続的な開発の必要性が浮き彫りになりました」と、エモリー大学医学部ウィンシップがん研究所、乳がん内科腫瘍学部門の共同ディレクターであり、ASCO乳がん専門家でもあるJane Lowe Meisel医師(FASCO:ASCOフェロー)は述べる。

試験要旨

焦点治療歴のあるエストロゲン受容体(ER)陽性、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)陰性で、エストロゲン受容体遺伝子(ESR1)に変異のある進行乳がん。
対象者ホルモン療法とCDK4/6阻害薬による治療を受けたことがある26歳から89歳までの患者624人(うち270人がESR1変異有り)。
主な結果ベプデゲストラントは、治療歴のあるER陽性HER2陰性進行乳がんでESR1変異を有する患者において、無増悪生存期間(PFS)を延長する可能性がある。
意義●ER陽性乳がんは、ホルモン受容体(HR)陽性乳がんの一種であり、HR陽性HER2陰性乳がんは米国で最も多い乳がんのタイプである。
●このタイプの進行乳がんに対する標準的な一次治療は、ホルモン療法とCDK4/6阻害薬の併用である。
●多くの患者は、ESR1遺伝子の変異により、最終的にこの治療に対する耐性を獲得する。
●一次治療で長期的な効果が得られない進行乳がん患者に対して、新しい治療が必要とされている。
●ベプデゲストラントは、これまでに第3相試験で評価された初めてかつ唯一のPROTAC(タンパク質分解誘導薬)であり、乳がん患者において初めて評価されたエストロゲン受容体分解薬でもある。

がん細胞上のエストロゲン受容体を分解する分子標的治療薬であるPROTAC(タンパク質分解誘導キメラ分子)の初の国際共同第3相試験VERITAC-2の結果から、PROTACであるベプデゲストラントは、ESR1変異を有し、治療歴のあるER陽性HER2陰性進行乳がん患者の無増悪生存期間を延長する可能性が示された。結果は、2025年5月30日から6月3日にシカゴで開催された2025年米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表された。

試験について

「ESR1変異を有するER陽性HER2陰性進行乳がん患者さんは、病状が進行し、利用可能なホルモン療法に耐性を示すようになった場合、治療の選択肢は限られています。そういった患者さんの転帰改善のため、現在、作用機序が異なり、臨床効果がより長期に得られ、忍容性の高い新しい治療が開発されています。VERITAC-2試験で得られた知見は、ベプデゲストラントが経口治療の選択肢となり得ることを支持するものです」と、試験責任医師のErika P. Hamilton医師(テネシー州ナッシュビル、サラ・キャノン研究所)は述べた。

ベプデゲストラントは、タンパク質分解誘導キメラ分子(PROTAC)と呼ばれる治験薬の一種である。がん細胞上のエストロゲン受容体を標的として分解することにより作用し、ER陽性乳がんの増殖を抑制または停止させることができる。これまでの第1/2相研究では、ベプデゲストラントが他の治療を受けた進行乳がん患者の予後を改善する可能性が示されていた。VERITAC-2はこうした患者を対象にベプデゲスラントの安全性と有効性を検討した初の国際共同第3相試験である。

VERITAC-2試験には、ER陽性HER2陰性の進行乳がん患者624人が登録された。99.5%は女性で、年齢は26歳から89歳、中央値は60歳であった。全員がホルモン療法およびCDK4/6阻害薬による治療を受けており、1ラインホルモン療法を追加することが可能であった。進行乳がんに対して化学療法を受けたことのある患者、あるいはフルベストラントの投与を受けたことのある患者は除外された。フルベストラントは選択的エストロゲン受容体分解薬(SERD)と呼ばれるホルモン療法の一種で、間接的にエストロゲン受容体を分解する。一方、ベプデゲストラントは、その結合特性によりエストロゲン受容体を直接分解する。

主な知見

患者はベプデゲストラント(313人)またはフルベストラント(311人)のいずれかを受ける群に無作為に割り付けられた。ベプデゲストラントは経口で毎日投与され、フルベストラントは治療の初回サイクルの1日目と15日目、その後は各サイクルの1日目に筋肉内投与された。 患者の43.3%(ベプデゲストラント群136人、フルベストラント群134人)がESR1変異を有していた。

 ◇結果は以下のとおり:
●ESR1遺伝子変異を有する患者において、ベプデゲストラント群の無増悪生存期間(PFS)中央値は5カ月であったのに対し、フルベストラント群では2.1カ月であった。しかし、ESR1遺伝子変異の有無に関係なく全体の患者を対象にベプデゲストラント群とフルベストラント群を比較すると、PFSの有益性は認められなかった。
●臨床的有用率はベプデゲストラント群で42.1%、フルベストラント群で20.2%であった。
●奏効率はベプデゲストラント群で18.6%、フルベストラント群で4%であった。

ベプデゲストラント群の副作用のほとんどは軽度または中等度であったが、重篤な副作用はベプデゲストラント群でわずかに多かった。ベプデゲストラント群でグレード3以上の有害事象を経験したのは23.4%であったのに対し、フルベストラント群では17.6%であった。最後に、いずれの群でも副作用のために治療を中止した患者は少なかったが、ベプデゲストラント群の方が多かった(ベプデゲストラント群2.9%、フルベストラント群0.7%)。

次のステップ

研究者らは、このVERITAC-2試験のデータを、薬剤承認申請のサポートとして各国の規制当局と共有する予定である。

本研究は、Arvinas Estrogen Receptor社およびファイザー社から共同で資金提供を受けた。

  • 監修 小坂泰二郎(乳腺外科/JA長野厚生連 佐久総合病院 佐久医療センター)
  • 記事担当者 平沢沙枝
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  • 原文掲載日 2025/05/31

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