MDアンダーソン研究ハイライト:米国血液学会(ASH)2023特集

MDアンダーソンがんセンター

特集:急性骨髄性白血病(AML)および大細胞型B細胞リンパ腫の新規治療、様々な白血病の治療戦略、リンパ球輸注後の患者の転帰改善

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テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究ハイライトでは、がんの治療、研究、予防における最新の画期的な発見を紹介している。これらの進歩は、世界をリードするMDアンダーソンの臨床医と研究者による、垣根を超えた継ぎ目のない連携によって可能となり、研究室から臨床へ、そしてまた研究へと発見がもたらされる。

本特集では、2023年米国血液学会(ASH)年次総会で発表された口頭発表を取り上げ、血液腫瘍に関する最新の科学的・臨床的分野での画期的な研究結果を紹介します。これらの研究に加え、今後発表されるプレスリリースでは、再発・難治性マントル細胞リンパ腫におけるイブルチニブ(販売名:イムブルビカ)とベネトクラクス(販売名:ベネクレクスタ)の併用療法(アブストラクト LBA-2)、未治療の骨髄線維症におけるnavitoclax[ナビトクラクス ]とルキソリチニブ(販売名:ジャカビ)の併用療法(アブストラクト 620)、特異的な遺伝子変化を有する進行白血病患者に対するメニン阻害薬(アブストラクト 5758)、非進行性全身性肥満細胞症患者における bezuclastinib[ベズクラスチニブ]の試験(アブストラクト 77)に関する画期的な研究結果が紹介されます。MDアンダーソンによるASH年次総会の内容に関する詳細は、MDAnderson.org/ASHでご覧いただけます。

再発・難治性AML患者において Tuspetinib [タスペチニブ]は単剤およびベネトクラクス(販売名:ベネクレクスタ)との併用で臨床効果を示す(アブストラクト 162

再発・難治性(R/R)急性骨髄性白血病(AML)の治療は困難であり、多くの患者がベネトクラクスの治療に耐性を示す。Naval Daver医師が主導した国際共同第1/2相試験では、再発・難治性AML患者を対象に、新規の骨髄キナーゼ阻害薬である tuspetinibの単剤投与およびベネトクラクスとの併用投与を評価した。tuspetinib単剤投与患者100人のうち、奏効率はベネトクラクス投与歴のある患者で14.3%、FLT3遺伝子変異を有しFLT3阻害薬の投与歴のある患者で23.1%、NPM1およびFLT3変異を有する患者で66.7%であった。また、TP53変異(40%)およびRAS変異(22.2%)を有する患者で複合的完全寛解が認められたが、これらは一般にベネトクラクスや標準治療に対する耐性と関連している。併用療法群は暫定的な奏効を示した。このデータは、tuspetinibが多様なAML患者において管理可能な安全性と有効性を有することを示唆している。Daver医師はこの結果を12月9日に発表する予定である。

悪性度が高い再発・難治性大細胞型B細胞リンパ腫患者に対するさらに有効な治療選択肢の必要性(アブストラクト 309

初回治療を受けた後の悪性度が高い再発・難治性大細胞型B細胞リンパ腫患者は、しばしば予後不良である。Loretta Nastoupil医師率いる研究者らは、成人患者に対する二次治療以降の化学免疫療法および3つの新規併用療法の有効性を後ろ向き研究で評価した。化学免疫療法群の奏効率(ORR)は33.8%で、15.5%の患者が完全奏効を得た。この群の無増悪生存期間中央値は1.9カ月、全生存期間中央値は9.1カ月であった。3つの新規併用療法のうち、polatuzumab Vedotin-piiq[ポラツズマブベドチン]とベンダムスチン(販売名:トレアキシン)およびリツキシマブ、またはその類似治療を投与された群の奏効率が42.2%と最も高く、24.1%の患者が完全奏効を得た。新規療法を含め、すべての群で予後不良であったことから、より効果的な治療法の必要性が浮き彫りになった。Nastoupil医師はこの結果を12月9日に発表する予定である。

