臨床第1相CAR-T細胞療法は再発B細胞リンパ腫に何年にもわたる寛解をもたらしている

患者自身の免疫細胞をがん細胞を攻撃するように再設計するキメラ抗原受容体(CAR)T細胞治療の第1相臨床試験で治療を行った再発B細胞リンパ腫患者において、ごくわずかな副作用はあるものの最大5年の寛解という前例のない効果がもたらされていることが示された。2020年10月6日付けJournal of Clinical Oncology誌に発表されたNCIがん研究センター(CCR)の研究は、CAR- T細胞治療の効果がこれまでに報告されていたよりもはるかに長く続くことを示している。

CAR-T細胞治療では、T細胞として知られる病気と闘う白血球が患者より採取され、がん細胞の表面にあるタンパク質を標的とする受容体であるCARを発現するように実験室で遺伝子工学的に修飾される。作成されたCAR-T細胞は、増殖させてから点滴により患者の体内に戻され、そこでさらに増殖して標的タンパク質を発現するがん細胞に襲いかかり破壊することができるようになる。

B細胞リンパ腫は、B細胞として知られる白血球の一種に発生するタイプのがんである。外科部門の上席研究員James Kochenderfer医師および部門長スティーブン・ローゼンバーグ(Steven Rosenberg)医学博士が率いる研究者らは、B細胞にのみ発現しているタンパク質であるCD19を標的とするキメラ抗原受容体(CAR)を開発した。

第1相臨床試験において、Kochenderfer医師と共同研究者らは、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、原発性縦隔B 細胞リンパ腫、低悪性度B細胞リンパ腫や慢性リンパ性白血病を含む種々の再発B細胞リンパ腫の患者43人を治療するために抗CD19 CAR-T細胞を用いた。このうち3人の患者はCAR-T細胞治療を2回受けたので、試験全体では46回の治療が施された。2009年から2015年までの試験期間中、研究者らはT細胞の調製方法や治療計画を改良した。それ以来、抗CD19 CAR-T細胞治療は多施設での後期段階臨床試験で試されている。この治療法は、再発、または2つ以上の他の治療に反応しなかったいくつかのタイプの大細胞型B細胞リンパ腫の患者に対して米国食品医薬品局(FDA)により2017年に承認され、イエスカルタ(一般名:アキシカブタジン シロルーセル)として販売された。

この新たな報告では、抗CD19 CAR-T細胞治療により寛解が得られた患者に対するこれまでで最も長い期間の追跡調査の結果が示されている。報告の筆頭著者は、外科部門の腫瘍内科フェローであるKathryn Cappell医学博士である。Kochenderfer医師の研究チームは、評価可能な45の治療のうち51%において3年以上の寛解を認めた。これらの治療の後は、患者らは追加のリンパ腫治療を必要とすることなく中央値で55カ月生存した。従来の治療法ではわずか6カ月以下の余命とされた患者の多くが完全寛解にとどまり、一人の患者は9年以上も完全寛解を維持している。

長期的な副作用は稀であった。抗CD19 CAR-T細胞治療では腫瘍性のB細胞も健全なB細胞も等しく除去されるため、4人の患者が肺炎やその他の感染症により入院したが、その後、回復した。

今回の知見は、抗CD19 CAR-T細胞治療によりある種の再発Bリンパ腫の患者を治療し得る可能性を高めるものである。「それがこの論文のエキサイティングなところです。このような患者は、治療を継続せずとも問題なく何年も生きることができるのです」とKochenderfer医師は語る。

Kochenderfer医師と共同研究者らは、彼らの開発した抗CD19 CAR-T細胞治療法を改良するとともに、リンパ腫に対する新しいCAR-T細胞治療を開発しようとしている。

翻訳担当者 伊藤彰

監修 吉原哲(血液内科・細胞治療/兵庫医科大学)

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