抗PD-1抗体抵抗性の悪性リンパ腫にエピジェネティック療法併用が有望
エピジェネティック療法により「冷たい腫瘍」を「熱い腫瘍」へ転換して難治性NK/T細胞リンパ腫の免疫療法反応を促進
米国がん学会(AACR)の学術誌Cancer Discovery誌に掲載された研究によると、エピジェネティック療法と抗PD-1抗体(ウイルス感染に対する生体の自然反応を利用する)とを併用した治療法により、再発または難治性のNK/T細胞リンパ腫(R/R NKTL)患者において有望な結果が示された。この希少かつ悪性度の高いがんは、治療選択肢が限られている。
本研究の著者のJing Tan博士(中山大学がんセンター中国南方腫瘍学国家重点実験室の主任研究員)は、次のように述べた。「再発または難治性のNK/T細胞リンパ腫(R/R NKTL)は非ホジキンリンパ腫の稀な亜型であり、現在標準的な治療戦略が存在しません」。免疫系ががん細胞をより効果的に発見・攻撃するのを助ける抗PD-1療法は、再発または難治性のNK/T細胞リンパ腫治療において有望な結果を示しているが、多くの患者は反応を示さない、または耐性を獲得してしまう、と説明した。
Choon Kiat Ong博士(シンガポール国立がんセンター細胞分子研究部リンパ腫トランスレーショナル研究室の共同執筆者兼主任研究員)は、次のように語った。DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤(DNMTi)はエピジェネティック修飾酵素阻害剤であり、内因性レトロウイルス要素と呼ばれる沈黙化した遺伝子を活性化させます。内因性レトロウイルス要素は、ヒトゲノムに組み込まれた古代のウイルス感染の残骸であり、活性化されると「ウイルス模倣」と呼ばれるプロセスを通じ、身体の免疫系を高度な警戒状態に置くことになります。
「我々は、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤(DNMTi)がウイルス模倣を引き起こし、「冷たい腫瘍」を「熱い腫瘍」に変化させることで、NK/T細胞リンパ腫の抗PD-1療法に対する感受性を回復させることができるという仮説を立てました」と、Ong博士は語った。
Tan博士らは、抗PD-1療法に最初は反応を示したが、その後再発した難治性のNK/T細胞リンパ腫患者21名を対象にしたレトロスペクティブ解析を実施した。研究者らはこれらの患者に対し、PD-1阻害剤シンチリマブと、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤(DNMTi)であるデシタビンまたはアザシチジンの併用療法を施行した。さらに、抵抗性と反応性のメカニズムを解明するため、前臨床マウスモデルも開発された。
21名の患者のうち、併用療法後に10名が完全寛解、4名が部分奏効を示した。
2年全生存率は50.2%であった。「この新規療法は、抗PD-1治療後に病勢が進行した患者において、全生存期間の中央値を従来の3カ月という基準と比較して著明に延長します。また、再発例のサブグループに対しては、この併用療法が根治的治療となり得る可能性があります」と、Tan博士と同じ施設で共同研究者として主任研究員を務めるHuiqiang Huang医学博士は述べた。
「我々の研究は、ウイルス模倣を介した免疫応答の活性化においてDNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤(DNMTi)の有用性を明らかにしました。この併用療法は、科学的に検証済みで即座に利用可能な選択肢を提供し、再発または難治性のNK/T細胞リンパ腫(R/R NKTL)患者の生存率を大幅に改善する可能性があります」と、Huang医学博士は語った。
前臨床データは、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤(DNMTi)が内因性レトロウイルス要素の脱メチル化(活性化)により免疫抵抗性を逆転させることを示した。Tan博士らはこの活性化が、タイプ1インターフェロンシグナル伝達経路と呼ばれる特異的メカニズムを介した免疫応答を引き起こし、CD8陽性T細胞を腫瘍に引き寄せて攻撃を受けやすくすることを明らかにした。
本研究結果は、他のがん種に関する先行研究と一致しており、ウイルス模倣反応が、腫瘍に伝達される免疫療法の効果を高める有望な戦略であることを示唆している、とTan博士は述べた。
本研究の限界は、そのレトロスペクティブな性質と小規模なサンプルサイズにあり、これにより選択バイアスが生じる可能性があり、より広範な集団へ本研究結果を適用する上では制約されてしまう。もう一つの限界は、NK/T細胞リンパ腫の希少性と後ろ向きデザインにより、研究者が包括的なプロファイリングと分析に必要な十分な腫瘍組織を入手する能力が制約された点である。さらに、本研究で使用された前臨床モデルでは、抗PD-1治療に対する獲得耐性が「冷たい」腫瘍の典型的な特徴と関連していることが示されたものの、NK/T細胞リンパ腫患者における正確な腫瘍微小環境の特性は本研究では調査されていない。
本研究は、中国国家自然科学基金、中国の国家重点研究開発計画、広州市科学技術計画プロジェクト、シンガポール保健省の国立医学研究評議会、Tanoto Foundation、およびLing Foundationの資金提供を受けて実施された。Tan博士、Ong博士、およびHuang医学博士は利益相反がないことを宣言している。
監訳 吉原 哲(血液内科・細胞治療/兵庫医科大学)翻訳担当者 平 千鶴原文を見る原文掲載日 2025/10/15
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