HER2陰性進行乳がんにエンチノスタット+免疫療法薬が有望

ジョンズホプキンス大学

ジョンズホプキンス大学キンメルがんセンターの研究者らによる新たな研究によると、新規の3剤併用療法がHER2陰性進行乳がん患者において顕著な奏効を示した。この治療では、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害薬(化学変化を起こして腫瘍細胞の分裂を停止させる薬剤)と、チェックポイント阻害薬として知られる2種類の免疫療法薬を併用した。チェックポイント阻害薬には、がんに対する免疫反応の力を解放する作用がある。

本試験は第IB相多施設共同試験であり、腫瘍微小環境に感作することで、チェックポイント阻害薬への反応を向上させることを目的として行われた。同試験の併用療法の結果、HER2(ヒト上皮成長因子受容体2)陰性進行乳がんの女性において25%の奏効率(ORR)が得られた。これは、この治療を受けた女性の25%において、がんが消滅したか、有意に縮小したことを意味する。他の乳がん患者よりも治療の選択肢が少ないトリプルネガティブの乳がん患者では、奏効率は40%であった。これらの結果は2月14日付のNature Cancer誌に掲載された。

「今回の結果は、HDAC阻害薬エンチノスタット(entinostat)による治療後の免疫チェックポイント阻害薬2剤の併用が、転移性乳がんに対する安全で有望な戦略であることを示しています。これは第2相試験でさらなる臨床評価を行う根拠となるものです 」と、筆頭著者であるEvanthia Roussos Torres医学博士(南カリフォルニア大学ケック校医学部助教。研究実施当時はジョンズ・ホプキンス大学医学部と同大学キンメルがんセンターに在籍)は言う。「これらの結果は、転移性乳がんにおいてチェックポイント阻害薬への反応を改善できるという我々の仮説と完全に一致するものでした」。

米国国立がん研究所から資金提供を受けたこの研究は、4つの臨床施設で実施され、24人のHER2陰性転移性乳がんの女性を対象として行われた。12人はホルモン受容体陽性、12人はトリプルネガティブ乳がんであった。全員がエンチノスタットと2種類の免疫療法薬(PD-1/PD-L1阻害薬ニボルマブ[販売名:オプジーボ]とCTLA-4阻害薬イピリムマブ[販売名:ヤーボイ])の併用療法を受けた。

本試験では想定内の忍容可能な毒性のみが認められ、治療中止が必要となった患者はいなかったため、主要評価項目に定めた安全性が達成された。平均無増悪生存期間(PFS)は6カ月で50%であり、これは試験参加者の半数において最低6カ月間、病状が悪化しなかったことを意味する。この治療法の有効性は、今後の研究でさらに検討されるであろう。

「われわれの知る限り、今回の試験は進行乳がん患者を対象にHDAC阻害薬と免疫チェックポイント阻害薬2剤の併用療法を調査して発表された、初の研究です」と、共著者であるダナ&アルバート  "カビー " ブロッコリの基金により任命を受けた腫瘍学教授でジョンズホプキンス大学キンメルがんセンター副所長のElizabeth Jaffee医師は言う。「治療を多数受けた後の進行乳がんは、依然として患者のニーズに応えられていない分野ですから、このような奏効率と無増悪生存期間をもたらした今回の併用療法は興味深いものです」。

免疫チェックポイント阻害薬は、さまざまな種類の免疫細胞の抑制機能を解除し、患者の免疫系によるがん細胞への攻撃を可能にすることから、多くの固形がん患者の治療に欠かせないものとなっている。しかし、ほとんどの乳がんにおいては、これまでこの治療法から効果が得られなかった。

これに対し、乳がんを対象としては、腫瘍微小環境における免疫反応を変化させるため、がんの発生に関する遺伝子の発現を抑制するエピジェネティック薬が単剤の免疫チェックポイント阻害薬と併用して研究されてきた。一方で、2剤の免疫チェックポイント阻害薬併用はさまざまな々ながんにおいて安全であることが示されている。

「実際、われわれは非常に良好な結果を得ることができましたが、それが腫瘍微小環境の変化によるものかどうかという疑問に、今回の研究からは答えることができません」。「今回の研究は、腫瘍微小環境への感作が免疫チェックポイント阻害薬による治療に与える役割を明らかにするために、骨髄系(免疫)細胞集団の変化に焦点を当て、乳がん腫瘍微小環境をより深く調査する必要性を示唆しています」と、Roussos Torres博士は言う。

「この臨床試験は、大胆な仮説を研究室から臨床に持ち込むための学際的協力の重要性を浮き彫りにするとともに、HER2陰性進行乳がん患者を対象とした新しい治療のアプローチについて調査する今後の臨床試験の足がかりとなるものです」と、Vered Stearns医師と共にこの臨床試験の主任研究者であったRoisin Connolly医師(M.B.B.Ch.)は言う。現在、Connolly医師はアイルランド国立大学コーク校、Stearns医師はニューヨークのウェイルコーネル医科大学に在籍している。

米国では毎年約30万人が乳がんの診断を受けており、皮膚がんを除いて米国女性で最も多く見られるがんである。このうち約70%はホルモン受容体陽性HER2陰性で、腫瘍細胞がエストロゲンまたはプロゲステロンの受容体を含むが、HER2というタンパク質のレベルは低い。

トリプルネガティブと呼ばれるタイプの乳がんは全体の10%から15%程度で、これは腫瘍細胞がホルモン受容体を持たず、HER2レベルも低いことを意味し、他のタイプの乳がんよりも治療が困難である。

共著者および他詳細は原文をご参照ください。

  • 監訳 小坂泰二郎(乳腺外科/JA長野厚生連 佐久総合病院 佐久医療センター)
  • 翻訳担当者 高橋多恵
  • 原文を見る
  • 原文掲載日 2024/02/14

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

 

乳がんに関連する記事

英国、BRCA陽性の進行乳がんに初の標的薬タラゾパリブの画像

英国、BRCA陽性の進行乳がんに初の標的薬タラゾパリブ

キャンサーリサーチUKタラゾパリブ(販売名:ターゼナ(Talzenna))が、英国国立医療技術評価機構(NICE)による推奨を受け、国民保健サービス(NHS)がBRCA遺伝子変異による...
乳がん術後3年以降にマンモグラフィの頻度を減らせる可能性の画像

乳がん術後3年以降にマンモグラフィの頻度を減らせる可能性

米国がん学会(AACR)  サンアントニオ乳癌シンポジウム(SABCS)50歳以上で、初期乳がんの根治手術から3年経過後マンモグラフィを受ける頻度を段階的に減らした女性が、毎年マンモグ...
早期乳がんにリボシクリブとホルモン療法の併用は転帰を改善:SABCSの画像

早期乳がんにリボシクリブとホルモン療法の併用は転帰を改善:SABCS

MDアンダーソンがんセンターアブストラクト:GA03-03

Ribociclib[リボシクリブ](販売名:Kisqali[キスカリ])とホルモン療法の併用による標的治療は、再発リスクのあ...
転移乳がんの標的となり得る融合RNAは、従来認識より多い可能性の画像

転移乳がんの標的となり得る融合RNAは、従来認識より多い可能性

米国がん学会(AACR)  サンアントニオ乳癌シンポジウム(SABCS)転移乳がんの大規模コホートにおける融合RNAの包括的プロファイリングにより、治療標的となりうる独特な融合変異が明...