小細胞肺がんにおける第4のサブタイプと治療の個別化

増幅免疫細胞集団が特徴のこれまでに知られていなかった第4のタイプ

遺伝子発現に基づき、小細胞肺がん(SCLC)を固有の4つのタイプに分類する包括的な枠組みを初めて構築し、タイプごとに潜在的な治療標的を特定したことを、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らが1月21日、Cancer Cell誌に発表した。

小細胞肺がん(SCLC)は急速で活発に増殖し治療抵抗性のあることが知られており、予後不良を引き起こす。近年、免疫療法や標的治療が進歩しているため非小細胞肺がん(NSCLC)の生存率が改善している一方、SCLCの進歩は限定的である。

「小細胞肺がんは、腫瘍の挙動が非常に異なるが顕微鏡ではすべて類似しているように見えるため、数十年にわたり単一疾患として治療されてきました」と胸部/頭頸部腫瘍内科学科(Thoracic/Head & Neck Medical Oncology)の准教授で本研究の統括著者であるLauren Averett Byers医師は語る。「われわれの研究は、小細胞肺がんの4つの主要なグループを定義する斬新で新しいシステムを提供し、二番目に多い種類の肺がんの個別化医療への道を初めて提供しています」。

小細胞肺がん(SCLC)の主な4タイプ

特定の遺伝子のスイッチがオンになっているかオフになっているかを示す転写因子に基づき、SCLCでは主に3つの分類がこれまでの研究で明らかになっていたが、これら3分類のいずれにも適合しなかったSCLC腫瘍が多数ある。Byers医師のチームは、適合しなかった残りの腫瘍に仮説を適用しようとするのではなく、偏りのない生命情報学的な手法(多数のSCLCの腫瘍サンプルから得たデータの実証)を採用した。この方法により、これまでに確認された3つのグループ(A、N、P)に加え、これまで認識されていなかった固有の免疫環境を持つ第4のグループ(I)を裏付ける1,300遺伝子のシグネチャーが得られた。

最初の3つのグループはASCL1(SCLC-A)、NEROD1(SCLC-N)およびPOU2F3(SCLC-P)遺伝子の活性化により定義される。第4のタイプであるSCLC-Iは、CD8陽性細胞傷害性T細胞の存在を示す有意に高いレベルの遺伝子など、複数の免疫遺伝子が高頻度に発現する炎症性遺伝子のシグネチャーが特徴である。

「炎症のグループは独特な生態や環境を持っており、免疫療法により反応しやすい傾向があることをわれわれの論文で明らかにしています」とByers医師は語る。「どの患者に免疫療法の効果が大きいかを予測する小細胞肺がんの有効なバイオマーカーはこれまで存在しなかったため、炎症のグループを特定することは非常に重要である」。

最近の臨床試験に基づき、免疫療法は小細胞肺がん(SCLC)の標準治療の一部となっている。しかし、免疫チェックポイント阻害薬を使用する臨床試験を含むSCLCの臨床試験はすべて十分な成功に至っていない。さまざまな機序の薬剤がそれぞれ特定のタイプに対し、より効果的であると研究結果で示唆されているため、理由を説明するのに本研究が役に立つ可能性がある。例えば、本研究のサンプルはSCLC-Iが免疫チェックポイント阻害剤に対し最も感受性が高く、SCLC-AはBCL2阻害剤に対し、SCLC-Nはオーロラキナーゼ阻害剤に対し、SCLC-PはPARP阻害剤に対し高い感受性を示した。

「現在、免疫療法と化学療法はすべての進行小細胞肺がん患者の治療の中核となっているが、患者全員が同じ効果を得られるわけではありません」と胸部/頭頸部腫瘍内科学科(Thoracic/Head & Neck Medical Oncology)の准教授で本研究の筆頭著者であるCarl Gay医学博士は語る。「今回の結果は、その他3つのグループの免疫反応を活性化する可能性のある併用療法とは別に、微小環境が非常に異なる炎症のグループに特化した免疫療法のアプローチを考える機会を提供するでしょう」。

研究方法および分析

研究チームは初めに、腫瘍を外科的に切除した小細胞肺がん(SCLC)患者81人から得た既発表データに非負値行列因子分解を適用して4つのグループを特定した。このデータセットに含まれる患者のほとんどが非典型的な早期の疾患を有していた。SCLCは非常に悪性度が高いため進行期に診断されることがほとんどである。Byers医師のチームは、後期病期の4つのサブタイプを検証するため、進行SCLCの現在の標準治療を確立し、これまでに入手可能な最大のSCLCデータセットである第3相IMpower133臨床試験に参加したSCLC患者276人のデータも分析した。

「より典型的と思われる患者の大規模なデータセットを調査すると、われわれが特定した新規炎症群を含め、再び4つの主なグループが非常にはっきりと現われました」とByers医師は語る。「また、完全な1,300遺伝子のパネルを使用する必要がないことをわれわれは明らかにしました。より迅速かつ容易にSCLC腫瘍を分類するためにわれわれが臨床への応用に取り組んでいる免疫組織化学検査を開発しました」。

SCLCの既知の課題の一つは初期反応後であってもしばしば治療抵抗性を示すことである。分類タイプの切り替えが治療抵抗性の原因となるかどうかを判断するため、著者らは単一細胞RNAシーケンスを用いて患者由来の一連のSCLCモデルにおける腫瘍の進化を評価した。化学療法を受けた後にSCLC-AがSCLC-Iに切り替わる傾向があり、これが治療抵抗性の原因である可能性がこの研究で示唆されている。

小細胞肺がん(SCLC)の個別化治療への道

特に各グループの治療上の脆弱性について、今後の臨床試験でSCLCサブタイプの枠組みを利用することは本試験の結果を検証していくうえで必要である。

「われわれは臨床試験の各グループに対しより効果的な戦略を開発し、グループごとに生態が異なり最適な薬剤標的があることが考慮できる」とByers医師は語る。「分野として小細胞肺がんは、バイオマーカーと個別化治療の再興である非小細胞肺がんに比べて約15年遅れている。この遅れはどの薬剤がどの患者に最も効果があるのかを理解するうえで大きな一歩となり、小細胞肺がんに対する個別化アプローチへの道筋を示します」。

全共著者の一覧と開示は論文に記載。この研究は、以下による支援を受けている:米国国立衛生研究所/米国国立がん研究所(CCSG P30-CA016672、T32 CA009666、R50-CA243698、R01-CA207295、U01-CA213273)、テキサス大学サウスウェスタン校およびMDアンダーソンがんセンターLung SPORE(5 P50 CA070907)、アメリカ合衆国国防総省(LC170171)テキサス州がん予防・研究機関(Cancer Prevention & Research Institute of Texas)(RP170067)、テキサス大学MDアンダーソン肺がんムーンショットプログラム(Lung Cancer Moon Shots Program)、Abell-Hangar Foundation、Andrew Sabin Family Fellowship、ASCO若手研究者賞(ASCO Young Investigator Award)、The Hope Foundation、Khalifa Bin Zayed Al Nahyan Foundation)、Rexanna’s Foundation for Fighting Lung Cancer

翻訳担当者 松長愛美

監修 高濱隆幸(腫瘍内科/近畿大学奈良病院)

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