OncoLog 2014年9月号◆バイオマーカーに基づいた臨床試験が肺癌患者の個別化治療を向上させる可能性

MDアンダーソン OncoLog 2014年9月号(Volume 59 / Number 9)

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バイオマーカーに基づいた臨床試験が肺癌患者の個別化治療を向上させる可能性

腫瘍バイオマーカーに基づき治療群割り付けを行う革新的な臨床試験により、肺癌の治療の選択肢が増える可能性が出てきた。

6月16日、SWOG(旧Southwest Oncology Group)は米国国立癌研究所(NCI)臨床試験ネットワークと共同で、肺扁平上皮癌に対する標的療法に関してバイオマーカーに基づいた大規模臨床試験「Lung-MAP試験」を開始した。本試験の革新的デザインにより、個別化治療を高効率に評価できるようになることが期待されている。テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの胸部/頭頸部腫瘍内科学科教授のVali Papadimitrakopoulou医師がLung-MAP試験の全米主任研究員および同試験監督委員会メンバーを務める。

BATTLE試験がこの試験の構想の基になった

Papadimitrakopoulou医師によると、Lung-MAPはMDアンダーソンの研究者らによるバイオマーカーを用いた先行研究であるBATTLEおよびBATTLE-2の二試験から部分的に発想を得ている。

2005年に開始されたBATTLE試験は、非小細胞肺癌の患者を対象とし、バイオマーカーによって患者にとって最も有効な(分子)標的治療薬を割り当てることができるかどうかを検証するために行われた。治療開始直前に生検を行い、生検標本のタンパク発現およびゲノム変化の解析が行われた。試験の第一段階では、患者は4つの標的治療のうち1つに無作為 に割り付けられた。しかし次の段階では、最初に試験に登録された患者のバイオマーカーと8週間時点での病勢制御率に 関する情報が、ランダム化の過程での調節に用いられた。つまり、試験の第2段階に参加した患者は、試験の第1段階で同じバイオマーカーの特徴を持つ患者が最も優れた病勢制御率を示した治療を受けられる確率が高くなる。

このような適応的ランダム化プロセスは、患者にとって最適な治療を選択し提供することを目指すものである。「BATTLEはバイオマーカーを用いた治療の価値を確認した全米規模の初の試験だった」とPapadimitrakopoulou医師は語った。本試験は適切な治療選択を行う上で、バイオマーカーが実に有用であることを示した。

BATTLE試験の成功により、研究者らは2011年、非小細胞肺癌患者のさらなるバイオマーカーを同定することを目指し、BATTLE-2試験を開始した。いくつかの変異は、現在では特定の標的治療の効果を予測する因子として確立しているため、いわゆる感受性変異がみられ、かつこれまでにこれを標的とした標的治療を受けたことのない患者は、BATTLE2試験から除外されて効果が期待される標的治療を受けた。BATTLE-2に参加した患者には4つの異なる標的治療のうち1つが無作為に割り当てられる。同試験でも最初のBATTLE試験と同様の適応的ランダム化プロセスが採用された。BATTLE試験の後半には、試験の前半で得られた腫瘍のバイオマーカーと治療効果の結果に基づいて各治療群への割り付けが行われた。BATTLE-2試験は目標参加者数(200人)に達し、現在最初のデータ解析が進行中である。

Lung-MAP:標的治療の効率的な検証

肺癌患者を対象としたバイオマーカーに基づく最新の臨床試験であるLung-MAPにおいて、研究者らはBATTLE試験および肺扁平上皮癌の変異に関する新たなデータから得た知識に基づき、高効率に肺癌の新たな標的治療を評価するアプローチを設計している。肺扁平上皮癌はいまだ治療法改善の余地が大きい疾患である。非小細胞肺癌に対して認可されて いる標的治療の多くは肺扁平上皮癌の変異に対しては効果が認められていない。

Lung-MAP試験では、200を超える遺伝子異常について解析が各患者に行われる。この解析結果は、Lung-MAPプロジェクトに含まれる、5つの第2/3相試験のいずれかまたは補足試験への参加を患者に勧める際に用いられる。

