2010/11/16号◆クローズアップ「肺癌検診における低線量CTがヘビースモーカーの死亡率に明らかな有効性をもたらす」

同号原文
NCI Cancer Bulletin2010年11月16日号(Volume 7 / Number 22)


日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中〜

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◇◆◇ クローズアップ ◇◆◇
肺癌検診における低線量CTがヘビースモーカーの死亡率に明らかな有効性をもたらす

米国国立癌研究所は11月4日の記者会見で全米肺検診臨床試験(NLST)の初期結果を発表した。この初期結果では、低線量ヘリカルコンピュータ断層撮影(ヘリカルCT)による検診を行った55〜74歳の現在および元ヘビースモーカーは、標準的な胸部X線による検診を行った参加者群よりも肺癌による死亡率が20%低かったことが明らかになった。
「これはまさに、検診の手法が肺癌による死亡率低下に効果を及ぼしうることをはっきりと示した初の試験です」とNCI副所長のDr. Douglas Lowy氏は記者会見で述べた。


「この試験結果は人々の健康にとって重要な意味をもっており、肺癌のリスクが最も高い人々の中で多くの命を救う可能性があります」とNCI所長のDr. Harold Varmus氏はコメントした。しかし、Varmus氏は次のように明確にした。「この発表を聞いて、喫煙に対する意識を変えずに喫煙を続けたり喫煙を始めたりしても、もう安全だと考えてほしくないのです。検診は肺癌の予防になりませんし、大多数の参加者では検診は肺癌による死亡の予防になっていません。喫煙しないことおよび禁煙することが依然として人々の重要な健康目標であり、肺癌の最良の予防策です」。

試験デザインの強み

NLSTは、NCIの癌治療・診断部門(DCTD)の助成による、NCIの癌予防部門と米国放射線学会画像ネットワーク(ACRIN)との共同研究を代表する試験である。本試験は全米33ヵ所の試験施設で実施された。

募集およびデータ保持がアメリカ癌協会(ACS)と共同で行われたため、同協会の地域事務局の活動を通じ、地域社会レベルでこの試験に対する関心が高まった。2002年8月にNLSTの最初の参加者が登録され、2004年1月に目標症例数である50,000例に到達した。最終的には53,000人超が登録された。

NLSTは参加者が多数であったことに加え、ランダム化デザインを採用したため、ヘリカルCTによる検診が肺癌による死亡の予防に役立つかどうかに関する決定的な答えを確実に得ることができた。試験結果に強みをもたらしたもう1つの要素は、試験の主要評価項目が肺癌による死亡者数であり、検診で検知した肺癌の数ではなかったことである。

第三者的立場にあるデータ安全性評価委員会の要請によってNLSTは中止となり、同委員会は10月20日、この試験の主な論点に答えを出すために必要なデータはすべて収集済みであると判断した。興味深いことに、初期結果では低線量ヘリカルCT群で何らかの原因(肺癌を含む)による死亡率が7%低下したことが認められたが、NLSTの研究者らは今のところ、この低下に寄与している因子のすべてを理解しているわけではない。「今後数カ月以内に[完全な]結果が論文審査のある学術専門誌で早急に発表され、全文がすぐに公開されます」とNLSTの主任統計学者の1人であるDr. Richard Fagerstrom氏は言う。

体の中を見る、体の表面からではなく


肺癌検診に関して胸部X線検査の有効性を調べたこれまでの試験では、一様に期待外れの結果が示されてきた。X線は身体の組織の撮像に用いる放射線が極度に低線量であるという利点があるが、X線技術では検知できる異常の大きさや位置に限界がある。

「胸部X線検査では、[直径]約1cmまでの結節を見つけることができますが、それは結節の場所によります」と米国国立衛生研究所臨床センターの放射線・画像診断科学部門長のDr. David Bluemke氏は説明した。「血管周囲の肺野など、いくつかの肺領域では1cmより大きくないと見つけることができません。胸部CTでは、大きさ1〜2mmの結節がはっきりと認められます」。

「さらに、胸部X線では、骨、血管や他のたくさんの解剖学的構造を通して結節を見つける努力が必要なのです」Bluemke氏はこのように続ける。「胸部CTでは結節を隠すものはほとんどありません。患者の表面から見るのではなく、体内を見ているのです」。

CTが臨床現場に登場した1970年代当時、スキャナは平行方向のスライス(図A参照)で遅い速度で画像を収集していたために、収集される画像には若干の臓器情報不足が存在し、コンピュータプログラムによりその不足を補うための再構成が必要であった。1990年代には、ヘリカルCT(別名スパイラルCT)技術が登場した。ヘリカルCTは、らせん状に迅速に作動して(図B参照)身体の連続画像を収集するため、収集される画像に臓器情報不足がない。

