2011/06/14号◆特集記事「メラノーマ患者に待望の新治療選択肢」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2011年6月14日号(Volume 8 / Number 12)

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◇◆◇ 特集記事 ◇◆◇

メラノーマ患者に待望の新治療選択肢

シカゴで先週開催の米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で報告された転移メラノーマ患者に対する待望の新治療に関する2件の第3相臨床試験結果は、集会の出席者の期待を裏切ることはなかった。

有効な治療選択肢がなかった患者にとって、分子標的薬ベムラフェニブ[vemurafenib]と免疫療法薬イピリムマブ(Yervoy)が価値ある新しい治療選択肢となることが今回の試験で確認された。

またメラノーマに関する別の小規模臨床試験における有望なデータでは、ベムラフェニブと同じく変異型BRAF遺伝子を標的とする薬剤による主たる副作用を抑える可能性のある方法が示された(ページの最後尾囲み記事を参照)。さらに別の実験段階の研究では、腫瘍に対しベムラフェニブおよびイピリムマブが奏効するかを予測できるかもしれないバイオマーカーが同定された。

数十年間ほとんど進展がなかったが、今回の新研究は待望の喜ばしい変化を象徴するものだ、とペンシルベニア大学アブラムソンがんセンターでメラノーマ研究の代表であるDr. Lynn Schuchter氏は話している。

「私たちの患者に、希望が得られたことを祝うときだと思います」と同氏は話す。

ベムラフェニブ:第3相臨床試験の早期結果でも、強力かつ素早い効果が示される

BRIM3というベムラフェニブの臨床試験は、転移性メラノーマと新規に診断され手術不可能であった患者675人を登録して行われ、患者はすべてBRAF変異のある腫瘍を有していた。患者はベムラフェニブまたは進行した患者の標準治療薬である化学療法薬ダカルバジンのいずれかを投与するグループに無作為に割り付けられた。初回予定していた3カ月時点の試験データ中間解析において、すでにベムラフェニブ投与患者ではダカルバジン投与患者と比べて統計学的に有意な死亡リスクの減少(63%)および病勢進行リスクの減少(74%)が認められた。

ベムラフェニブ投与患者では約半数に腫瘍の実質的な退縮が認められた一方、ダカルバジン投与患者では6%未満であった。ベムラフェニブの抗腫瘍効果が劇的であったため、ダカルバジン投与を受けていた患者もベムラフェニブ投与に切り替えたことから、本試験の全生存期間解析は難しくなったかもしれないと指摘する研究者もいる。

最初の中間解析の時点で「試験への新規参加を停止しました」と試験責任医師でスローンケタリング記念がんセンターのDr. Paul Chapman氏は説明している。「これほど試験早期での報告は前例のないこと…ですが、2本の生存曲線は非常に早くから離れていきました」。

本試験は全生存期間中央値を算出する時期にまだ達していない、とChapman氏は述べている。

今回のベムラフェニブの腫瘍奏効率は高いものの、第1相および第2相臨床試験の結果よりは明らかに低かった。ベムラフェニブ治療奏効患者は治療開始2カ月以内に奏効するのが典型であったが、Chapman氏は常にそうなるわけではないと指摘している。さらに短期間の追跡を行えば「奏効率も徐々に上がる」と同氏は確信している。

今回の結果ではまた、腫瘍が反応するピークは投与開始後約6カ月で、それ以降病勢がもとに戻ってしまうことが確認された。このため腫瘍の抵抗性を克服する治療法の同定が優先事項となるとChapman氏は述べた。

ベムラフェニブ投与患者での重篤な毒性の発現は10%未満で、同薬の主な副作用は関節痛、光線過敏、メラノーマ以外の皮膚癌の一つである原発性扁平上皮癌の発生(SCC、患者の18%に認める)などがある。SCC部位は皮膚科医にかかれば容易に切除でき、ベムラフェニブ試験で転移性SCCの症例は今のところないとChapman氏は述べた。

とは言え、今回の第3相臨床試験でベムラフェニブ投与を受けた患者の40%近くが、副作用のため一時的に治療を中断するか投与量を減らしている。

イピリムマブ:患者の一部で奏効期間が延長

イピリムマブ試験の結果はベムラフェニブ試験に比べれば成果ははるかに少ない。本試験では502人の転移メラノーマ患者を免疫療法薬イピリムマブとダカルバジンの併用群またはダカルバジン単独群のいずれかにランダムに割り付けた。全生存期間中央値はわずかに2カ月改善した(11.2カ月対9.1カ月)。

だがこの数字で話が終わりではない、と試験責任医師でスローンケタリング記念がんセンターのDr. Jedd Wolchok氏は話している。1年後、2年後、3年後の生存率はイピリムマブ投与群がいずれも優れている、とWolchok氏は指摘した。3年の時点でイピリムマブ群は21%の患者が生存していたのに対し、化学療法単独群では12%であった。

無増悪生存期間もイピリムマブ群に24%の改善が認められたが、腫瘍退縮については両群間に統計学的有意差はなかった。腫瘍反応を維持した期間はイピリムマブ群で19.3カ月、ダカルバジン群で8.1カ月であった。奏効期間と3年後生存率が大きく上回っていることは「免疫療法ならでは」とWolchok氏は話す。免疫療法は腫瘍退縮に働くよりも腫瘍増殖を食い止めるように働くためである。

