ラスパテルセプトが低リスク骨髄異形成症候群の貧血を改善し、輸血依存を低減
米国臨床腫瘍学会(ASCO)
ASCOの見解
「赤血球輸血に依存している低リスクMDSの貧血患者において、ラスパテルセプトにより12週以上の輸血非依存を達成した人の数は、現在の標準治療であるエポエチンアルファと比較して、ほぼ2倍である。「ラスパテルセプトは、低リスクMDSに伴う貧血に有効な最初の治療選択肢となる可能性があります」とASCOの専門医であるOlatoyosi Odenike医師(FASCO:ASCOフェロー)は語る。
現在の標準治療である赤血球造血刺激因子製剤(ESA)の代わりに、ラスパテルセプト[luspatercept](販売名:Reblozyl®)による貧血治療を受けた低リスク骨髄異形成症候群(MDS)患者は、輸血回数や通院回数が少なかった。本試験は、2023年米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表される。
試験要旨
目的 | 成人の低リスクMDS患者にラスパテルセプトを用いた貧血の初回治療 |
対象者 | 貧血の治療で赤血球の輸血を必要とし、赤血球造血刺激因子製剤(ESA)の投与を受けていない成人の低リスクMDS患者354人 |
試験結果 | ・ラスパテルセプト(Reblozyl)により、エポエチンアルファ(標準治療)と比較した場合、輸血を必要としなくなった患者数はほぼ2倍となった。 ・データ解析時、ルスパテルセプト投与群86人(58.5%)およびエポエチンアルファ投与群48人(31.2%)は、主要評価項目である輸血非依存が12週以上と投与開始24週以内の平均ヘモグロビン増加量1.5g/dL以上を達成した。(副次的評価項目はアブストラクトに詳述) ・ラスパテルセプト投与群164人(92.1%)およびエポエチンアルファ投与群150人(85.2%)に治療下で有害事象が発生した。その結果、ラスパテルセプトを服用した8人(4.5%)およびエポエチンアルファを服用した4人(2.3%)が治療を中止した。 ・ラスパテルセプト投与群4人(2.2%)およびエポエチンアルファ投与群5人(2.8%)に急性骨髄性白血病(AML)への進行が認められた。全死亡率は両治療群間で同等であった(ラスパテルセプトが18%、エポエチンアルファが18.2%)。 |
意義 | ・MDS患者の70%以上が低リスクの疾患に分類される。これらの患者の60%以上が輸血を必要とする。 ・これらの知見に基づき、ラスパテルセプトは、低リスクMDSに関連する貧血の初回治療における新たな標準治療となり、ESAに取って代わる可能性がある。 ・患者は投与のための通院回数が少なくなる。ラスパテルセプトは、ESAが毎週投与されるのに対し、3週間に1回の投与である。 |
主な知見
第3相国際COMMANDS臨床試験に低リスクMDSで貧血治療のために赤血球輸血を必要とする354人が登録された。本試験の参加者は過去にESAによる治療を受けていない。試験参加者は、24週以上の間3週間に1回ラスパテルセプトを投与される群が178人、24週以上の間1週間に1回エポエチンアルファ(ESA)を投与される群の176人の2群に分けられた。治療期間中央値がラスパテルセプトで41.6週、エポエチンアルファで27週の後、計画された中間データ解析に含まれた参加者は301人であった。本試験の主要評価項目は、治療開始後24週以内に平均ヘモグロビン増加量が1.5g/dL以上を達成すると同時に輸血非依存が12週以上とした。この計画された中間データ解析時点でこの評価項目を達成したのは、エポエチンアルファ群が31.2%であったのに対し、ラスパテルセプト群は58.5%であった。
本試験の副次的評価項目は、血液学的改善-赤血球(HI-E)効果が8週以上、輸血非依存が24週および12週以上であった。HI-E効果とは、血液中のヘモグロビンがどの程度増加しているかを示す指標である。HI-E効果が良い場合、輸血への依存度が低下したり、輸血の回数が減少したりする可能性があることを示唆する。これら評価項目により、ルスパターゼはエポエチンアルファよりも有効で、HI-E効果はルスパターゼが74.1%、エポエチンアルファが51.3%、24週時の輸血非依存はルスパターゼが47.6%、エポエチンアルファが29.2%、12週以上の輸血非依存はルスパターゼが66.7%、エポエチンアルファが46.1%であった。
「今回の研究で、ラスパテルセプトを投与された人は、エポエチンアルファを投与された人と比較して、赤血球の輸血依存から離脱する可能性が有意に高かったです。ESAは何十年にもわたり低リスクMDS患者の初回治療であったため、これは重要です」とテキサス大学MDアンダーソンがんセンター(テキサス州ヒューストン)の白血病科教授で骨髄異形成症候群部門の責任者である筆頭著者のGuillermo Garcia-Manero医師は語る。「ラスパテルセプトは、ESAの代わりにラスパテルセプトを最初に投与するというように、治療状況を変える可能性があります。患者がクリニックを訪れる回数が減り、輸血を受ける回数も減るでしょう。患者はQOLが向上し、良い転帰の恩恵を受けることになります」
治療下で発現する有害事象は、エポエチンアルファ投与群(150人、85.2%)と比較して、ラスパテルセプト投与群(164人、92.1%)でわずかに多くみられた。その結果、ラスパテルセプト群で8人(4.5%)、エポエチンアルファ群で4人(2.3%)が治療を中止した。ラスパテルセプト投与群は、エポエチンアルファ投与群と比較して、治療に関連した有害事象の報告が多かった(ラスパテルセプトが30.3%、エポエチンアルファが17.6%)。ラスパテルセプト治療との関連性が疑われる主な有害事象は、吐き気(5.1%)、疲労(3.9%)、息切れ(呼吸困難、3.4%)および高血圧(高血圧症、3.4%)であった。病気が急性骨髄性白血病(AML)に進行したのは、ラスパテルセプト投与群が4人(2.2%)、エポエチンアルファ投与が5人(2.8%)であった。全死亡率は両治療群間で同等であった(ラスパテルセプトが18% 、エポエチンアルファが18.2%)。
2020年、ラスパテルセプトは、ESAに効果を示さなくなった後の低リスクMDS患者またはESAを受けられない患者の貧血治療薬として米国食品医薬品局から承認された。ラスパテルセプトは、骨髄が赤血球細胞(未熟な赤血球)を機能的な成熟赤血球に成長させるのを助ける赤血球成進剤である。
試験について
この非盲検ランダム化第3相試験に20カ国以上からの参加者が含まれている。本試験の参加者は18歳以上の成人である。参加者の年齢中央値は74歳で、ほとんどが白人(80%)、男性(56%)であった。参加者は全員、改訂版国際予後判定システム(IPSS-R:International Prognostic Scoring System)で分類された低リスクMDSであった。ESAによる治療を受けたことのある人や赤血球の輸血を必要とした人はいなかった。
次のステップ
本結果は、試験終了前に実施が予定されていたデータ解析によるものである。試験参加者の約80%から得られた知見を示している。次のステップで24週の治療が完了した患者全員のデータを評価する予定である。また、参加者全員を最長5年間観察し、患者の行動を管理する。
本試験は、Bristol Myers Squibb社から資金提供を受けている。
- 監訳 吉原哲(血液内科・細胞治療/兵庫医科大学)
- 翻訳担当者 松長愛美
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- 原文掲載日 2023/05/25
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