Lung-MAPで行われる捕足試験のうち4つは新規標的治療の検証を行う。例えば、PIK3CA遺伝子変異を持つ患者を対象とした試験では、患者はPI3K阻害薬GDC-0032またはドセタキセルに無作為に割り付けられる。また、腫瘍がFGFR1、FGFR2、FGFR3遺伝子増幅または変異を示している患者を対象とした試験では、患者はFGFR阻害薬AZD4547またはドセタキセルのいずれかに無作為に割り付けられる。研究対象の標的治療のいずれにも適合しない患者は、免疫療法またはドセタキセルのランダム化試験に参加する。

Lung-MAPのもう一つの特徴は、ランダム化第2相試験のいずれかで試験薬が優れた有効性を示した場合は、FDAによる承認につながる第3相に進めるという点である。第2相試験で試験薬が有効性を示さなかった場合は、異なる薬または同じ標的に対する薬の組み合わせを検証する新たな試験に換える。Papadimitrakopoulou医師は「肺扁平上皮癌患者のための治療薬の承認に向け、本研究は非常に多くの可能性を秘めている」と語った。

Lung-MAPという一つの包括的試験インフラのもとに複数のランダム化臨床試験を集めることにより研究者らは多くの患者の関心を集め、標的治療のランダム化試験への参加者を増やしたいと考えている。標的治療を評価する際の従来のやり方は、異なる試験の異なる患者に異なる標的治療を試してみる、というものであり、しかも標的治療の適格性を決めるゲノム検査も試験ごとに独自に行われていた。この方法では、患者は自身が臨床試験の対象として不適格とわかった場合、別の方法を探すか、標準治療に落ち着くしかなかった。それにひきかえLung-MAPでは、患者は複数の試験の適格性を一度に確かめることができる。

Lung-MAP試験のデザインは、臨床試験の承認の迅速化や臨床試験に必要な患者や資金等の医療資源の重複使用を回避することにより、スピードと効率化の向上に寄与すると期待されている。Lung-MAPのMAPはマスタープロトコルの略であり、試験の包括的デザインを意味する。このマスタープロトコルでは、試験中の薬の有効性が期待できない場合、個別のランダム化試験は中止でき、事前に定めたガイドラインに従って、第1相試験で許容可能な結果を示した標的治療の新たなランダム化試験を、迅速に計画して行うことが可能になる。Papadimitrakopoulou医師は「これは組立型の臨床試験だ」と語る。基準となる遺伝子変異は ある企業により単一の施設で実施され、全てのランダム化試験の統計解析はSWOGが行う。

理論上、Lung-MAPは無期限に実施可能だが、現時点ではおよそ5年継続する計画である。米国内で最大300施設の参加が予測されており、研究者らは本研究をカナダにも拡大するべく積極的に話し合いを進めている。また、その他の国々にも拡大したいと考えている。現在、年間500~1000人の患者の試験参加を想定しているが、Lung-MAPに含まれるランダム化試験数が変われば、患者数も変化する。

Lung-MAPのもう一つの成果は、SWOG監督下に中央組織バンクができることだろう。Papadimitrakopoulou医師は「この組織バンクは過去に例の無い肺扁平上皮癌細胞の宝庫となるでしょう」と語る。

臨床試験の新たな波

Lung-MAPを設計する上で、研究者らはより効果的な試験を実施するために米国医学研究所およびNCIの要請に対応してきた。Papadimitrakopoulou医師は「米国医学研究所やNCIは医療資源の浪費を懸念している。医療資源の浪費とは、最終的に特定の臨床試験に不適格となった患者のために行われたスクリーニングに費やされる患者や関係者の時間、そしてNCI出資研究の場合の納税者のお金を意味する」と述べた。

別のタイプの癌についても、Lung-MAPと類似の試験が計画されており、このようなやり方がますます一般化していくことが期待される。Papadimitrakopoulou医師は「癌研究に携わる多くの人々はこのようなコンセプトを長年夢見てきました。われわれがこの試験デザインが機能することを証明できれば、他の研究グループも同様の試験を実施することになるでしょう」と語った。

【画像キャプション訳】
コンピューター断層撮影(CT)画像
このCT画像は、BATTLE-2試験に参加したある患者でのソラフェニブ治療前(左)と治療後の肺腫瘍(矢印)の変化を示す。

— Stephanie Deming

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翻訳担当者 遠藤豊子

監修 田中文啓(呼吸器外科/産業医科大学教授)

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