免疫療法が膠芽腫に奏効

本記事は2018年6月6日に更新された。

免疫系に腫瘍を攻撃させることで作用するがん治療は、次第に多くのがんに対して有効であることが証明されてきている。しかし、現時点における顕著な例外の一つは、成人で最も頻度が高い膠芽腫を含む脳腫瘍である。

数十年にわたり膠芽腫に対する治療法開発の努力が続いているとはいえ、患者の生存期間を著しく延長するものは未だない。実際、この種の脳腫瘍患者の大多数の生存期間は2年未満である。

膠芽腫の研究者らは、他の治療法が成功しないなかで、免疫療法が奏効する可能性があるのではないかと期待している。非臨床試験やヒトを対象とする臨床試験で、あらゆる免疫療法の研究が行われている。

残念なことだが、膠芽腫患者に対する早期試験で極めて有望とされた免疫療法のいくつかは、大規模第3相試験では奏効しなかった。とはいえ、こうした失敗ですら明るい材料になるとMichael Lim医師(ジョンズ・ホプキンズ大学シドニー・キンメル総合がんセンター脳腫瘍免疫療法プログラムのディレクター)は述べた。

「これまで第2相試験に長年苦労しましたが、私たちが膠芽腫における(免疫療法の)第3相試験を数件実施しているという事実が、まさに明るい兆候です」とLim氏は述べた。

研究者らは明らかに、免疫療法が膠芽腫に対する有効な治療法になるという可能性に関して、楽観視している。しかし同時に、実験室内や臨床現場での研究を介して、「脳が、あるいは膠芽腫自体が持つ特有の厄介な難題をどのようにして克服するのか」という重要な疑問を探求している。

「私たちは、腫瘍学の歴史において治療が最も困難な疾患の1つであり続けるものについて話しています」とMark Gilbert医師(NCIがん研究センター神経腫瘍学部門長)は述べ、「膠芽腫に対する免疫療法の開発と評価の試みは全く新しい領域です」と続けた。

最初から多い難題

脳腫瘍の治療に関して、全てのがん治療は極めて手強い障壁である血液脳関門を乗り越える必要がある。

この密集した特殊な細胞の層には、血液中のウイルスや毒素などの有害物質から脳を守るという極めて重要な役割がある。とはいえ、こうした防護壁は有用な物質と有害な物質を識別しないので、抗がん剤の腫瘍への到達を妨げる可能性もある。

そのうえ、「どのようにして免疫系が脳内で機能するのかという問題があります」とLim氏は述べ、「私たちは現在、脳における免疫環境は他の器官のものと著しく異なることを承知しています」と解説した。

実例として、脳は他の器官と異なる免疫細胞が混在しているようである (様々な種類の免疫細胞が多数存在し、その各々で免疫応答が異なる)。「いくつかの理由で脳内の免疫細胞の構成は、他の器官内の免疫細胞が起こす方法では、抗腫瘍免疫応答を容易に起こしません」とLim氏は続けた。

膠芽腫腫瘍は特に、免疫応答を巧妙に抑制もするようである。実例として、最近発表された研究で、膠芽腫腫瘍内や周囲の免疫細胞の多数は「疲弊する」傾向にある、即ち、免疫細胞の活性化に必要な分子機序が著しく抑制されることが分かった。

研究から、ステロイド剤は膠芽腫患者における致命的になりうる脳浮腫の抑制や治療関連副作用の管理に頻用されるが、免疫応答を抑制する可能性があることも分かった。

その結果、免疫療法に関する臨床試験は最初から「不利な立場にある」とGilbert氏は述べ、Checkmate 143試験という膠芽腫患者に対する免疫チェックポイント阻害剤に関する史上初の第3相試験に関して言及した。