AML、MDS、CMML患者に対する二重特異性T細胞抗体は安全であり、さらなる研究に値する(アブストラクト 322

多発性白血病患者の幹細胞は正常細胞と比較してCD123の発現が高く、治療標的としての可能性が強調されている。CD3/CD123二重特異性抗体である vibecotamab[ビベコタマブ] を用いた先行研究では、低芽球比率再発・難治性急性骨髄性白血病(AML)において臨床活性が示された。Nicholas Short医師が主導し、Daniel Nguyen医学博士が発表した第2相試験では、低メチル化剤の効果が得られなかった骨髄異形成症候群(MDS)および慢性骨髄単球性白血病(CMML)患者11人、および測定可能残存病変(MRD)陽性のAML患者12人を対象に vibecotamab が評価された。vibecotamab はMDSやCMML患者において64%の奏効率を示し、MRD陽性AML患者の25%はMRD陰性化を達成した。10人(44%)がグレード2のインフュージョンリアクション(投与時反応)を経験し、1人(4%)がグレード3のインフュージョンリアクションを経験した。本試験はvibecotamabが安全であることを示唆しており、AML、MDS、CMML患者に対する併用療法の一部としてさらに検討する価値がある。Nguyen医学博士はこの試験結果を12月9日に発表する予定である。

ASXL1変異が白血病におけるドナーリンパ球輸注耐性を促進(アブストラクト 364

健康なドナーからのT細胞の投与(ドナーリンパ球輸注[DLI]として知られるプロセス)は、同種幹細胞移植後に再発した白血病患者に治癒をもたらす可能性がある。しかし、なぜ一部の患者しかこの治療法の恩恵を受けられないのかは不明である。DLI耐性の経路をさらに理解するために、Dustin McCurry医師とPavan Bachireddy医師率いる研究者らは、DLIの前後に採取された再発慢性骨髄性白血病患者の骨髄サンプルを分析評価した。研究者らは、ASXL1変異はDLIに反応しなかった患者の78%に存在し、反応した患者には全く存在しないことを発見した。また、ASXL1変異により、がん細胞は抗原提示を抑制することで免疫監視から逃れることができることを見出した。これらの変異を修正すると、細胞傷害性T細胞ががん細胞を排除する能力が回復した。これらの知見は、ASXL1遺伝子変異を有する患者の抗原提示を回復させる戦略が患者の治療成績を改善する可能性があることを示唆している。米国血液学会(ASH)のAbstract Achievement Awardを受賞したMcCurry医師は、12月9日にこれらの知見を発表する予定である。

Tasquinimod[タスキニモド]が進行性骨髄増殖性腫瘍の前臨床モデルにおいて有効性を示す(アブストラクト 741

骨髄増殖性腫瘍(MPN)は血液や骨髄の疾患であり、予後不良な二次性急性骨髄性白血病(sAML)の発症につながる可能性がある。Warren Fiskus博士とKapil Bhalla医師が主導する前臨床試験では、sAMLヒト細胞を移植した細胞モデルを用いて、腫瘍増殖を抑制することで知られる低分子化合物であるtasquinimodの有効性を検討した。研究者らは、AMLの予後不良に関連する、アラーミン(alarmins)と呼ばれる2つのタンパク質、S100A8(A8)およびS100A9(A9)の存在を調査した。研究者らは、A8とA9が骨髄内の他の細胞で高発現し、MPNの一種である原発性骨髄線維症(PMF)の進行を示すことを発見した。PMFモデルにおいて、tasquinimod はA9と結合し、特定の受容体との反応を阻害した。in vitroin vivoの両試験において、タスキニモドはA8とA9の発現を有意に減少させ、ヒトsAML細胞を移植したモデルの生存率を有意に改善した。これらの結果は、進行MPNモデルにおける tasquinimodの前臨床での有効性を示すものであり、治療戦略としてさらに評価されるべきものである。Fiskus博士はこの結果を12月11日に発表する予定である。

