非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)は肺癌のリスクを低減する可能性がある

キャンサーコンサルタンツ
2009年3月

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の使用は、肺癌リスクをわずかに低減する可能性があることがFred Hutchinson Cancer Research Centerの研究者らにより報告された。本研究の詳細については、Cancer Epidemiology, Biomarkers and Prevention誌の電子版において2009年3月17日に報告されている。[1]

肺癌は、米国における癌死因でもっとも多い。肺癌の予防策としてもっとも効果的な方法は禁煙である。しかし、全ての肺癌が喫煙と関連しているわけではなく、仮に全ての人が禁煙したとしても、過去の喫煙暦によるリスクのある人が沢山存在する。このことが、肺癌予防の他の方法を求める上において重要となる。

定期的なアスピリンおよび非ステロイド性抗炎症薬の使用は、結腸直腸腺腫、乳癌、前立腺癌、胃癌、食道癌、膵臓癌のより低い発生率に繋がっている。しかし、非ステロイド性抗炎症薬の肺癌リスク減少効果に関する研究は、矛盾した結果が出ている。40,000人の女性を対象とした前向き試験においては、アスピリンまたはその他の非ステロイド性抗炎症薬が肺癌リスクを減少させることを証明できなかった。[2] 300,000人以上を対象とした大規模試験においても、一般集団または慢性肺疾患のハイリスク患者を対象とした試験においても、肺癌に対する非ステロイド性抗炎症薬の保護作用を証明できなかった。[3] ハーバード大学の研究者らの報告によると、非ステロイド性抗炎症薬の1年間服用が、肺癌リスクのわずかな減少と関連したが、アスピリンの効果はみいだせなかった。[4] 肺癌患者1,884人と対照群6,000人を含む試験においては、アスピリンと非ステロイド性抗炎症薬の定期的な使用は肺癌リスクを減少しないと結論付けられた。[5] しかし、Wayne State Universityの研究者らは、アスピリンの使用は、女性における肺癌リスクの有意な減少を伴うことを示唆するデータを発表した。[6] この試験において、もっとも著明な効果が認められたのは65~74歳の女性においてであった。

最新の試験は、Seattle-Puget Sound Surveilance, Epidemiology and End Results cancer registryから確定された50~76歳の男女77,125人を対象としたものである。本試験での肺癌症例は665例であった。本試験において、10年間にわたり非ステロイド性抗炎症薬を常用している患者の肺癌リスクは18%減少したことが判明した。相関は腺癌でもっとも強く、さらに、男性で長期間にわたる喫煙暦を持つ人に限られたものであった。アスピリンとその他の非ステロイド性抗炎症薬は効果が同等であると考えられた。著者らは、「非ステロイド性抗炎症薬の使用の総計では、肺癌リスクのわずかな減少と関連しており、腺癌および長期間にわたる喫煙暦を持つ男性において強い相関がみられた。これらの知見は、既知の肺癌発癌機構により支持されたものであり、非ステロイド性抗炎症薬が化学予防に役立つと示唆するものである」と結論付けた。

コメント:本論文は、肺癌の化学予防としての非ステロイド性抗炎症薬の効果に関する論争を増した。疑いもなく、この論争は今後も継続していくであろう。元喫煙者がこれらの矛盾するデータを熟慮し、非ステロイド性抗炎症薬の服用によるわずかな可能性という利点にリスクをかける価値があるかどうか自ら決意することを期待するところであるが、相関関係を考慮出来る結腸直腸腺癌予防のような非ステロイド性抗炎症薬によるもう一方の利点も存在する。

参考文献:
[1] Slatore CG, Au DH, Littman AJ, et al. Association of nonsteroidal anti-inflammatory drugs with lung cancer: Results of a large cohort study. Cancer Epidemiology Biomarkers and Prevention [early online publication]. 2009; March 17.