Checkmate 143試験の結果から、免疫チェックポイント阻害剤ニボルマブ(オプジーボ点滴静注)は分子標的薬ベバシズマブ(アバスチン点滴静注用)単剤療法と比較して、進行膠芽腫患者の全生存期間を延長できないことが分かった。とはいえ、「ニボルマブ投与患者の約40%はステロイド剤投与も受けており、このことはステロイド剤が(抗腫瘍)免疫応答を抑制している可能性を意味します」とGilbert氏は指摘した。

免疫療法薬が膠芽腫腫瘍に対して不利に作用している可能性の評価すら困難である。MRIなどの標準的な画像診断法は、腫瘍が治療に反応して増殖または縮小するかの評価に使用されるとはいえ、脳腫瘍の評価には不適切かもしれないとGilbert氏は解説した。

小規模の臨床試験数件が示している通り、こうした画像診断法では、治療しているにもかかわらず増殖している腫瘍と免疫応答の活性化による炎症が全体に生じている腫瘍(偽増悪)の鑑別が極めて困難である。後者の症例では、腫瘍が実際に治療に反応している可能性がある患者において、治療が奏効する前に中断される可能性がある。

Hideho Okada医学博士(カリフォルニア大学脳腫瘍免疫療法センター長、サンフランシスコ市)によると、全てのこうした事柄は重要かつおそらく正しく評価されないという問題点を浮き彫りにしている。「必ずしも、他のがんに対して使用されるのと同種の治療法を脳腫瘍に対して使用し、同様に作用すると期待できるとは限りません」とOkada氏は述べた。

免疫チェックポイント阻害剤を使用する多大な努力

おそらく驚くほどのことではないが、免疫チェックポイント阻害剤は膠芽腫において最も広範に試されている免疫療法である。免疫チェックポイント阻害剤が米国食品医薬品局(FDA)により、多数のがん種に対して承認されている。また、Checkmate 143試験が不本意な結果を出したとはいえ、こうした薬剤の多くが膠芽腫患者を対象とする早期・後期臨床試験で試されている。

がんに対する免疫チェックポイント阻害剤の適応が拡大し続けるとはいえ、大部分のがんではこうした薬剤に反応する患者の比率は少ない。しかし、様々ながん種の患者を対象とする免疫チェックポイント阻害剤に関する臨床試験を詳細に解析することで、こうした薬剤に反応する可能性が最も高い患者を示すバイオマーカー候補が特定されている。

「最終的には、膠芽腫の異なる免疫療法において同様の過程が行われる可能性があります。(現行の臨床試験から)得られるであろう事柄の1つに、治療の奏効を予測できるバイオマーカーがあるといいですね」とJohn Sampson医学博士(デューク大学医療センター神経外科部門長)は述べた。

他のがんと同様に膠芽腫においても、免疫チェックポイント阻害剤+別の種類の免疫療法を含む他の治療法の併用療法が試されている。また、こうした免疫療法併用療法が免疫チェックポイント阻害剤を膠芽腫に作用させるために必要なことであるという動物実験による科学的根拠がいくつか存在する。

実例として、こうした科学的根拠に基づいて、NCI神経腫瘍学部門はヒトに対する免疫療法併用療法の探索を目的とする早期臨床試験を数件開始している。

標準的な画像診断法を使用して、こうした臨床試験の参加患者の治療反応性を監視することになるとGilbert氏は述べた。また、腫瘍反応を腫瘍増悪と誤診しない可能性を減少させるために、さらなる対策をとることになる。即ち、画像診断上で腫瘍増悪らしきものが実際に抗腫瘍免疫応答による炎症かどうかをより正確に評価するために、リスクを伴うとはいえ、外科手術を更に実施することになるとGilbert氏は解説した。

ワクチンとウイルス

膠芽腫に対する治療法候補として検討中の別の免疫療法が治療用ワクチン、即ち、既存疾患の治療用ワクチンである。集中的に検討されている治療用ワクチンの1つは、樹状細胞(主な役割は免疫応答の調整)という免疫細胞が使用されるとLim氏は解説した。

