ハイリスク遺伝子を有する若年乳がんサバイバーの生殖補助医療は安全

ハイリスク遺伝子があり、乳がん後に妊娠した若い女性を対象とした初の世界的研究によれば、生殖補助医療(ART)は安全であり、乳がん再発リスクは上昇しない

ハイリスク遺伝子があり、乳がんを克服した若い女性における生殖補助医療(ART)は、がん再発リスクを上昇させたり、妊娠や出産に悪影響を及ぼしたりしないことが、国際共同研究から明らかになり、ESMO 乳がん会議2024で報告された[1]。

「BRCA1遺伝子やBRCA2遺伝子の生殖細胞系列病原性変異またはその可能性が高い変異は、乳がんなどのがんの発症リスクを高めることがわかっているが、こうした変異のある若い女性において、一連の不妊治療が安全であるという証拠を初めて示した研究です」と、本研究の発表者であるMatteo Lambertini氏(イタリア、ジェノヴァ大学、IRCCSポリクリニコ・サン・マルティーノ病院、腫瘍内科准教授・医長)は述べた[2]。「この結果は、抗がん剤治療終了後に赤ちゃんを授かる可能性を維持するために生殖補助医療を受けることの利害について、こうした女性と担当医が話し合う際に念頭に置くべき心強い証拠となります」と彼は示唆している。

妊娠・出産前の若い年齢で乳がんになった女性にとって、妊孕性は大きな問題である。治療によって卵巣が機能しなくなり閉経する可能性があるからである。妊孕性を維持する一つの方法は、乳がん治療を開始する前に卵子または胚を凍結保存することである[3]。これらの方法は、一般に排卵誘発剤を使用して卵巣を刺激し卵子を産生させるが、これによってエストロゲンというホルモンのレベルが上昇する。

「私たちは以前から、乳がん治療開始前に妊孕性温存法のためにホルモンレベルを上昇させることは、将来のがん再発リスクを高める可能性があると懸念していました。BRCA遺伝子の病原性変異がある女性については、乳がんや他のがんのリスクが高いため、なおのこと懸念がありました。そのため、妊孕性を温存するための方策は、これらの患者とは話し合うことさえないということが多かった」とLambertini氏は説明する。「これが私たち研究の主な理由でした。つまり、不妊治療が乳がん患者、特にBRCA遺伝子の病原性変異がある患者において安全であるか否かのエビデンスを示すことです。今回の結果を踏まえて、私たちは、そのような変異がある若年乳がん患者のカウンセリングを行う際、治療を開始する前に、妊孕性温存の使用について大きな心配なく安心して話し合うことができます」とLambertini氏は話し、今回の知見は、臨床現場に直ちに影響を与えるだろうと示唆した。

この最新研究では、2000年から2020年の間に世界78カ所のがんセンターで40歳以下で乳がんと診断された、BRCA1/2遺伝子変異陽性の女性約5000人のデータを分析した。研究者らは、これらの女性のうち、生殖補助医療(ART)を受けて妊娠した107人と自然妊娠した436人とで乳がん再発リスクを比較した。妊娠後平均5年余り追跡調査した結果、ARTを受けた女性の乳がん再発は、ARTを受けずに出産した女性に比べて有意差はなかった。また、妊娠合併症、また生まれた新生児に関しても統計学的に有意な差は認められなかったが、ARTで妊娠した女性は自然妊娠した女性に比べて流産が多く、誘発流産は少なかった。

「本研究から得られる主なメッセージは、BRCA病原性変異のある若い女性が乳がん後に妊娠した場合、生殖補助医療を用いても乳がん再発のリスクは上昇しないということです。また、これらの方法は赤ちゃんにとって安全であることもわかりました。つまり、生殖補助医療を受けて妊娠しても、合併症のリスクは増加しません」とLambertini氏は述べた。研究グループで解析した女性の数は少ないと思われるかもしれないが、40歳未満で乳がんになる若い女性は乳がん患者全体の5〜6%に過ぎず、そのうちBRCA遺伝子変異があるのは約6人に1人であるとLambertini氏は指摘した[4]。「われわれは、この独特な患者群に関するデータを世界中の施設から集めました」と彼は説明した。

「これらの知見は、このタイプの若年乳がん患者にとって、実に心強い新情報です」と話すAnn Partridge氏は、ハーバード大学医学部教授であり、ダナファーバーがん研究所・ブリガム・アンド・ウィメンズ病院(米国ボストン)の腫瘍内科副部長で、この研究の共著者である。「BRCA病原性変異のある患者さんについては、いつも心配が少し多くなります。他の乳がん患者と同様に再発のリスクがあるだけでなく、元の乳がんとは関係のない新たながんが発生するリスクも高いからです」。

Partridge医師は、本研究は、医師が早期乳がんでBRCA1/2変異のある若い女性と話し合い、不妊治療について女性が決心できるようにするのに大変役立つ情報を提供するものだと考えた。「これらの新データは、乳がん治療を受ける前に妊孕性温存を行うこと、妊孕性温存の産物(卵子や胚)を使用すること、乳がんを克服した後に妊孕性温存を行うこと、これらがすべて、がんの観点からも赤ちゃんの生育の観点からも、安全と思われることを示す心強い証拠となります」。

Partridge医師は、BRCA1/2乳がんの若い女性が生殖補助医療を希望する理由は、不妊症の克服以外にもあると付け加えた。「こうした女性は、次世代に遺伝性乳がんの潜在的リスクを継承しないために、着床前遺伝子診断で同じリスクのある遺伝子を持たない胚を選択する目的でARTを利用したいと考えるかもしれません」。

参考文献(原文)

  • Lambertini M, Magaton IM, Hamy-Petit A-S et al. Safety of assisted reproductive techniques in young BRCA carriers with a pregnancy after breast cancer: results from an international cohort study. Abstract 266O. ESMO Breast Cancer 2024.
  • Proffered Paper session 2 - Thursday, 14 May 2024, 16:45 to 18:05 (CEST) in Berlin Hall.
  • Lambertini M, Peccatori FA, Demeestere I, et al. Fertility preservation and post-treatment pregnancies in post-pubertal cancer patients: ESMO Clinical Practice Guidelines†. Ann Oncol. 2020;31(12):1664-1678. doi: 10.1016/j.annonc.2020.09.006
  • Copson ER, Maishman TC, Tapper WJ, et al. Germline BRCA mutation and outcome in young-onset breast cancer (POSH): a prospective cohort study. Lancet Oncol. 2018;19(2):169-180. doi:10.1016/S1470-2045(17)30891-4
  • 監訳 小坂泰二郎(乳腺外科/JA長野厚生連 佐久総合病院 佐久医療センター)
  • 翻訳担当者 山田登志子
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  • 原文掲載日 2024/05/16

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