ESMO専門家の合意声明: 腫瘍学領域で実践的なガイダンスを提供する新リソース

ESMO Annals of Oncology誌プレスリリース

ESMO(腫瘍内科の代表的専門組織)は、現在のエビデンスでは臨床的な意思決定に十分な情報を提供できないためにガイドラインの対象外であるがん診療の領域において、医師を導くための新たな一連のリソースを発表する。今月Annals of Oncology誌に掲載された 「EGFR変異陽性非小細胞肺がんのマネージメントに関するESMO専門家によるコンセンサス・ステートメント(ESMO Expert Consensus Statements on the Management of EGFR Mutant Non-Small Cell Lung Cancer (1)」では、ESMOの現在の取り組みが示され、第一線の腫瘍専門医を結集して、がん治療において議論されている問題や専門医が抱いている重大な疑問点を明らかにしている。

「がんの分子的理解の進展とかつてない数の新薬が臨床に導入されたことにより、がん治療の進歩が加速していますが、必然的にエビデンスとのギャップが生じており、医師として特定の症例にどのように対処することがベストなのか疑問を感じるようになっています」と、ライプツィヒ大学(ドイツ)教授でありESMO教育ディレクターのFlorian Lordick氏は語った。「ESMO Expert Consensus Statements は、より確かなデータが入手可能になるまでの間、このようなギャップにある臨床医に指針を提供するもので、医師への継続的な教育とすべてのがん患者のために質の高い治療へのアクセスを確保するというESMOの取り組みに沿ったものです」。

今回発表された論文は、「COVID-19流行時のがん患者管理」(cancer patient management during the COVID-19 pandemic)の指針とするためにESMOが開発した修正手法に従い、2021年、ESMOにより行われたEGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん(NSCLC)に関する合意形成の結果を紹介しています。このバーチャル会議には、肺がんに関する34人の国際的な専門家からなる多領域の専門委員が参加し、EGFR陽性患者支援者であるJill Feldman氏が述べた患者のニーズや展望など、この腫瘍サブタイプの管理における疑問について率直に意見が交わされた。

この15年間にEGFR標的療法が登場したことで、非小細胞肺がんの約15%を占める疾患の治療状況は大きく変化したが、最適なアプローチが未だ不明な領域もある。例えば、EGFR以外にも標的変異を有する患者の治療法を選択する場合である。 ESMO最高医学責任者および論文の共著者である George Pentheroudakis 教授は「エビデンスに基づくESMO臨床実践ガイドラインでは、現在十分な対応ができない状況にいる腫瘍医の意思決定を支援するために実用的な知見を得る目的で、この問題やエビデンスが限られているまたは矛盾しているその他の問題について検討しました」と、この研究の重要性を述べている。

組織およびバイオマーカー解析の役割、早期および転移性疾患に対する治療およびフォローアップのアプローチ、さらに将来的に特定の分子標的薬,あるいはそれ以外の薬剤の臨床試験を開始する必要性を網羅した、合計29のコンセンサスステートメント(合意声明)が作成された。「各ステートメントには、パネルディスカッションで得られた知見と、それを裏付けるエビデンスの要約を含む合意が得られた推奨事項が添えられているため、医師が個々の患者の診療にどう反映させるかを検討するための詳細なイメージを提供しています」とPentheroudakis氏は付け加えた。

Pentheroudakis氏は、がんサバイバーシップケアと研究、免疫療法や分子標的療法と同時に放射線療法を受けたがん患者の管理の最適化、妊娠に関連する乳がんの管理など、不確実性が存在するがん治療の他の分野に、こうした方法論を適用する努力がすでに行われていることを指摘し、次のように結論づけている。「この文書は、EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん領域における今後の治療ステップの参照となるものです。EGFR変異を有する病態において、特定の変異に対する新薬が承認され、初回治療の最適化および耐性へのより良い対処法を積極的に探索することによって新たな展望が生まれています。今後、ESMOは、がん専門医そして患者が必要としているその他の差し迫った問題に対して、可能な限り最善の答えを提供するために、一貫して取り組んでまいります」。

参考文献

  1. A. Passaro, N. Leighl, F. Blackhall, S. Popat, K. Kerr, M.J. Ahn, M.E. Arcila, O. Arrieta, D. Planchard, F. de Marinis, A.M. Dingemans, R. Dziadziuszko, C. Faivre-Finn, J. Feldman, E. Felip, G. Curigliano, R. Herbst, P.A. Jänne, T. John, T. Mitsudomi, T. Mok, N. Normanno, L. Paz-Ares, S. Ramalingam, L. Sequist, J. Vansteenkiste, I.I. Wistuba, J. Wolf, Y.L. Wu, S.R. Yang, J.C.H. Yang, Y. Yatabe, G. Pentheroudakis and S. Peters. ESMO expert consensus statements on the management of EGFR mutant Non-Small Cell Lung Cancer. https://doi.org/10.1016/j.annonc.2022.02.003

翻訳担当者 青山真佐枝

監修 加藤恭郎(緩和医療、消化器外科、栄養管理、医療用手袋アレルギー/天理よろづ相談所病院 緩和ケア)

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