開発中の樹状細胞ワクチンは特に、患者自身の細胞を使用して、患者毎に製造される。

最初の治療用ワクチンは膠芽腫患者を対象とする大規模第3相試験まで進んだが、標準治療と比較しても全生存期間を延長する効果はなかった。この治療用ワクチンrindopepimutは、免疫系がEGFR変異型タンパク質であるEGFRvIII(腫瘍増悪を促す)を発現する細胞を攻撃するよう賦活した。膠芽腫細胞はEGFRvIIIを過剰発現することが多い。

別のワクチンDCVax-Lは現在、切除された膠芽腫患者を対象とする第3相試験で検討されている。DCVax-Lは樹状細胞ワクチンで、免疫細胞の一種である樹状細胞を使用する。具体的には樹状細胞を患者から採取し、腫瘍上の多数のタンパク質、即ち抗原に対する免疫応答を引き起こすよう遺伝子改変する。

この臨床試験由来の予備データが最近発表された。しかし、この臨床試験の総参加患者に関する全生存期間のデータだけが記載され、患者群ごとの全生存期間のデータは記載されなかった。DCVax-L を製造し、この臨床試験に資金を提供したNorthwest Biotherapeutics社の声明によると、この臨床試験から一連の別のデータを収集しているところである。

Sampson氏らはrindopepimutを開発後、サイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV、40歳以上の人々で極めて高頻度で認められるウイルス)感染により誘導される抗原を発現する腫瘍細胞を標的とするよう設計された樹状細胞ワクチンを検証している。理由はまだ不明だが、健康な脳細胞と違って膠芽腫細胞はこうしたCMV抗原を発現する傾向があるとSampson氏は述べた。

Sampson氏らは膠芽腫患者でワクチンを探索する小規模臨床試験数件から有望な結果を発表した。「臨床試験を連続して2、3件行ったところ、一部の患者で治療後の生存期間が2~5年延長しました。これは励みになります」とSampson氏は述べた。

Sampson氏はこの治療用ワクチンを大規模臨床試験で使用するために、小規模企業を設立した。

Okada氏は特に別種の治療法である腫瘍溶解性ウイルス療法の可能性に期待しており、また、こうしたウイルスは膠芽腫患者を対象とする小規模臨床試験でも試されていると述べた。

当初は、腫瘍溶解性ウイルスはがん細胞に直接感染し、殺傷させる治療法として開発された。しかし、現在では、こうしたウイルスもワクチンと同様に、即ち、抗腫瘍免疫応答の賦活化により作用すると考えられる。

最近の臨床試験では、腫瘍溶解性ウイルスDNX-2401を原発腫瘍に直接接種された進行膠芽腫患者数人で腫瘍が95%以上縮小し、5人が治療後3年以上生存した。

2018年2月、Okada氏が開催を支援した脳腫瘍に対する免疫療法に関する会議で、いくつかの研究グループが腫瘍溶解性ウイルスに関する小規模臨床試験由来の同様の結果を発表した。こうした早期臨床試験で、膠芽腫患者の約20%が治療後3年以上も生存した。

「良好な長期生存がいくつか見え始めています」とOkada氏は述べた。

また、こうした早期臨床試験由来の他の結果は、こうしたウイルスが実際ある程度には抗腫瘍免疫応答の賦活化により作用していることを示すようである。こうした治療に反応した患者において、腫瘍検体の解析から治療前の腫瘍内の免疫細胞の量が極めて少ない(「免疫原性の低い」腫瘍)状態から治療後の免疫細胞の量が極めて多い状態(「免疫原性の高い」腫瘍)に移行したことが示されたとOkada氏は述べた。

「明らかに、一部のこうした治療法は免疫原性の低い腫瘍の免疫環境を免疫原性の高い環境に変えています」とOkada氏は述べた。

CAR-T細胞、抗原の探索

樹状細胞ワクチンと同様に、膠芽腫に対して試されている別種の免疫療法がキメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor:CAR)発現T細胞(CAR-T細胞)療法で、複雑な遺伝子改変工程も伴う。