AFM13とNK細胞の組み合わせは、難治性CD30+リンパ腫患者に対して高い忍容性と活性を示す(アブストラクト 774

標的ナチュラルキラー(NK)細胞療法は、難治性ホジキンリンパ腫やその他のCD30+リンパ腫の治療法として活発に研究されている分野である。Yago Nieto医学博士が主導した第1/2相試験では、臍帯血由来NK細胞をあらかじめ活性化し、増殖させた後、自然(免疫)細胞エンゲージャーAFM13と複合化させることで有望な結果が得られた(AFM13はNK細胞に関与して活性化することで CD30+腫瘍細胞の選択的死滅を誘導する、first-in-class[画期的医薬品]の CD30/CD16A 二重特異性抗体)。 これまでに中央値7ラインの治療を受けた患者42人のうち、AFM13-NK複合細胞は、92.8%の客観的奏効率と66.7%の完全奏効率を達成した(第2相試験の推奨用量を投与された患者36人では、それぞれ94.4%と72.2%)。追跡期間中央値14カ月の時点で、無病生存率は31%、全生存率は76%であった。本試験の初期データは2022米国がん学会年次総会(AACR Annual Meeting 2022)で発表された。Nieto氏はこの試験の最終データを12月11日に発表する予定である。

新たにびまん性大細胞型B細胞リンパ腫と診断された患者において化学療法を回避できる可能性を示唆する臨床試験(アブストラクト 856

新たにびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)と診断された成人患者は、通常CHOPと呼ばれる化学療法レジメンで治療されるが、これは重大な副作用を引き起こす可能性がある。Jason Westin医師が主導した第2相試験では、レナリドミド(販売名:レブラミド)、tafasitamab[タファシタマブ]、リツキシマブ、アカラブルチニブ(販売名:カルクエンス)(LTRA)の新規分子標的併用療法が良好な反応を示した場合に、CHOPサイクル数を減らせるか、あるいは省略できるかを検討した。患者はLTRAを4サイクル受け、奏効を評価された。治療はLTRA6サイクルに加え、完全奏効者にはCHOPを2サイクル、それ以外の患者には6サイクルまで継続した。1回目のLTRA投与後の奏効率(ORR)は100%、完全奏効率(CRR)は64%であった。LTRA+CHOP療法を2サイクル追加すると、CRRは95%に上昇した。全治療終了時のCRRは100%であった。この試験結果は、新たにDLBCLと診断された患者を標的治療のみで治療できる可能性を示唆しているが、この結果を確認するためにはさらなる試験が必要である。Westin医師は最初のコホートの結果を12月11日に発表する予定である。

濾胞性リンパ腫患者において、レナリドミドとリツキシマブにアカラブルチニブを追加することで 高い奏効率が得られる(アブストラクト 983

進行の遅い非ホジキンB細胞リンパ腫の亜型である濾胞性リンパ腫は、レナリドミドとリツキシマブによる治療後に進行または再発することがある。これまでの研究から、BTK細胞受容体によって亢進した前腫瘍マクロファージがこの進行に関与していることが示されている。Paolo Strati医師が主導した第2相試験では、新たに濾胞性リンパ腫と診断された患者に対して、BTK阻害薬であるアカラブルチニブをレナリドミドとリツキシマブの治療レジメンに組み入れた場合の影響を評価した。主な目的はマクロファージを標的とし、免疫療法に対する反応を高めることであった。その結果、奏効率は100%、完全奏効率は92%、完全奏効までの期間中央値は3カ月であった。2年無増悪生存率は79.2%であった。これらの奏効率は、アカラブルチニブを組み込むことが、この患者集団の転帰を改善する上で安全かつ有効であることを示唆している。Strati医師は12月11日にこの結果を発表する予定である。

  • 監訳 吉原哲(血液内科・細胞治療/兵庫医科大学)
  • 翻訳担当者 青山真佐枝
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  • 原文掲載日 2023/12/06

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