非小細胞肺癌に対する術前免疫療法

MDアンダーソン OncoLog 2017年5月号(Volume 62 / Issue 5-6)

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非小細胞肺癌に対する術前免疫療法

切除可能早期非小細胞肺癌患者に対する免疫チェックポイント阻害剤の効果を評価する臨床試験

非小細胞肺癌(NSCLC)は肺癌の中で最も多い組織型である。早期ステージのNSCLC患者が腫瘍を切除した場合、その約半数が再発あるいは転移病変への進行を経験する。一部の転移性NSCLC患者では免疫チェックポイント阻害剤が奏効するが、手術前に免疫チェックポイント阻害剤を投与することで、早期非小細胞肺癌患者の再発または転移のリスクを減らせるかどうかは不明である。このリスク低下を期待して、MDアンダーソンがんセンターでは、早期NSCLC患者を対象とした免疫チェックポイント阻害剤による術前治療の臨床試験を新たに実施する。

「多くの臨床試験が実施された中で、チェックポイント阻害剤は転移性NSCLCに対して標準化学療法よりも高い奏効率とより長い効果持続期間を示してきた」と胸部・頭頸部腫瘍内科の頭頸部部長准教授William N. William Jr.医師は述べた。「しかしチェックポイント阻害剤による持続効果(durable response)が得られるのはこれらの患者のうちわずか20%程度である。チェックポイント阻害剤はもっと早いステージのNSCLC、つまりまだ転移のない患者に対して、より効果的に働くのではないかと考えている」。

術前免疫療法

William 医師は新しい臨床試験、NEOSTAR試験の責任医師である。この臨床試験は早期NSCLC患者に対するチェックポイント阻害剤を用いた術前療法の、最初の臨床試験である。患者の登録は2017年5月から6月にかけて開始されるとみられる。適格患者は切除可能なステージI–IIIAのNSCLCと最近診断された患者である。免疫療法あるいは化学放射線療法による治療歴のある患者は除外される。この試験では切除手術前に1種または2種のチェックポイント阻害剤を投与する。つまり患者全員がPD-1 (programmed cell death protein 1) 阻害剤のニボルマブを投与され、約半数の患者がニボルマブに併用してCTLA-4(cytotoxic T lymphocyte antigen 4) 阻害剤イピリムマブを投与される。

NEOSTAR試験で手術を主導する胸部・心血管部外科助教Boris Sepesi医師は次のように述べた。「腫瘍切除前の6週間にチェックポイント阻害剤を投与すると、相当数の患者に重要な病理学的反応が見られると考える。さらにこの治療パラダイムは、患者の免疫システムを刺激し、腫瘍抗原の認識力を高めることで、腫瘍がまだ存在するにもかかわらず効果の持続を誘導できると期待している」。NSCLC患者に対する術前のチェックポイント阻害剤による治療持続効果は仮説の域を出ないが、この持続効果により、腫瘍を完全に切除したにもかかわらず再発しやすいという傾向を抑えられるかもしれない。

チェックポイント阻害剤投与期間中は、血液を採取して免疫反応を検査し、画像解析で腫瘍サイズを確認する。他の術前療法と同様、到達目的は切除前の腫瘍縮小と既存の微小転移巣の減少であり、結果的に再発、転移リスクを下げ患者の転帰を改善する。

NEOSTAR試験の実施施設はMDアンダーソンがんセンターのみである。しかしこの試験はなるべく患者の負担が少なくなるように治療と診察、検査を同時に行うように設計されている。したがって患者が必要とされる切除術前の来院は、2週間間隔で計3回のみである。手術後は、必要に応じて、病態に適した標準治療を受けるよう勧められる。

免疫療法による個別化治療(プレシジョン・メディシン)

転移性NSCLCでも他のがん腫でも、チェックポイント阻害剤はすべての患者に有効というわけではない。NEOSTAR試験の目的のひとつは、このチェックポイント阻害剤が効く腫瘍の特性を見極めることである。その情報がわかれば、この種の薬剤を有益に投与できる患者が増える。逆に有益ではないと思われる患者への使用が避けられる。

NEOSTAR試験で患者から得た腫瘍、組織検体、血液検体は、現在進行中のImmunogenomic Profiling of Non–Small Cell Lung Cancer (ICON)プロジェクト終了後にモデル化される手法を用いて解析される。「ICONプロジェクトでは早期NSCLCの患者から得た切除腫瘍検体、周辺組織検体、血液検体の分子解析をより詳細に行い、その知見を臨床データや転帰と統合させて、これらの腫瘍の包括的免疫ゲノムプロファイルを作成する」とSepesi医師とプロジェクトの共同主導医師である胸部・頭頸部腫瘍内科准教授Don Gibbons医学博士は述べた。「そのプロファイルから、特定の遺伝子変異や異常タンパク質の発現などのバイオマーカーのリストと、免疫プロファイルを作成できるだろう。それらは免疫治療薬がNSCLCに対してどのように働くのかをより深く理解するのに役立つ」。

ICONプロジェクトとNEOSTAR試験の目的は、NSCLCの免疫反応に関する理解を深めNSCLCと闘うためにいかにその情報を利用するかということである。「ICONプロジェクトとNEOSTAR試験では、腫瘍の内部および周辺の免疫細胞の働きを徹底的に探索している」とWilliam医師は述べた。「この情報を武器に、細胞の働きにターゲットを絞った新しい治療法を展開できる。最終的には、特定の腫瘍抗原と結合するT細胞受容体を遺伝子操作により作成したい。そうすれば全身への影響と耐性獲得を最小限に抑えつつ腫瘍を集中的に攻撃することが可能になる」。

さらにWilliam医師は「NEOSTAR試験で用いた腫瘍の評価法は、従来の病期分類や組織学的基準を超えている。それは特定の治療に反応する人を個別に判断し、どのような反応がみられるのかを理解する新しい方法である」と述べた。研究者らは今まさに未来の治療法を確立すべく免疫ゲノムプロファイリングを行っているが、NEOSTAR試験で使用される術前免疫療法のアプローチは、今現在、早期ステージの切除可能なNSCLCの患者に対してより長く生きるチャンスを与えるかもしれない。

【画像キャプション訳】

図はNEOSTAR試験のプロトコールを示す。
非小細胞肺癌患者の術前治療として免疫チェックポイント阻害剤を投与する
(John Heymach医師およびLara Lacerda Landry医師より提供)

For more information, contact Dr. Boris Sepesi at 713-753-0131 or orbsepesi@mdanderson.org or Dr. William N. William Jr at 713-792-6363 or wnwillia@mdanderson.org. For more information about clinical trials for patients with lung cancer, visit www.clinicaltrials.org. The NEOSTAR trial and ICON project
are part of MD Anderson’s Lung Cancer Moon Shot program. For more information, visit http://bit.ly/2nKbOLF.

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翻訳担当者 宮地 優子

監修 高濱 隆幸(腫瘍内科/近畿大学医学部附属病院)

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