CAR-T細胞療法では、T細胞を患者から採取し、腫瘍細胞表面上の特異抗原と結合可能な特異的受容体をT細胞表面上に産生するよう施設内で遺伝子改変する。次に、遺伝子改変T細胞を施設内で培養し、通常1回だけ患者に投与する。

現在までは、膠芽腫においてCAR-T細胞療法を使用する研究の大半では、EGFRvIIIを認識するよう遺伝子改変されたCAR-T細胞が使用されている。

現在のところ、EGFRvIIIを標的とするCAR-T細胞に関する臨床試験から、治療による膠芽腫腫瘍の縮小や生存期間の延長が示されていない。しかし、治療が脳内の免疫応答を引き起こす可能性があるというこうした臨床試験から得られた科学的根拠がいくつか存在するとOkada氏は述べた。

次の段階はEGFRvIIIを標的とするCAR-T細胞に対する反応を高めて、腫瘍細胞を殺傷する方法を発見するだろうとOkada氏は述べた。

様々な抗原を標的とするCAR-T細胞も検討中である。また、腫瘍細胞上の単一抗原のみを認識するCAR-T細胞は役不足と一部の研究グループは考える。

実例として、ベイラー医科大学の研究者らは「二重特異性」CAR T細胞を、また、つい最近「三重特異性」のものを開発した。これは、同時に腫瘍細胞上の2種類または3種類の抗原をそれぞれ標的とする。

開発された二重特異性CAR-T細胞の1つでは、本来CMV感染細胞に強固に接着するT細胞が使用される。また、膠芽腫細胞の約80%はHER2タンパク質(乳がんにおけるその役割に関して最もよく知られているであろう)を過剰発現するので、T細胞はHER2と結合する受容体を発現するよう遺伝子改変も受ける。三重特異性T細胞は、HER2ならびに膠芽腫細胞において高頻度で認められる他の2種類の抗原IL13Rα2とEphA2を標的とするよう遺伝子改変される。

Nabil Ahmed医師(二重および三重特異性CAR-T細胞の開発を指揮、ベイラー医科大学)らはこうした多重特異性CAR-T細胞を使用するヒトを対象とする臨床試験を進めているとAhmed氏は述べた。

慎重な臨床試験から答えを得る

免疫療法には膠芽腫の治療法において将来があるかどうか、もしあるとしても、どの程度の将来性なのかは現時点では不明である、とこの分野の研究者の間で意見が一致するようである。

免疫療法の進展には原発性脳腫瘍が引き起こす特有の難題を明らかにする極めて慎重な臨床試験が必須であると確信するとGilbert氏は述べた。こうした進展には時間を要し、かつ、初期の研究に基づいて事を進め、そこから学ぶ必要があることにOkada氏は力説した。

実例として、Okada氏は、神経腫瘍学者であるOkada氏らが脳腫瘍患者における免疫療法に対する反応の評価を向上するために開発したガイドラインシステムを挙げた。このiRANOと言うシステムは、脳腫瘍患者における免疫療法に対する反応の評価に関する既存の方法の限界の一部に対処しようとする。

「使用中の免疫療法の種類に対する基準の作成などの研究がさらに実施されるにつれて、こうした基準が時間と共に変化する可能性があります。(あらゆる免疫療法に対して)普遍的で単純な基準など存在しないでしょう」とOkada氏は述べた。

この分野が向かうところをより詳しく理解するためには時間、努力、および忍耐を要することにSampson氏は同意した。

「(免疫療法が)作用しないことを意味する事柄が膠芽腫に関してあるのでしょうか。私はそう思いません。しかし、それに答える唯一の方法は、解明しようとし続けることです」とSampson氏は述べた。

翻訳担当者 渡邊 岳

監修 西川 亮(脳腫瘍/埼玉医科大学国際医療センター)

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