小児、若年ホジキンリンパ腫サバイバーでは心血管疾患リスクが上昇

ホジキンリンパ腫サバイバーの重度の心血管イベントリスクの上昇は放射線治療歴と関連

Lancet Oncology誌の最新号で発表された解析によると、小児、青年期および若年成人のホジキンリンパ腫サバイバーは、対応する対照集団と比較して、根治的治療による心血管疾患のリスクが大幅に高い。

特に高線量の放射線治療を受けた小児ホジキンリンパ腫の長期生存者は、グレード3から5の心血管イベントのリスクが高い。

Nickhill Bhakta氏らは、聖ジュード小児研究病院で進行中の2つの臨床試験、St Jude Lifetime Cohort Study(SJLIFE)およびSt Jude Long-term Follow-up Study (SJLTFU)に参加したホジキンリンパ腫サバイバーのデータを解析した。SJLIFEコホート試験は2007年4月27日に開始され、同院で治療あるいは経過観察された小児がんサバイバーの転帰を縦断的かつ臨床的に評価することを可能としたものであり、SJLTFUは2000年に開始され,行政システムに基づき進行中の試験で、同院で小児がんの治療を受けたすべての患者の転帰と遅発性の毒性データを収集するものである。

本解析のコホートには、病理学的に原発性ホジキンリンパ腫であると診断を受けて10年以上経ち、聖ジュード小児研究病院で治療を受けた18歳以上の患者が含まれた。解析は、現在明らかになっていない小児、青年期、および若年成人ホジキンリンパ腫のサバイバーの心血管イベントの発生率を決定することを目的とした。

研究者らは、両試験のホジキンリンパ腫サバイバーの確認された医療記録を用いた心血管イベントの発生率の比較に、累積負荷計測法を適用した。SJLIFEがんサバイバーのサンプルと、一般集団で頻度が一致し、評価時に18歳以上であった対照の被験者との転帰を比較した。サバイバー群と対照群を各性別で5歳ごとのブロックに層別化した。

一般集団の対照群は過去の治療歴に関係なく選択されたが、聖ジュード小児研究病院の患者の一等親血縁者、小児がんの病歴がある者、および妊娠中の女性は除外された。

SJLIFE試験の全サバイバーおよび対照群で、22の慢性心血管疾患について評価した。この評価と後ろ向き臨床レビューから、修正版有害事象共通用語基準(CTCAE)4.03版のグレードを用いて、重症度を割り当てた。死亡を競合リスクとした平均累積カウントを使用して累積負荷を見積もった。

全体として、10年以上生存し、18歳に達した患者670人が聖ジュード小児研究病院で治療を受けていた。このうち348人はSJLIFE試験で臨床的に評価され、適格であった残りの322人はSJLIFE試験に参加しなかった。年齢と性別が一致した一般集団のSJLIFE対照コホートには272人が含まれた。解析では、サバイバーと対照コホートで50歳までに発生した心血管イベントの累積発生率を比較した。

がんサバイバーの心血管イベントの累積発生率は、一般集団の対照群の2倍以上である

ホジキンリンパ腫の診断からSJLIFEの初回臨床評価までの平均期間は23.1年、中央値は22.2年(10.9~45.4年)であった。

グレード1から5の心血管イベントの年平均増加率は、30歳から55歳では、すべての年齢層でSJLIFE適格サバイバーが一般集団の対照群より高く、50歳のサバイバーでは、グレード1から5の累積負荷は対照コホートのほぼ2倍であった。

100人あたりの50歳までのグレード1から5の心血管イベントの累積負荷は、対照コホートの227.4(95%信頼区間[CI]192.7~267.5)に対して、サバイバーでは430.6(95%CI 380.7~480.6)であった。

グレード3から5の重篤な心血管イベントでは、50歳までの100人あたり累積発生数は、対照群では17.0件(95%CI 8.4~27.5)であったのに対し、サバイバーでは100.8件(95%CI 77.3~124.3)であった。

研究者らによると、グレード3から5の心血管イベントを1回以上経験する累積発生率はがんサバイバーでは45.5%(95% CI 36.6~54.3)であったのに対し、対照群では15.7%(95% CI 7.0~24.4)であった。

1万人・年あたりの心血管疾患による死亡率はSJLIFE試験参加者で6.8人であったのに対し非参加者では42.3人であり、サバイバー全体では42.3人および21.8人であった(p = <0.0001)。

サバイバーでグレード3から5の心血管イベント数が著しく増加した主な要因は、心筋梗塞および構造的心臓欠陥であった。

治療で受けた放射線線量がグレート3から5の心血管イベントの負荷の増加に関連

医療記録から化学療法剤の累積投与量を得た。またサバイバー186人の放射線療法の要約記録から最大心臓線量を得て、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの放射線物理センターでサバイバー484人について最大心臓線量が推定された。

三次スプラインを用いて、性別、治療時期、および人種で調整したマーク付き点過程回帰を行い、心臓への累積アントラサイクリン用量および放射線量と、慢性心血管疾患の累積負荷との関連を推定した。

これらの方法により、ホジキンリンパ腫の治療中に35Gy以上の高い心臓線量を受けたサバイバーと、グレード3から5の心血管疾患の割合の増加に関連性が見出された(p = 0.008)。

しかし、最大250mg / m までのアントラサイクリンの治療量では、心血管イベントの増加とアントラサイクリンへの曝露量増加との間に関連性は認められなかった(p = 0.15)。

結論

著者らは、本解析がホジキンリンパ腫の成人サバイバーでは心血管イベントの発生率が高いという他の研究報告を支持するものだと指摘した。リスク上昇は累積負荷測定によって最もよく反映されるとコメントした。

平均すると、対照群と比較して、50歳のサバイバーが経験する慢性的な心血管疾患は2倍以上、生命を脅かす、または致死的な、グレード3から5の重度の心血管イベントはおよそ5倍になるだろうと著者らは述べた。

ホジキンリンパ腫の若年サバイバーでは、高齢者と比較しても心血管疾患のリスクが高いため、医師らは独自の治療計画を策定すべきであると著者らは助言した。特に35Gy以上の放射線量が日常的に使用されていた古いプロトコルが利用されていた場合には、サバイバーの検診や治療において、臨床医はこれらのリスクを認識することが重要であると強調している。

本研究は、米国国立がん研究所、セント・バードリック財団、および米国のレバノンのシリア連合慈善団体から資金が提供された。

参照

Bhakta N, Liu Q, Yeo F, et al. Cumulative burden of cardiovascular morbidity in paediatric, adolescent, and young adult survivors of Hodgkin’s lymphoma: an analysis from the St Jude Lifetime Cohort Study. Lancet Oncol 2016;17(9):1325-34.

翻訳担当者 日ノ下満里

監修 太田真弓(精神科・児童精神科/さいとうクリニック院長)

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原文掲載日 

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