2012/10/02号◆癌研究ハイライト「進行メラノーマには単剤療法より薬剤併用療法が効果的」「若年癌サバイバーの大きな障害は医療費」「化学療法後に腫瘍が消失した患者の多くが乳房切除術を受けている」

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NCI Cancer Bulletin2012年10月2日号(Volume 9 / Number 19)

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◇◆◇ 癌研究ハイライト ◇◆◇

・進行メラノーマには単剤療法より薬剤併用療法が効果的
若年癌サバイバーの大きな障害は医療費
・化学療法後に腫瘍が消失した患者の多くが乳房切除術を受けている

進行メラノーマには単剤療法より薬剤併用療法が効果的

2種類の分子標的薬、dabrafenib(ダブラフェニブ)とtrametinib(トラメチニブ)の併用療法はダブラフェニブの単剤療法よりも進行メラノーマ(悪性黒色腫)の進行を遅らせる可能性があることが、新たな研究によって示唆された。これらの結果は、9月29日に2012年欧州臨床腫瘍学会(European Society for Medical Oncology Congress: ESMO)にて発表されると同時にNew England Journal of Medicine誌に掲載され、黒色腫を対象とした分子標的薬は単剤使用より併用の方が効果的で毒性も低いとのエビデンスがさらに増えることになる。

ダブラフェニブとトラメチニブは、細胞情報伝達経路の異なる部分を標的とする。黒色腫では、BRAF V600と呼ばれる変異によってこの細胞情報伝達経路が変化している。BRAFの活性を阻害する単剤によって黒色腫は退縮するが、腫瘍は必然的に耐性を獲得する。研究者らは、標的の異なる別の薬剤を追加することで、耐性の獲得と疾患の進行を遅らせることができるのではないかと考えた。

ランダム化第2相試験の第1部では、85人を登録し、併用療法の安全性と試験で用いる用量を判定した。次に、3つの治療群(ダブラフェニブ単剤群、ダブラフェニブ+低用量トラメチニブ群、ダブラフェニブ+高用量トラメチニブ群)のいずれかに162人を無作為割付けした。ダブラフェニブ単剤で疾患の進行した患者には、高用量のトラメチニブを治療に追加することが認められた。

無増悪生存期間の中央値は、ダブラフェニブ+高用量トラメチニブ群で9.4カ月であったのに対し、ダブラフェニブ単剤群では5.8カ月であった。1年の追跡期間後、疾患進行がみられなかった患者は、ダブラフェニブ+高用量トラメチニブ群で41%であったのに対し、ダブラフェニブ単剤群では9%であった。

全体的に見て、高用量併用群の患者の79%が1年後に生存していた、と本試験の著者の1人である、オーストラリア黒色腫研究所のDr. Georgina Long氏はESMOの記者会見で説明した。Long氏は、「これまでわれわれは、転移性黒色腫で12カ月生存率がこれほど高かったのを見たことがない」と言った。

副作用は治療群によって異なり、いずれの群の患者でも、一時的または恒久的な減量が必要となることが多かった。また、二次性の皮膚有棘(ゆうきょく)細胞癌の発症率は、高用量併用群(7%)よりダブラフェニブ単剤群(19%)の方が高かったが、統計的有意差は認められなかった。発熱を来した患者は、高用量併用群で患者の大半(71%)であったの対し、ダブラフェニブ単剤群では少数(26%)であった。

本試験は、本剤の製造元であるグラクソ・スミスクライン社が資金提供を行った。2社の資金提供による併用療法の第3相試験が現在進行中である(参照12)。

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若年癌サバイバーの大きな障害は医療費

医療費に対する懸念から、多くの若年癌サバイバーが定期的な医療ケアを受けていないことが新たな研究で明らかになった。思春期小児および若年成人(AYA)の癌サバイバーは、医療保険への加入を考慮したとしても、費用の不安から診療を先送りする可能性が高いことが、9月24日付Cancer 誌で報告された。