[2] Hayes JH, Anderson KE, Folson AR. Association between nonsteroidal anti-inflammatory drug use and the incidence of lung cancer in the Iowa Women’s Health Study. Cancer Epidemiology, Biomarkers and Prevention. 2006;15:2226-2231.

[3] Wall RJ, Shyr Y, Smally W, et al. Nonsteroidal anti-inflammatory drugs and lung cancer: a population-based case control study. Journal of Thoracic Oncology. 2007;2:109-114.

[4] Hernandez-Diaz, Rodriquez LA. Nonsteroidal anti-inflammatory drugs and risk of lung cancer. International Journal of Cancer. 2007;120:1565-1572.

[5] Kelley JP, Coogan P, Strom BL, et al. Lung cancer and regular use of aspirin and nonaspirin nonsteroidal anti-inflammatory drugs. Pharmacoepidemiologic Drug Safety. 2008;17:322-327.

[6] Van Dyke AL, Cote ML, Prysak G, et al. Regular adult aspirin use decreases the risk of non-small cell lung cancer among women. Cancer Epidemiology, Biomarkers and Prevention. 2008;17:148-157.


  c1998- CancerConsultants.comAll Rights Reserved.
These materials may discuss uses and dosages for therapeutic products that have not been approved by the United States Food and Drug Administration. All readers should verify all information and data before administering any drug, therapy or treatment discussed herein. Neither the editors nor the publisher accepts any responsibility for the accuracy of the information or consequences from the use or misuse of the information contained herein.
Cancer Consultants, Inc. and its affiliates have no association with Cancer Info Translation References and the content translated by Cancer Info Translation References has not been reviewed by Cancer Consultants, Inc.
本資料は米国食品医薬品局の承認を受けていない治療製品の使用と投薬について記載されていることがあります。全読者はここで論じられている薬物の投与、治療、処置を実施する前に、すべての情報とデータの確認をしてください。編集者、出版者のいずれも、情報の正確性および、ここにある情報の使用や誤使用による結果に関して一切の責任を負いません。
Cancer Consultants, Inc.およびその関連サイトは、『海外癌医療情報リファレンス』とは無関係であり、『海外癌医療情報リファレンス』によって翻訳された内容はCancer Consultants, Inc.による検閲はなされていません。

翻訳担当者 近江屋 芽衣子

監修 古瀬 清行(呼吸器内科/日本・多国間臨床試験機構(JMTO)顧問)

原文を見る

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

肺がんに関連する記事

免疫療法抵抗性肺がんにデュルバルマブ+セララセルチブ療法が有望の画像

免疫療法抵抗性肺がんにデュルバルマブ+セララセルチブ療法が有望

MDアンダーソンがんセンターデュルバルマブ+セララセルチブが肺がん患者の免疫反応を高め、予後を改善することが第2相試験で明らかにテキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者...
ROS1陽性肺がんでレポトレクチニブが新たな治療選択肢にの画像

ROS1陽性肺がんでレポトレクチニブが新たな治療選択肢に

米国国立がん研究所(NCI) がん研究ブログ2023年11月、食品医薬品局(FDA)は、ROS1遺伝子融合と呼ばれる遺伝子変化を有する一部の進行肺がんの治療薬としてrepotrecti...
非小細胞肺がん、アロステリックEGFR阻害による薬剤耐性克服の可能性の画像

非小細胞肺がん、アロステリックEGFR阻害による薬剤耐性克服の可能性

ダナファーバーがん研究所アロステリック阻害薬EAI-432は、EGFR変異陽性の非小細胞肺がん(NSCLC)に対する新たな治療法を提供するEAI-432は、ATPポケット以外の部位に結...
一部の小細胞肺がんにタルラタマブが有効の画像

一部の小細胞肺がんにタルラタマブが有効

米国国立がん研究所(NCI) がん研究ブログ新しいタイプの標的免疫療法薬が、肺がんの中で最も悪性度の高い小細胞肺がん(SCLC)患者の約3人に1人で腫瘍を縮小させたことが臨床試験の結果...