重度の副作用がダカルバジン群(27%)に比べイピリムマブ群で約2倍(56%)発生した。イピリムマブ群での重度の下痢および大腸炎(大腸の腫脹)は以前の試験に比べ少なかったが、肝毒性が多くみられたとWolchok氏は説明した。これはダカルバジンと併用したことによるとみられるという。

どの治療法を、いつ

米国医薬食品局(FDA)が3月にイピリムマブを承認するまでは、進行したメラノーマに対する治療選択肢は基本的に2つしかなかった。大多数の患者で生存期間および症状をわずかに改善するダカルバジンと、毒性が強いもののごく一部の患者で長期の奏効が得られるインターロイキン-2である。

ベムラフェニブを共同開発したRoche社およびPlexxikon社の2社は先月FDAに承認申請書を提出し、年内の承認を期待している。イピリムマブ、ベムラフェニブともに転移性メラノーマ患者の治療選択肢となりうるが、重要な疑問も残る。BRAF変異のある患者には、どちらの治療を優先すべきか?

ベムラフェニブが急速に腫瘍を退縮させうることから、学会に参加した研究者の多くはこれらの患者に対しベムラフェニブを一次治療とすべきことを示唆した。

年次集会のプレナリーセッション(全体会合)の席上、ワシントン大学のDr. Kim A. Margolin氏はこれらの患者に対する使用パターンの一可能性を示した。「症状があり迅速な奏効を要する患者にはベムラフェニブが適切」とMargolin氏は述べた。「腫瘍による負担や症状が限定的で、継続的な利益が得られることが長期目標であり、即時に腫瘍を退縮させて精神的、肉体的な苦痛の軽減を図る必要のない患者については、イピリムマブを優先的に選択するつもりです」。

一方、臨床試験でダカルバジンとの併用により重大な肝臓の副作用がみられたことから、Margolin氏はイピリムマブを単独で用いるべきだろうとした。

Margolin氏の今後の患者への対応に関する発言に対してSchuchter氏は、「是非、臨床試験を行いたい」と速やかに答えた。腫瘍抵抗性のメカニズムならびに効果的な併用法を探る試験をもって、「患者の腫瘍を遺伝的異常の違いによって分類し、その後の適切な標的治療(の臨床試験)へ向けて歩むことができる」とSchuchter氏は続けて述べた。

「臨床試験が明らかに最優先事項です」とワシントン・ホスピタル・センターで主にメラノーマ患者の診療を行っている腫瘍医Dr. Sekwon Jang氏は同意した。「患者に臨床試験の選択肢を増やすべきです」とJang氏は話す。

実際、ASCO総会が始まる前日、イピリムマブのメーカーであるRoche社およびBristol-Myers Squibb社が臨床試験の共同実施に合意したところであった。

何らかの理由で臨床試験に参加できない患者については、BRAF変異があればベムラフェニブが一次治療になるだろうとSchuchter氏は述べた。

メラノーマ治療に関する教育集会では、UCLAジョンソン総合がんセンターで両薬の研究に携わっているDr. Antoni Ribas氏が「ベムラフェニブに比べ奏効率が低いからと言って、腫瘍医がイピリムマブの使用を控えないことを望みます」と発言。「イピリムマブが全生存期間に与える好影響は疑いの余地がありません」とRibas氏は話している。

臨床試験データに基づけば、かなりの割合の患者で長期的に客観的奏効が得られていることは明らかで、「治癒する可能性もあります」とRibas氏は続けた。

— Carmen Phillips

【右上段写真キャプション】 25,000人以上の医師、研究者、その他医療従事者が100以上の国から2011年米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会に出席した(画像提供:ASCO)[画像原文参照

【中段左写真キャプション】ベムラフェニブ投与前と2週間投与後の患者2人(画像提供:Plexxikon社)[画像原文参照

メラノーマ治療: 単独投与で効果、併用でさらに安全BRAF変異のある進行メラノーマ患者の治療には、BRAF阻害剤単独よりも他の標的治療薬との併用のほうが少なからず効果的で、単独投与に比べて一部の副作用が大幅に減少する、とASCO年次総会で報告がなされた。この報告は、BRAFを標的とする開発中の薬剤GSK436、ならびにBRAFと同じ分子シグナル伝達経路にあるMEKタンパク質を標的とする薬剤GSK212を、段階的な用量増加を行い投与する第1相臨床試験に基づいている。

第1相の初期臨床試験では、両薬ともにBRAF変異のある進行メラノーマ患者において強力な抗腫瘍効果が得られた一方、副作用もあり、GSK436投与患者では扁平上皮癌の発生、GSK212投与患者では座瘡様発疹などが認められた。

双方の同時投与を受けた患者109人のうち扁平上皮癌が発生したのは1人のみで、皮膚の発疹も大きく減少したとテネシー州ナッシュビルのサラキャノン研究所のDr. Jeffrey Infante氏が報告した。副作用により投与量を減らした事例はわずかだったとも述べている。

BRAF阻害剤の投与を受けたことがない患者71人に両薬を同時投与すると、投与量に応じ55~77%に病勢安定または腫瘍の退縮が認められた(完全奏効した5人含む)。

「BRAF阻害剤単独投与の効果改善にあたっては、まずMEK阻害剤を追加することが理にかなった方法の一つといえます」とInfante氏は述べた。

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橋本 仁  訳
田中 謙太郎(呼吸器・腫瘍内科、免疫/テキサス大学MDアンダーソンがんセンター免疫学部門) 監修 
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