【ASCO2024年次総会】T-DXd(エンハーツ)がホルモン療法歴のある乳がん患者の無増悪生存期間を有意に改善

ASCOの見解(引用)

「抗体薬物複合体(ADC)は、乳がん治療において有望で有益な分野であり、治療パラダイムにおける役割はますます大きくなっています。トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)(販売名:エンハーツ)は、HER2陽性またはHER2低発現かつ治療歴があり転移を有する乳がんに対して承認されている抗体薬物複合体(ADC)です。DESTINY-Breast06試験では、ホルモン受容体(HR)陽性で、HER2低発現または超低発現の乳がんに対するホルモン療法後最初の治療としての検討が行われました。トラスツズマブ デルクステカンは、標準化学療法と比較して無増悪生存期間を有意に改善し、HER2低発現と超低発現の両者で同様の結果が得られました。これらのデータは、ホルモン療法で病勢進行が認められた転移を有するHR陽性の多くの乳がん患者さんに、トラスツズマブ デルクステカンが初回治療として推奨される可能性を示しています。しかしながら、トラスツズマブ デルクステカンは従来の化学療法と比べて、より重篤な毒性を示したことには注意が必要です。すべての患者さんにとって適切な選択ではない可能性があります」-Erica L. Mayer(医師、MPH)ダナファーバーがん研究所、マサチューセッツ ボストン

研究要旨

研究の焦点ホルモン受容体(HR)陽性で、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)低発現または超低発現の転移乳がん
対象者HER2低発現(713人)またはHER2超低発現(153人))の転移を有する乳がん患者866人
主な結果トラスツズマブ デルクステカンは、ホルモン療法で病勢進行が認められたHR陽性、HER2低発現/超低発現の転移乳がんに対して、がんの進行を遅らせる。
意義●乳がんのタイプの約60~75%はホルモン受容体陽性で、約55%はHER2低発現である。
● HR陽性かつHER2低発現/超低発現の転移乳がんで、分子標的療法を併用または非併用のホルモン療法を1回以上行なった後に進行した患者、あるいは、術後ホルモン療法中や一次ホルモン療法後に急速に進行した患者にとって、現在の標準治療は、従来の化学療法による治療である。 しかし、このような場合の化学療法の効果は限定的であるため、進行を遅らせ、転帰を改善するような新しい治療選択肢のアンメットニーズは高い。
●トラスツズマブ デルクステカンは化学療法後に進行したHER2低発現転移乳がんに対し、米国食品医薬品局(FDA)に既に承認されている。

トラスツズマブ  ルクステカンは、ホルモン療法後に進行した、ホルモン受容体陽性(HR+)、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)低発現または超低発現の、転移乳がんの増殖を遅らせることが、新たな第3相試験結果から明らかになった。この研究は、5月31日から6月4日までイリノイ州シカゴで開催される米国臨床腫瘍学会(ASCO)2024年年次総会で発表される。

研究について

「この結果は、転移乳がんの分類と治療の転換の可能性を示すものであります。HR陽性転移乳がんの治療で、より早期にトラスツズマブ デルクステカンを使用し、ホルモン療法後に分子標的薬の効果が見られなかった転移乳がん患者さんに、新たにトラスツズマブ デルクステカンを拡大する機会となるかもしれません」と、ミラノ大学ヨーロッパがん研究所(イタリア、ミラノ)のGiuseppe Curigliano医学博士は述べた。

この試験には、HER2低発現(713人)またはHER2超低発現(153人)の転移乳がん患者866人が参加した。HER2低発現乳がんとは、がん細胞に発現しているHER2タンパク質の量を示す免疫組織染色スコアが1+または2+の状態であり、HER2超低発現乳がんとはスコアが0以上1+未満の状態である。試験参加者は全員、ホルモン療法を1回以上受けており、ほぼ全員(90.4%)がCDK4/6阻害薬による分子標的治療も受けていた。参加者は、トラスツズマブ デルクステカンを投与される群(436人)と、医師が選択した化学療法を投与される群(430人、化学療法はカペシタビン、ナブパクリタキセル、パクリタキセルのいずれか)に無作為に割り付けられた。

主な知見

  • HER2低発現乳がん患者の無増悪生存期間中央値は、トラスツズマブ デラクテカン投与群で13.2カ月であったのに対し、化学療法群では8.1カ月であった。HER2超低発現乳がん患者の少数グループでも同様の結果が見られた。
  • 全体として、トラスツズマブ デルクステカンを投与されたHER2低発現乳がん患者は、化学療法を受けた患者と比較して、がんが進行または新たな転移をする可能性が38%低かった。
  • HER2低発現患者の客観的奏効率(ORR)は、トラスツズマブ デルクステカン投与群では56.5%、化学療法群では32.3%であった。
  • HER2超低発現患者では、トラスツズマブ デルクテカン投与群のORRは化学療法群に比べ2倍以上であった(それぞれ61.8%対26.3%)。
  • トラスツズマブ デルクステカンを投与された参加者は、重度の副作用を経験することなく、より長い期間治療を受けることができ、治療期間の中央値は化学療法を受けた参加者の5.6カ月に対して11カ月であった。 

重篤な副作用はトラスツズマブ デルクステカン群でより多くみられ、参加者の約41%が重篤な副作用を経験したのに対し、化学療法を受けた群では約31%であった。肺に炎症を起こす間質性肺疾患(ILD)はトラスツズマブ デルクステカンの副作用として知られているが、この薬剤を投与された参加者の約11%にみられた。多くの参加者にとってILDは重篤ではなかったが、参加者の約5%がILDのために治療を中断し、3人がこの毒性で死亡した。トラスツズマブ デルクステカン減量の原因となった最も多かった重篤な副作用は悪心であった(参加者の4.4%)。

次のステップ

研究者らは、全生存期間を評価するために患者の追跡調査を続ける予定である。また、患者報告アウトカムなどその他の副次的評価項目のデータ解析も継続し、探索的なトランスレーショナル解析も行う予定である。

DESTINY-Breast06試験は、アストラゼネカ株式会社と第一三共株式会社から資金提供を受けた。 

  • 監訳 下村昭彦(乳腺・腫瘍内科/国立国際医療研究センター乳腺腫瘍内科)
  • 記事担当者 平沢沙枝
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  • 原文掲載日 2024/06/02

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