非小細胞肺がんの染色体異数性から免疫治療薬への反応を予測できる可能性

・腫瘍の異数性が低レベルである患者は、免疫チェックポイント阻害薬治療の転帰が良好な場合が多いことをダナファーバーの研究者らが発見

がん細胞の異数性(染色体数の異常)の程度が低い非小細胞肺がん(NSCLC)患者は、その程度が高い患者に比べて免疫チェックポイント阻害薬によく反応する傾向にあることが、ダナファーバーがん研究所の研究者らにより米国がん学会(AACR)バーチャル年次総会2021で発表される。

免疫チェックポイント阻害薬で治療された非小細胞肺がん患者数百人のデータを解析したところ、がんが縮小した患者では、病状が安定または悪化した患者に比べて腫瘍細胞の異数性の程度が低い傾向にあることが発見された。研究者らによれば、この発見は、患者に最も効果的な治療法を決定するのに異数性検査が重要な役割を果たすかもしれないことを示唆しているという。

「異数性は非小細胞肺がんではよくみられる特徴であり、免疫シグナリングの変化と関連しています。しかし、がんの異数性の機能的意義はまだ明らかになっていません」と、研究成果を発表するダナファーバーのJoão Alessi医師は述べた。「免疫チェックポイント阻害薬に最も反応しやすい患者を予測するためのバイオマーカーがあるにもかかわらず実際に反応する患者は50%未満であることは、より良い新たなマーカーが必要であることを示しています」。

非小細胞肺がん治療に用いられる免疫チェックポイント阻害薬は、免疫系のT細胞が腫瘍細胞を攻撃するのを妨げるPD-1またはPD-L1タンパク質を標的とする。免疫チェックポイント阻害薬はこれらのタンパク質を阻害することにより、T細胞によるがん細胞攻撃が続けられるようにする。PD-1とPD-L1が免疫系によるがん細胞への攻撃を妨げているというダナファーバーの研究者らの発見は、新世代の免疫チェックポイント阻害薬開発の基礎となった。

本研究では、Alessi医師らは、PD-1またはPD-L1阻害薬で治療された279人の非小細胞がん患者のデータを解析した。それぞれの腫瘍には、細胞内の染色体数変化に応じて0から39までの異数性スコアが割り当てられた。研究者らはこの情報を用いて、異数性スコアが治療の有効性と関連するかどうかを検証した。

その結果、免疫チェックポイント阻害薬に対して完全奏効または部分奏効(腫瘍が完全または部分的に縮小)した患者は、病勢が安定または進行した患者に比べて異数性スコアが有意に低いことが見出された。がんの異数性スコアが2以下の患者は、スコアが2より大きい患者と比べて、奏効率が有意に高く(43%対19.8%)、無増悪生存期間が有意に長く(6.2カ月対2.9カ月)、全生存期間が有意に長かった(19.8カ月対13.8カ月)。

パフォーマンス・ステータス(全身状態の評価法)、発がんドライバー変異、PD-L1発現、腫瘍変異負数、治療方針といった他の因子を調整した後も、異数性スコアは無増悪生存期間および全生存期間と有意に関連していた。これらの調整をしても、異数性スコアが2以下の患者は、スコアが2より大きい患者と比べて、無増悪生存期間と全生存期間が改善する可能性がそれぞれ28%、36%高かった 。

Alessi医師らは、異数性スコアの低い腫瘍ではCD8、Foxp3、PD-1陽性免疫細胞の数が有意に多いことも見出した。これらの炎症性マーカーの存在は、低異数性の腫瘍が高異数性の腫瘍に比べて免疫系の攻撃を受けやすいことを示しており、これが免疫チェックポイント阻害薬に対する高い反応性に寄与している可能性がある。異数性スコアはPD-L1発現や腫瘍変異負数とは関連しておらず、異数性スコアが独立した効果予測バイオマーカーとして機能する可能性が示唆された。

「私たちの報告は、異数性が治療反応性とどのように相関するかを理解するうえで大きな前進をもたらし、異数性が非小細胞肺がん患者に対する免疫療法薬の有効性を示すバイオマーカーとなり得ることを示します」と、Alessi医師は述べる。「異数性スコアを分子学的な検査に組み込めば、治療法の決定や臨床試験のデザインに役立つでしょう」。

Alessi医師はこの研究成果を、4月10日(土)午後2時35分(米国東部標準時)から開催されるミニシンポジウム・セッション「Clinical Research Excluding Trials topic track」で発表する予定である(アブストラクト26)。

翻訳担当者 伊藤彰

監修 後藤悌(呼吸器内科/国立がん研究センター)

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