2007/03/06号◆特別レポート「肺癌検診は死亡率を低下させないかもしれないとの試験結果」

同号原文

米国国立がん研究所(NCI) キャンサーブレティン2007年03月06日号(Volume 4 / Number 10)
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◇◆◇特別レポート ◇◆◇

肺癌検診は死亡率を低下させないかもしれないとの試験結果

CTスキャンによる肺癌スクリーニング(検診)は、その疾患による死亡率を低下させることはなく、一部の個人においては不必要に侵襲的な治療を受けさせることになると新たな調査研究で示唆された。

CT技術は、現在の喫煙者および喫煙経験者において肺の中の微小な腫瘍まで検出できるため、スクリーニングツールとして多大な感心を生み出している。2つの進行中のランダム化試験-NCI支援National Lung Screening Trial (NLST) と、オランダの NELSON試験-は、CTスキャンを用いて癌が治癒可能なうちに発見することによって生命を救うことができるかどうかを評価中である。

本日のJournal of the American Medical Association (JAMA)誌に掲載されたある研究では、メイヨークリニック、モーフィットがんセンター、およびイタリアの腫瘍研究所のそれぞれの施設で行われたCTスクリーニング研究からのデータを用いてこの疑問の回答に臨んだ。この解析では、平均39年間喫煙してきた無症状の個人3,200人以上を対象とした。

これらの試験には対照群が存在しないため、スローンケタリング記念がんセンターのBach医師らは、人為的に対照群を設定する統計的モデリングを用いた。次に、彼らはスクリーニングを実施した結果を、スクリーニングを実施しなかった場合に予想される結果と比較することとした。

スクリーニングを実施しない群に比べて、スクリーニングの実施によって診断された肺癌の数は3倍、肺癌手術は10倍となった。スクリーニングは生命を救うことがなかったばかりか、追加検査および、決して害を及ぼすことはなかったと思われる腫瘍に対して治療を要する結果となったことを研究者らは発見した。

「CT検診は、数多くのデメリットの可能性を持つ実験的方法である。」と、Bach医師は述べる。これらは、放射線被曝、偽陽性の結果による不安、さらに、腫瘍の発見およびその緩徐進行型病変に対して治療を行うことでもたらされる危害などに及ぶ。
この試験の参加者は初回と、その後引き続いて3回以上のCTスキャンを受け、5年間経過観察された。

「この試験で、進行肺癌の症例数、および肺癌による死亡数の減少は一切みられなかった。このことが、今回の知見において最も注意を喚起したいところである。」と、JAMA論説の共著者であるダーマス・ヒッチコック医療センターのWilliam Black医師は指摘した。

この結果は、ステージ1の疾病を持つ患者においてCT検診による10年間の生存率が88%であるという昨年10月に本項で特集された報告と今後比較されるだろう。New England Journal of Medicine誌における彼らの報告では、試験の責任医師らは、リスクの高い個人におけるCT検診は、肺癌による死亡の80%を予防するであろうとしている。

この2つの研究の間の大きな相違は、実際何が起こっているのかを解明するため、ランダム化臨床試験が必要であることをより強固にすると、Black医師は言う。彼は、この矛盾を説明するのに最も考えられることは、最初の試験は、主なアウトカムの測定方法として生存率を、2番目の試験は死亡率を用いたことであるという。

「今回の新しい試験は大変よくできており、極めて重要なものである。」と、NCIのDivision of Cancer Prevention(癌予防部門)のChristine Berg医師は述べる。「この疑問を解決するために、エンドポイントとして死亡率を掲げた前向き試験の重要性が、今回の結果によって強調された。」

JAMAの本研究に対する論説では、綿密な癌スクリーニング試験は費用と時間を要するので、しかも実益より害のほうが大きい高価なスクリーニング手技の広範な実行を費用対効果の面から比較することを薦めている。

Bach医師は、NLSTの結果を心待ちにしているが、当初、CTが利益をもたらすだろうと期待して、この試験に入った。「われわれは、みなが落胆を隠せない。その理由は、他の人々と同様、われわれも、この悲惨な疾患への打開策を切望しているからである。」と、彼は述べている。

—Edward R. Winstead

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野中 希 訳

平 栄(放射線腫瘍科) 監修 

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翻訳担当者 野中 希 、、

監修 平 栄(放射線腫瘍科)

原文掲載日 

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