原発性縦隔B細胞リンパ腫に化学免疫療法後の放射線治療は不要な可能性

米国臨床腫瘍学会(ASCO2023)

ASCOの見解

「これらの知見は、若年成人に多く発生する悪性度の高い種類のリンパ腫において特に重要である。これらの心強いデータにより、高用量の初回化学免疫療法に迅速に反応した原発性B細胞リンパ腫の患者において、治療の一環として地固め放射線治療を受けるかどうかにかかわらず、がんの再発の可能性が極めて低く、優れた転帰を示すことが実証された。すなわち、このような患者が生存率を低下させることなく、放射線治療とその副作用を安全に回避できることを意味する」と、ASCO専門家のCorey W. Speers医師は述べている。

原発性縦隔B細胞リンパ腫に関する最大規模の前向き研究の結果、化学免疫療法後に代謝学的完全奏効を示した患者では、放射線治療が不要である可能性が示された。国際共同試験であるIELSG37試験により、これらの患者は治癒の可能性を損なうことなく、遅発性の毒性を回避できる可能性があることが明らかになった。本研究は、この研究は、米国臨床腫瘍学会年次総会(ASCO2023)で発表される。

試験要旨

目的原発性縦隔B細胞リンパ腫(PMBCL)に対する放射線療法の最適化について
対象者13カ国以上から登録された18歳から70歳(中央値35歳)の545人(男性209人、女性336人)の患者
結果・ 本ランダム化試験では、化学免疫療法後に代謝学的完全奏効(CMR)を示したPMBCL患者において、放射線療法が不要であるかどうかを検証した。
・ 導入化学免疫療法が終了した530人の患者で奏効を評価した。268人(50.6%)がCMRとなり、観察群(132人)または放射線治療群(136人)にランダムに割り振られた。
・ 追跡期間中央値は63カ月(四分位範囲:48-69カ月)だった。30カ月時点の無増悪生存率は、放射線治療群で98.5%、観察群で96.2%であった。
・ 放射線治療群と観察群のハザード比(HR)の推定相対効果は、未調整で0.47(0.12~1.89)、ランダム化に用いた変数の層別化後では0.79(0.19~3.31)であった。30カ月後の放射線治療による絶対リスク減少は、未調整で2.3%(-1.5~6.2)、HRを層別化すると0.8%(-3.0~8.3)であった。
重要性PMBCLは、臨床的にも生物学的にも、他のタイプの高悪性度リンパ腫とは異なるものである。縦隔大細胞型B細胞リンパ腫は、高悪性度のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)であり、胸の中央に大きな腫瘤として現れ、30〜40歳の女性に多くみられる。非ホジキンリンパ腫の約2.5%がこの亜型に該当する。

本試験は、寛解が速やかに得られない場合や病気が再発した場合に予後不良となるPMBCLについて実施した過去最大の前向き試験である。本試験では、アントラサイクリンとリツキシマブを含むレジメンによる標準化学免疫療法後にPET/CT検査でリンパ腫が完全奏効した患者を対象に、縦隔の放射線治療と観察のみの場合を比較した。本試験で示されたように、放射線治療を実施しないという選択肢により、不必要な副作用やコストを患者が回避できることになる。

主な知見

本試験では、放射線治療を受けたかどうかにかかわらず、完全奏効の患者ではランダム化から30カ月後の全生存率が99%であることが分かった。放射線治療による再発リスク低減の追加効果はわずかであり、両群の患者で非常に似た無増悪生存率が観察された。

導入化学免疫療法が完了した530人の患者で奏効が評価された。268人(50.6%)がCMRとなり、観察群(132人)または放射線治療群(136人)にランダムに割り振られた。 追跡調査期間の中央値は63カ月(四分位範囲:48~69カ月)であった。30カ月後の無増悪生存率は、放射線治療群で98.5%、観察群で96.2%であった。

標準的な化学免疫療法により最も多くみられた副作用は、脱毛、疲労、口や喉の痛み、一過性の白血球減少(その後の感染症のリスクあり)、血小板減少(あざや出血のリスクあり)、赤血球の減少(貧血)であった。放射線治療により、虚血性心疾患、高血圧、弁膜症、心臓組織の瘢痕化または炎症など、心臓関連の問題が生じることがある。肺を含む放射線照射は、瘢痕組織(線維症)や炎症(肺炎)、拘束性肺疾患や閉塞性肺疾患を引き起こす可能性がある。

「リツキシマブが登場する前の化学療法単独での成績が悪く、またほぼ全例に放射線治療を行った試験では優れた結果が示されたことから、初回治療で治癒率を最大化するために放射線治療の併用が歴史的標準治療となった」と、スイス・ベリンツォナにある南スイス腫瘍学研究所のコンサルタント兼リンパ腫ユニット長のEmanuele Zucca医師は述べた。「しかし、縦隔放射線治療の長期的な毒性はよく知られており、特に若年成人を中心とした患者群では、乳がん、甲状腺がん、肺がんといった2次がんや冠動脈疾患や心臓弁膜症のリスク増大が指摘されている。本研究は、化学免疫療法が原発性縦隔B細胞リンパ腫の有効な治療法であることを示し、治癒の可能性に影響を与えることなく放射線治療を省略することを強く支持している」

最近の研究では、DA-EPOCH-R療法(用量調整するエトポシド、プレドニゾン、ビンクリスチン、シクロホスファミド、ドキソルビシン、リツキシマブ)のような積極的な化学免疫療法レジメン単独により、放射線療法を使用せずに優れた結果が得られることが分かっている。さらに、チェックポイント阻害薬やCAR-T細胞療法などの新規免疫療法は、治療後に再発した患者に有望視されている。

次のステップ

現在、研究者らは、初回化学免疫療法で完全奏効が得られなかった患者において、PET検査とともにctDNA(リキッドバイオプシー)を用いることで、適切な治療方針を決定できるかどうかを検証する新しい試験の実施可能性を検討している。

  • 監訳 吉原哲(血液内科・細胞治療/兵庫医科大学)
  • 翻訳担当者 河合加奈
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  • 原文掲載日 2023/06/06

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