OncoLog2014年2月号◆In Brief「PKM2が膠芽腫の予後マーカーとなる可能性」

MDアンダーソン OncoLog 2014年2月号(Volume 59 / Number 2)

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PKM2が膠芽細胞腫の予後マーカーとなる可能性

ピルビン酸キナーゼM2(PKM2)は固形腫瘍で過剰発現されることで知られるタンパク質キナーゼである。このPKM2が、癌細胞分裂の重要な要素であり、膠芽腫の予後マーカーおよび治療標的になる可能性が特定された。

テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンターの神経腫瘍科教授であるZhimin Lu医学博士が率いる研究で、研究者らはPKM2が重要な細胞分裂機構と直接相互作用し、膠芽腫細胞の増殖の調節に欠かせないことを発見した。この知見は、膠芽腫の腫瘍形成におけるPKM2の役割を明確にした。

PKM2は腫瘍、特に上皮細胞増殖因子受容体(EGFR)陽性腫瘍の代謝におけるその役割から、癌遺伝子と見なされている。しかしより最近の研究で、PKM2が有するその他の機能も特定された。Lu医師のグループは、PKM2が有糸分裂において、何らかの役割を担っているかどうかを特定すべく取り組んだ。

有糸分裂において、細胞はいくつかのチェックポイントを通過する。このうち、最も厳格なのが紡錘体の集合チェックポイントである。紡錘体は微小管の束で、娘細胞と染色体に結合することで、各染色体の1つのコピーを娘細胞に分配するのを助けている。この結合の主要な構成要素が、Bub3-Bubl-Blinkinタンパク質複合体である。

Lu医師グループは、PKM2がBub3をリン酸化すること,そしてBub3のリン酸化がBub3-Bubl1複合体がBlinkinに結合し紡錘体の集合に加わるのに不可欠であることを発見した。研究者らはまた、PKM2の減少が細胞分裂の不良を起こし、複数の癌細胞株でアポトーシス(細胞自然死)率の上昇をもたらすことを発見した。「PKM2の減少により、分裂後の新たな二つの細胞でDNAの不均等分布が起き、細胞の自然死、すなわちアポトーシスの引き金となりました」と、Lu医師は話した。

研究者が膠芽腫の組織標本ライブラリを分析した際、腫瘍のBub3のリン酸化レベルが最も低かった(PKM2活性が低いことを示している)患者は、Bub3リン酸化レベルが最高だった患者と比較して、生存期間中央値が有意に長かった。この研究結果は、PKM2タンパク質キナーゼ活性が、膠芽腫の予後マーカーとなる可能性を示唆している。

「癌の増殖と生存におけるPKM2のこの新たな、追加的役割の発見で、PKM2が過剰発現している腫瘍の診断および治療に向けた分子的基盤を得る可能性があります」と、Zhimin Lu 医師は述べた。本研究結果は、1月にMolecular Cell誌で発表された。

【中段引用部分訳】
癌の増殖と生存におけるPKM2のこの新たな、追加的役割の発見で、PKM2が過剰発現している腫瘍の診断および治療に向けた分子的基盤を得る可能性があります。---Zhimin Lu 医師

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翻訳担当者 片瀬ケイ

監修 西川 亮(脳・脊髄腫瘍/埼玉医科大学国際医療センター)

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