肺がん患者への術前ニボルマブで安全に病理学的奏効が得られた

治療後に血中循環腫瘍特異的T細胞が増殖、全身性の抗腫瘍免疫を示唆

米国がん学会(AACR)

非小細胞肺がん(NSCLC)ステージ1~3の外科的切除前の抗PD1免疫療法ニボルマブ(オプジーボ)投与は安全であり、患者の45%で高い病理学的奏効が得られたことが、4月14~18日の米国がん学会(AACR)年次総会で発表された臨床試験データから明らかになった。

病理学的奏効は、術前化学療法後に切除した腫瘍からの検出できる生存がん細胞が10%以下の場合に高い奏効と定義する。

この研究は、New England Journal of Medicine誌に同時掲載されている。

研究責任者であり、ブルームバーグ・キンメルがん研究所所長でジョンズホプキンス大学腫瘍免疫科部長を務めるDrew Pardoll医師は、「切除可能なNSCLCに対する術前抗PD1治療の根拠は、基本的には原発腫瘍を「ワクチン」として使用して腫瘍抗原に対するT細胞を誘導し、これが全身を循環して遠位の微小転移を検出するというものでした」と述べた。「術後に再発する大きな原因は微小転移巣なのです」。

通常、術前化学療法は、化学療法か化学放射線療法を主体として肺がん患者に投与し、重要な臓器や血管の近くにある大きな非転移性腫瘍を縮小させるというものである。手術前に腫瘍を一時的に縮小させることで、術後の転帰が改善する、とPardoll医師は説明した。

「何よりも素晴らしい発見は、術前抗PD1療法の後に手術を受けた患者さん20人のうち9人が病理学的に高い奏効を示したことです」、とPardoll医師は述べた。「しかも、患者さんのうち2人には切除標本に生存細胞が認められませんでした。これは、ほとんどの症例で抗PD1治療の初回投与からわずか4週間後に手術が行われたことを考えると、本当に驚くべきことです」。

「肺がんを対象とした術前化学療法後に高い病理学的奏効がみられた場合、長期生存が伴うことを示す既存の研究を考慮すると、今回の病理学的奏効率45%という素晴らしい結果は非常に有望です」、とPardoll医師は付け加えた。

研究チームは2015年8月~2016年10月の期間にステージ1~3AのNSCLC患者21人をこの試験に登録し、そのうち 62%が腺がんであった。ニボルマブは全患者に1回以上投与された。ニボルマブの2回目投与から手術までの期間の中央値は18日で、適格患者21人のうち20人が全腫瘍切除を受けた。Pardoll医師は、「抗PD1治療は忍容性が良好で、術前治療を原因とする外科処置の遅延はありませんでした」と述べた。

腫瘍細胞によるPD-L1発現の有無にかかわらず、患者の腫瘍検体からは高い病理学的奏効が観察された。腫瘍の遺伝子異常総量は、病理学的奏効の程度に高い予測能を示した。追跡調査期間の中央値12カ月後に外科的切除を受けた患者20人のうち16人が生存し、再発はみられなかった。18カ月時で再発のない生存率は73%であり、データ解析時点では無再発生存期間中央値に到達していなかった。

チェックポイント阻害薬が循環血液中の腫瘍特異的T細胞の増殖を誘発するという仮説を検証するため、研究チームはニボルマブの投与日と術後44日目の血中T細胞反応を分析した。「抗PD1治療開始から4週間以内に、ほとんどの症例で、血液中に腫瘍特異的T細胞が大量に出現したので、術前化学療法が全身の抗腫瘍免疫を増強した可能性が示唆されます」。

「今回の結果が再発率の低下や生存率の改善につながるかどうかを判断するのはまだ時期尚早であり、もっと大規模な研究による検証が待たれますが、このアプローチは最終的に今後の治療方法を変えていくものになるでしょうし、外科的切除前の化学療法を増補したり、あるいは置き換わるものになるかもしれません」とPardoll医師は語った。

「今回は単群での小規模な研究結果なので、これまでの結果と単純に比較できない点には注意しなければなりませんが、今回の初期結果は非常に有望であり、トランスレーショナル科学と連動して、腫瘍型を横断した術前化学療法の臨床試験をさらに後押しするものになるでしょう」研究主任であり共同治験責任医師であるブルームバーグ・キンメルがん免疫療法研究所の腫瘍科助教、Patrick Forde医学士はこのように結論づけた。

スローンケタリング記念がんセンターの腫瘍内科医Jamie Chaft医師は、この試験の共同試験責任医師である。

この試験は以下の機関による研究支援を受けた。ジョンズホプキンス・ブルームバーグ・キンメルがん研究所、「Stand Up To Cancer(SU2C)」がん免疫学探索医療助成金(米国がん学会はSU2Cの学術パートナー)、ブリストル・マイヤーズスクイブ(BMS)国際免疫腫瘍ネットワーク、LUNGevity財団、肺がん研究と肺がん予防の国際協会、全米肺がん財団、マクミラン財団、ECOG-ACRIN、国立衛生研究所、Dr. Miriam and Sheldon G. Adelson医学研究財団、英国連邦基金、スローンケタリング記念がんセンター支援助成金、ジョンズホプキンス大学がんセンター支援助成金。

Pardoll医師はBMS社が認可を有する特許の発明者である。Forde医師は、アストラゼネカ社、BMS社、ノバルティス社、協和発酵キリン社から研究資金を得ており、BMS社、メルク社、ノバルティス社、Inivata社(英国)、アッヴィー社、EMDセローノ社、ベーリンガーインゲルハイム社の顧問である。

翻訳担当者 久保優子

監修 稲尾崇(呼吸器内科/天理よろづ相談所病院)

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