「CT検査がX線よりもずっと正確であることが最初に明らかになったとき、人々はCTを検診用に開発する可能性に注目し始めましたが、装置の性能が常にネックとなっていました」とNCI癌研究センターの腫瘍内科学部長であり胸部腫瘍学科長を兼任するDr. Giuseppe Giaccone氏はコメントした。「しかし、過去約10年にわたるスキャナの開発は目覚ましいものでした。90年代には、スキャンの実施には数分かかっていました。それが今では、息を止めている間に終わってしまうのですから」とGiaccone氏は付け加えた。

「肺の小結節の検出を可能にしているのは、ヘリカルCTの速度に加え、スライスの重複性です」とNCIのNLSTプロジェクト責任者、Dr. Christine Berg氏は言う。「そのため、検診への適用にはヘリカルスキャニング技術が重要であり、線量を低くしたとしても、おそらく明確に見えるだろうということにも気付いたのです。放射線量については長い間関心がもたれていますが、[NLSTの]検診で用いられた線量は診断用CTの線量より実質的には低くなっています」とBerg氏は説明した。

注意および警告

「この試験の結果は、リスクの高い高齢の集団を対象とした低線量ヘリカルCTを用いた検診の利点に関する客観的なエビデンスを示しており、低線量ヘリカルCTによる検診を責任をもって実施すれば、異常のある個人を適切に追跡でき、何千もの生命を救える可能性があります」とACRIN担当NLST全国主任研究員のDr. Denise Aberle氏は言う。「しかし、肺癌と喫煙との強い関連性を考慮して、肺癌による死亡を予防する唯一の最善策は喫煙を始めないことであり、すでに喫煙している場合は永久的にやめることだということを試験責任医師は再度強調しているのです」。

試験結果に対する1つの主要な警告は、研究者らは現在のところ、この試験に参加した集団、すなわち、30年間1日1箱以上に相当する量の喫煙歴を有する55〜74歳の現喫煙者又は元喫煙者(試験登録時より15年以内に喫煙をやめた人と定義)にしか結果を十分にあてはめることができないということである。

「NLSTの結果は、不特定多数の人々がすぐに定期的なCT検査を受けなければいけないという意味に捉えるべきではありません」とLowy氏は注意喚起している。「この試験はリスクの高い特定の集団についての特定の論点に対する答えを出しました。この検診法をより幅広く用いる可能性について具体的な推奨を行う前に、NLSTのデータのさらなる解析とモデル化が必要になります」。

この時点では、NCIは何らかの集団を対象とした肺検診へのCTの使用に関する推奨は発表していない。最終データの解析が完全に終了し、公表された時点で、米国予防医療作業部会やアメリカ癌協会などの、医療に関する推奨を通常行っているいくつかの団体のうちのいずれかが推奨を行うであろうとVarmus氏は説明する。

肺癌検診のリスクが潜在的利益と並んで存在し、それも将来の推奨に織り込む必要がある。この試験のスキャン全体の約25%が偽陽性結果を示しており、これは、認められた異常が経過観察時に癌でないと判明したということである。偽陽性と判定された患者は全員、高線量の放射線を用いる診断用CTから肺生検にわたる、何らかの診断法を経過観察時に追加で受け、中には開胸術(胸部の外科的切開)を受けた患者もいる。これらはいずれもリスクをもたらすものであると Giaccone氏は説明した。

「リスクの高いこのグループを対象とした場合にもこの技術を用いるにはどうすべきかに関して推奨を作成する上で、これは考慮すべき重要なことです」と記者会見でVarmus氏は述べた。

Giaccone氏によれば、CTによる肺検診が医学会で幅広く採用されるようになるにつれ、偽陽性結果のリスクと経過観察時の不必要な診断法がより大きな問題となる可能性がある。「地域の病院や小規模な診療所でこの検診法がより広く普及する際には、慣れるまでに時間がかかるであろう」とGiaccone氏は説明する。

しかし、線量と検診で発見された異常の評価の両方に関するガイドラインはすでに公表されているとBerg氏は説明する。ACRINは、この試験で用いられた低線量スキャニングのパラメータを公開した。また、胸部放射線科の国際的な集学的医師会であるフライシャー学会(Fleischner Society)は、CT検査で認められた肺結節の評価に関するガイドラインを発表した。

「このように、画像取得の数的指標や異常の解釈の評価指標はすでに公表されています」とBerg氏は言う。「後は単にそれに従わなくてはならないだけです」。

—Sharon Reynolds

全米肺検診臨床試験(NLST)に関する詳細情報はインターネット上で閲覧可能・NLST(米国肺検診臨床試験):Q&A日本語訳
Cancer.gov NLSTホームページ
・試験の中止を勧告するNLSTデータ安全性評価委員会の声明(PDF)
・データ安全性評価委員会からNLSTの参加者に送られた通知(PDF)
・NLSTで用いられた画質管理プログラムの詳細

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川瀬 真紀 訳
中村 光宏(医学放射線/京都大学大学院)監修 

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