ALCHEMIST開始:初期肺癌患者を対象とした3試験統合『個別化医療』試験
米国国立がん研究所(NCI)/米国国立衛生研究所(NIH)プレスリリース
原文掲載日 :2014年8月18日
初期肺癌患者の遺伝子変異を特定し、その変異に対する分子標的薬治療を実施することによって患者の生存が改善するか評価することを目的として、本日、ALCHEMIST試験(Adjuvant Lung Cancer Enrichment Marker Identification and Sequencing Trials)が開始された。
「ALCHEMIST試験から得られる研究結果は、初期肺癌に対して分子標的治療を追加することに対する重要な知見を与えてくれるだけでなく、初期肺癌におけるゲノム変化の割合とその自然経過を理解することと、再発時の腫瘍のゲノム変化について理解を深めることの一助になると期待している」と、国立癌研究所(NCI)の肺癌治療部門の長であるShakun Malik医師は話した。「研究結果は、この種の肺癌の臨床における分子生物学的特性を明らかにすることに役立つであろう」。
ALCHEMIST試験はAlliance for Clinical Trials in OncologyとECOG-ACRIN Cancer Research Groupによる統合試験と共に、国立衛生研究所の一部門である NCIによって資金提供を受けている。NCIが資金提供をしているNCI臨床試験ネットワーク(NCTN)のグループは全て、ALCHEMIST試験の開発において協力しており、この研究のいずれかの試験に参加している。
ALCHEMIST試験に登録されるのは、手術で腫瘍を切除し、その腫瘍が腺癌かそれに類する肺癌であることが病理検査で証明されており、主治医によって標準的な術後化学療法(放射線治療の有無は問わない)が実施されている患者である。
ALCHEMIST試験のスクリーニング試験では、手術で除去された組織を用い、ALK(未分化リンパ腫キナーゼ)とEGFR(上皮成長因子受容体)における特定の遺伝的変化を調べるための遺伝子検査を主要研究施設で行う。EGFR変異またはALK遺伝子再構成がある腫瘍を持つ参加者は、2つのランダム化プラセボ対照ALCHEMIST治療試験のうち1つに割り当てられる。これらの治療試験は、術後療法に2つの遺伝子変異を標的にした薬剤による治療(EGFRに対してエルロチニブ、ALKに対してクリゾチニブ)を併用することの有用性を評価する。米国食品医薬品局(FDA)はこれらの薬剤を、標的となる遺伝子変化を持つ進行肺癌患者の治療に対して承認している。しかし、これらの薬剤が臨床的に再発していない患者に投与されたときに有効であるかは明らかではない。この試験の目的は、エルロチニブまたはクリゾチニブが特定の変異がある腫瘍に対して投与されたとき、生存期間を延ばすだけでなく肺癌の再発を防止するかどうかを見極めることである。
ALCHEMIST試験は下記の3つの試験からなる。
ALCHEMIST スクリーニング試験(A151216)― Alliance for Clinical Trials in Oncology、研究責任者はダナファーバー癌研究所(ボストン)の Pasi A. Janne医学博士、Geoffrey Oxnard医師。http://www.cancer.gov/clinicaltrials/NCT02194738
ALCHEMIST EGFR治療試験(A081105)-Alliance for Clinical Trials in Oncology、 研究責任者はワシントン大学(セントルイス)のRamaswamy Govindan医師。http://www.cancer.gov/clinicaltrials/NCT02193282
ALCHEMIST ALK治療試験(E4512)―ECOG-ACRIN、 研究責任者はテキサス大学南西医療センター(ダラス)のDavid E. Gerber医師。 http://www.cancer.gov/clinicaltrials/NCT02201992
EGFRとALKの遺伝子変異は、頻発するわけではない。米国において、肺腺癌または類似したタイプの肺癌患者の約10%がEGFR遺伝子に変化がある腫瘍を持ち、5%がALK遺伝子に変化がある腫瘍を持っていると見込まれている。ALCHEMIST試験は5年から6年にわたり、米国の何百もの施設で、6000人から8000人の潜在的な参加者をスクリーニングし、2つのALCHEMIST治療試験に適したEGFRとALKの変化を持つ患者を特定する予定である。研究者らはこの治療試験には約800人の患者が登録されるとみている。患者の腫瘍マーカーの状態に関わらず、すべてのスクリーニングされた参加者をスクリーニング試験で5年間追跡調査する。
ALCHEMIST試験の全参加者は、肺癌に対する可能な限り最善の治療が続けられる。治療試験の最終段階では、分子標的薬を併用した患者と標準治療のみの患者の生存期間を統計学的に分析する。
ALCHEMIST試験は、生命工学と医薬品のパートナーの多大な研究協力を得ている。ALCHEMIST試験のスクリーニング試験では、主要研究施設で実施されるEGFR遺伝子変異とALK遺伝子再構成の研究を、ロサンゼルスのResponse Genetics社が行う。ALCHEMIST治療試験はニューヨークのファイザー社が行い、ECOG-ACRIN Cancer Research Groupとの臨床契約に基づきクリゾチニブを提供する。イリノイ州ノースブルックのAstellas Pharma US社は、エルロチニブの臨床開発を目的としたNCIとの合意のもと、共同研究および開発を行い、エルロチニブを提供する。
「この研究で、初期のEGFR変異、またはALK再構成の肺癌患者を特定するために、多くの患者を効率的にスクリーニングするNCTNの手腕が脚光を浴びる」と、ALCHEMIST試験のネットワークを率いるダナファーバー癌研究所のMonica Bertagnolli医師は述べた。「この手腕がなければ、EGFRまたはALKの抑制薬が初期肺癌患者の生存期間を延長するかどうかを見極めるための臨床試験を実行するために、必要とされる十分な数の患者を特定することは不可能であろう」。
ALCHEMIST試験は、DNAシークエンシングと腫瘍組織の遺伝子解析や、肺癌再発時に可能な追加的遺伝子分析などを含む、臨床研究と医療行為を発展させるといった他の側面を持ち合わせている。さらにALCHEMIST試験のすべての参加者は、癌リスクの特徴と、NCI Center for Cancer Genomics (CCG)が実施した ゲノムイニシアチブ研究のシークエンシング先端技術により腫瘍組織が分析される。この研究ではCCGの今までの取り組みが生かされる。癌ゲノムアトラスは、NIHの別組織であるNational Human Genome Research Instituteとの共同研究である。
ALCHEMIST試験の結果は次の点で科学者の一助となり、将来の肺癌患者にも有益である。
・薬剤への反応の作用機序を予測するために分子構造をスクリーニングする
・耐性の機序を明らかにするために再発時の腫瘍標本を分析する
・分子レベルで腫瘍の特徴を臨床結果と結びつけることでデータベースを構築する
ALCHEMIST試験は新しいNCTNの一部として発表された第二の個別化医療試験である。第一の個別化医療試験は進行肺扁平上皮癌の患者を対象にしたLung-MAP試験であり、2014年6月に開始されている。
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