調査結果はAYAの癌サバイバーが深刻な結果に直面する可能性を示唆していると、著者らは説明した。「癌治療後の数年間における医療ケアは、サバイバーの二次癌、不妊、心臓の状況など晩期副作用の検査ためにも特に重要」と報告書で述べた。

医療費負担適正化法により、若年成人が加入できる医療保険が大幅に増えることは役立つが、「AYAの癌サバイバーに対しては、治療完了後の医療ケアへのアクセスを優先的に改善する必要がある」ことを、本研究の結果が示唆していると研究者らは続けた。

本研究は、15~34歳の間に癌の診断と治療を受けた長期サバイバーに焦点をあてた。
調査の実施においては、米国疾病対策予防センター(CDC)の行動危険因子サーベイランスシステム(Behavioral Risk Factor Surveillance System)から、2009年のデータを利用した。このサーベイランスは、州ごとに毎月電話で実施される全米規模の健康調査。本研究には、20~39歳で癌診断から少なくとも5年経過しているAYAの癌サバイバー(研究対象)979人と、同じ年齢層で癌病歴のない約6万7000人(対照群)からの回答を含めた。

全体では、サバイバーの34%が医療費の問題で定期的な医療ケアを先送りにしていたことが明らかになった。これに対して対照群で医療ケアを先送りしたのは20%であった。医療費の問題が最も大きく影響した集団は、20歳から29歳の女性サバイバーであったと、ユタ州のハンツマンがんセンターのDr. Anne Kirchhoff氏らは報告した。

AYAの癌サバイバーはまた、健康状態が悪いか、良くも悪くもないと答える率が高く(対照群では9%に対し、AYAの癌サバイバーでは27%)、精神的、身体的苦痛を感じる頻度が高かった。サバイバーの40%は前年に定期健診を受けておらず、22%はかかりつけ医を持っていなかった。

参考文献
• 「思春期小児および若年成人の癌サバイバーの多くに慢性的な健康問題や不健康な生活習慣がみられる
• 「特別号:思春期小児および若年成人(AYA)癌

化学療法後に腫瘍が消失した患者の多くが乳房切除術を受けている

NeoALTTO試験データの再解析によれば、術前化学療法後に腫瘍が消失している乳癌患者の多くが、乳房温存療法ではなく、乳房切除術を受けている。この結果は9月30日に2012年欧州臨床腫瘍学会(ESMO)で発表された。

この第3相試験では、HER2陽性乳癌患者をトラスツズマブ群、ラパチニブ群、または両剤併用群に無作為に割付け、18週間、術前療法を行った。(両剤ともHER2受容体を標的とする。)最初の6週間の後、抗HER2療法にパクリタキセルによる化学療法を追加した。

429人のうち160人で、腫瘍が消失した(病理学的完全奏効)。しかし、病理学的完全奏効に達したかどうかは、その後に受ける手術の種類に影響を及ぼさなかった。3剤全部を用いた群では、単一の抗HER2剤+パクリタキセルを用いた群に比べ、腫瘍が消失した割合は2倍にのぼったが、それらの患者が乳房切除術より乳房温存術を受けるという傾向はみられなかった。

それよりも、手術の種類の最終的選択に対してより強い影響を及ぼすのは、化学療法前の腫瘍の特性であり、それは当初の腫瘍の大きさ、腫瘍がエストロゲン受容体を発現しているか、また最初に予定した手術の種類、腫瘍が多発性または多中心性であるかなどであった。

術前(ネオアジュバント)化学療法の主な目標の一つは、より大きい腫瘍を「縮小」して、より侵襲性の低い手術を可能にすることである。そのため、「特に術前化学療法で効果があった患者において、乳房温存術の役割に関し、明確なコンセンサスが求められる」とイタリア、ミラノのヨーロッパ癌研究所の試験責任医師であるDr. Carmen Criscitiello氏は語った。

「これは、最終的には、乳房温存術の割合を高め、多くの患者が乳房切除術のような厳しい治療を受けずにすむようになるだろう」と同氏は結論づけた。

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川瀬真紀、片瀬ケイ、鈴木久美子 訳
林 正樹(血液・腫瘍内科/敬愛会中頭病院) 監修 
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