小細胞肺がんに対する新たな抗体薬物が初期研究で有望な結果(ASCO2016)

米国臨床腫瘍学会(ASCO) プレスリリース

米国臨床腫瘍学会(ASCO)の見解

「これは、最近の流れである、抗がん剤をよりいっそう正確に必要な個所へ輸送するという高度な標的療法の新たな事例です」と、米国内科学会名誉上級会員(FACP)、米国臨床腫瘍学会フェロー(FASCO)およびASCOの肺がん専門医であるGregory Masters医師は述べた。「今回の結果は、より優れた治療選択肢を至急必要とするひとつのがんに対して効果が得られたという良い兆候を示しました」。

ヒト初回投与試験(FIH試験)から得た初期の研究結果によると、抗体薬物複合体(ADC)であるrovalpituzumab tesirine[ロバルピツズマブ テシリン](Rova-T)が再発性の小細胞肺がんに対し有望な有効性を示した。新規の抗DLL3抗体と強力な抗がん剤を結合させたこの治療では、腫瘍にDLL3が高発現している患者の89%で腫瘍の増殖が停止し、39%で腫瘍の縮小がみられた

この試験は本日の記者会見で取り上げられ、2016年米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表される。

「ここ数年、小細胞肺がんの成果が極めて少ないため、早期の段階でこういった有効性の兆しを見られると一層力づけられます」と、主著者でスローンケタリング記念がんセンター(ニューヨーク)の胸部腫瘍科長であり、腫瘍内科医のCharles M. Rudin医学博士は述べた。「これらの結果は予備的なものですが、Rova-Tは小細胞肺がんで有効性を示す最初の標的療法となる可能性があり、私たちはDLL3をこの疾患における効果予測バイオマーカーとして同定したと考えます」。

試験について

ADCであるRova-Tは、抗DLL3抗体と、DNAにダメージを与える殺細胞性抗がん剤ピロロベンゾジアゼピン二量体からなる。ADCの抗体の部分は、抗がん剤を腫瘍まで運び、がん細胞内部に届ける働きをする。

小細胞肺がん患者のおよそ3分の2で、がん細胞の表面にDLL3が高発現しており、基本的にこのタンパク質は、健常な成人の組織には見られない。DLL3は小細胞肺がんにおいて、がん幹細胞系を制御すると言われている。Rova-TはDLL3を標的とする最初の薬剤である。

第1相試験では、1回以上の全身治療を行ったにも関わらず疾患が進行した74人の小細胞肺がん患者を登録した。患者の約3分の2が診断時に進展型であり、残り3分の1は限局型であった。組織サンプルが入手可能な時は、腫瘍組織中のDLL3タンパク質のレベルを評価した。

試験の主要な結果

評価可能な患者60人のうち、11人(18%)に腫瘍の縮小、41人(68%)に臨床的有用性(少なくとも病勢停止)がみられた。治療に反応したほぼすべての患者で腫瘍にDLL3が高発現していた。

腫瘍にDLL3が最高に発現している患者26人中、10人(39%)がADCに反応し、全生存期間中央値は5.8カ月、1年生存率は32%であった。この患者群では、3次治療としてADCを投与された患者12人が特に良好な反応を見せ、50%に腫瘍の縮小がみられた(客観的奏効の確定)。

最もよくみられた重篤な治療関連の毒性は、漿膜滲出液(心臓や肺周囲に集積した液体、胸水、心嚢液)、血小板減少、皮膚反応であった。これらの副作用は、通常投薬により管理可能であるか、特定の介入なしに消失するものであった。

次の段階として

今回の初期段階の試験結果は、より大規模な臨床試験での確認が必要である。今年初めには、2回以上の治療後も増悪したDLL3陽性の小細胞肺がん患者において、単一群による極めて重要な第二相試験が開始された。また別の試験において、小細胞肺がんの初回治療におけるRova-Tや、DLL3発現がみられる他の神経内分泌がんを検討していく予定である。

抗体薬物複合体(ADC)について

ADCは、抗体に抗がん剤を結合させた巨大分子である。その抗体は、がん細胞の表面に多く発現するが、正常な細胞にはまれであるタンパク質を標的とするのが望ましい。

この抗体が標的とするがん細胞のタンパク質に結合すると、がん細胞はADCを取り込む。がん細胞の内部で抗がん剤が抗体から切り離され、殺細胞効果を発揮する。このように抗がん剤をがん細胞まで標的輸送することで、周りの正常な細胞に対するダメージが最小限になる。実際、Rova-Tに用いられている抗がん剤は非常に強力なため、この薬剤のみの投与はできないが、ADCとしての投与は安全である。

がん患者の治療に対して承認されているADCは現在米国で2つにすぎないが、多くのさまざまなADCが臨床試験で検証されている。

小細胞肺がんについて

今年は、米国で22万5000人が肺がんと診断されると予測される。小細胞肺がんは肺がんのうち10%から15%を占める。この型の肺がんは非常に治療が難しく、生存期間は多くの患者で診断後一年かそれ以下にすぎない。小細胞肺がんに対する標準の初回治療は、エトポシドとプラチナ製剤による化学療法である。再発小細胞肺がんに対するFDAに承認された治療はトポテカンしかない。

この研究はStemcentrx社から資金提供を受けた。

1http://seer.cancer.gov/statfacts/html/lungb.html  Accessed May 19, 2016 2http://www.cancer.gov/types/lung/hp/small-cell-lung-treatment-pdq  Accessed May 19, 2016

View the disclosures for the 2016 ASCO Annual Meeting News Planning Team.

ATTRIBUTION TO THE AMERICAN SOCIETY OF CLINICAL ONCOLOGY ANNUAL MEETING IS REQUESTED IN ALL COVERAGE.

翻訳担当者 平沢沙枝

監修 廣田 裕(呼吸器外科、腫瘍学/とみます外科プライマリーケアクリニック)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

肺がんに関連する記事

免疫療法抵抗性肺がんにデュルバルマブ+セララセルチブ療法が有望の画像

免疫療法抵抗性肺がんにデュルバルマブ+セララセルチブ療法が有望

MDアンダーソンがんセンターデュルバルマブ+セララセルチブが肺がん患者の免疫反応を高め、予後を改善することが第2相試験で明らかにテキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者...
ROS1陽性肺がんでレポトレクチニブが新たな治療選択肢にの画像

ROS1陽性肺がんでレポトレクチニブが新たな治療選択肢に

米国国立がん研究所(NCI) がん研究ブログ2023年11月、食品医薬品局(FDA)は、ROS1遺伝子融合と呼ばれる遺伝子変化を有する一部の進行肺がんの治療薬としてrepotrecti...
非小細胞肺がん、アロステリックEGFR阻害による薬剤耐性克服の可能性の画像

非小細胞肺がん、アロステリックEGFR阻害による薬剤耐性克服の可能性

ダナファーバーがん研究所アロステリック阻害薬EAI-432は、EGFR変異陽性の非小細胞肺がん(NSCLC)に対する新たな治療法を提供するEAI-432は、ATPポケット以外の部位に結...
一部の小細胞肺がんにタルラタマブが有効の画像

一部の小細胞肺がんにタルラタマブが有効

米国国立がん研究所(NCI) がん研究ブログ新しいタイプの標的免疫療法薬が、肺がんの中で最も悪性度の高い小細胞肺がん(SCLC)患者の約3人に1人で腫瘍を縮小させたことが臨床試験の結果...