ポジオチニブ、難治性肺がんの変異に高い奏効率を維持

MDアンダーソンではEGFRエクソン20挿入変異とHER2エクソン20挿入変異を有するがんに関する臨床試験を継続

テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンターではムーンショット計画によりpoziotinib(ポジオチニブ)を用いた分子標的療法が復活した。ポジオチニブは、通常、難治性となる遺伝子変異を有するステージ4の非小細胞肺がん患者において依然として高い奏効率を維持している。

9月下旬に開催されるIASLC世界肺癌学会議のアブストラクトが9月5日に公開された。そのアブストラクトの第2相臨床試験における初期段階の結果によると、上皮成長因子受容体(EGFR)にエクソン20変異を有する患者40人中23人(58%)およびヒト上皮増殖因子受容体2型(HER2)にエクソン20変異を有する患者12人中6人(50%)において、ポジオチニブを用いた治療の8週間後に腫瘍の縮小が認められた。

「これまでのところ、これらの臨床試験結果は、EGFRエクソン20挿入変異およびHER2エクソン20挿入変異を有する患者にとって、ポジオチニブが、実質初の研究上の進歩となることを示しています。このような患者には、実施可能で有効な分子標的治療がなかったのです」と、胸部・頭頸部腫瘍内科部長兼教授で、本試験の主席研究者であるJohn Heymach医学博士は述べた。

Heymach医学博士は9月24日の世界肺癌学会議で最新データを発表する予定である。これまでに明らかになっている初期段階の結果はEGFR患者に関するものであり、今回のIASLCでの発表はHER2患者も対象にしているという点で初となる。研究チームは、非小細胞肺がんのEGFRエクソン20挿入変異発生率を約1%、HER2エクソン20挿入変異発生率を約3%と推定している。

MDアンダーソン研究者主導の臨床試験から、世界中のエクソン20挿入変異肺がん患者に関する最大のデータセットが得られた。ポジオチニブを製造しているSpectrum Pharmaceuticals社もまた、多施設共同第2相試験を開始している。

EGFRとHER2を標的としたポジオチニブ以外の分子標的薬に対するエクソン20挿入変異を有する患者の奏効率は12%以下である、と研究チームは述べた。

• ポジオチニブ投与EGFR群の無増悪生存期間中央値は5.6カ月であった。後に試験を開始したHER2群の無増悪生存期間中央値は5.6カ月未満であった。
 • 疾患制御率(完全奏効、部分奏効、病勢安定の総合)はEGFR群では90%であったのに対し、HER2群では83%であった。
 • EGFR群の60%でグレード3以上の副作用が認められた。特に多く認められたのは、皮疹(27.5%)、下痢(12.5%)、爪囲炎と呼ばれる手足の爪周辺の炎症(7.5%)であった。患者1人はグレード3の皮疹のために治療を中止した。EGFR群の副作用も同様であった。HER2群では肺臓炎による死亡が1件発生し、おそらく薬剤と関連ありと考えられた。

MDアンダーソンの肺がんムーンショット計画によりポジオチニブを用いた分子標的療法が復活

MDアンダーソンムーンショット計画™の一環である肺がんムーンショット計画™のためのプロジェクトを決定する際に、Heymach医学博士率いる研究チームはエクソン20挿入変異を有する患者に焦点を当てることを決めた。ムーンショット計画は、科学的発見を促進し、命を救うことができる医学的進歩につなげるための共同の取り組みである。患者データベースを精査したところ、エクソン20挿入変異を有する患者の無増悪生存期間の中央値はわずか2カ月であった。

細胞株およびマウスモデルを用いた一連の実験では、標的となるEGFR変異とHER2変異両方の構造モデルとそれを標的とする利用可能な薬剤を組み合わせた。この実験で研究チームは、ポジオチニブの構造はエクソン20挿入変異以外の変異に対してはほとんど奏功しないものの、エクソン20挿入変異を有する疾患に非常に有効であることを見出した。EGFRエクソン20挿入変異およびHER2エクソン20挿入変異を有する腫瘍では、薬剤の標的となるポケットが物理的に狭くなっている 。このことがポジオチニブ以外の分子標的治療薬が標的に結合できず、このタンパク質を阻害することができない理由でもある。

Heymach医学博士率いる研究チームはSpectrum Pharmaceuticals社と連絡を取り、共に2017年にMDアンダーソン初となる第2相試験を開始した。

Heymach医学博士、Jacqulyne Robichaux博士(博士研究員)、Shuxing Zhang薬剤博士(実験的治療学准教授)らのチームは、2018年初頭、Nature Medicine誌に研究結果を発表した。

MDアンダーソンの研究チームはポジオチニブに対する耐性機構の研究を継続しており、MDアンダーソンの他科と協力して肺がん以外のがんにおけるエクソン20挿入について研究している。

Spectrum社とMDアンダーソンは、2018年初頭にMDアンダーソンによるポジオチニブについての発見に関するライセンス契約に調印した。

翻訳担当者 三浦恵子

監修 川上正敬(肺癌・分子生物学/米国国立がん研究所)

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