米国血液学会(ASH)2021-ダナファーバーがん研究所の発表

ダナファーバーの研究が米国国血液学会の公式プレスプログラムに選ばれる

12月11~14日にバーチャル形式で開催される第63回米国血液学会(ASH)年次総会で、ダナファーバーがん研究所の研究者らが30件以上の研究結果を発表する。そのうちの1つが、公式プレスプログラムで発表する研究に選ばれた。ダナファーバーは、血液・骨髄疾患を持つ患者のための最大かつ最も権威のある治療センターの1つである。

米国血液学会は、世界で最も包括的な血液学の学会であり、世界中から血液学の専門家2万人以上が集う。2021年の米国血液学会年次総会では、多発性骨髄腫、リンパ腫、白血病、その他の血液腫瘍の理解と治療に関して、従来の診療を変える可能性のある最新の科学的情報が発表される。ダナファーバーの研究者らによる注目の口頭発表を以下に挙げる。

【演題】高リスク集団における単クローン性免疫グロブリン血症の有病率は高い:Promise試験の初の結果報告* 

アブストラクト:152  統括筆者:Irene Ghobrial医師  発表者:Habib El-Khoury医師  セッション開始時間:12月11日(土)午後12:15

多発性骨髄腫は、意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症(MGUS)から発生する。MGUSは、50歳以上の一般集団の約3%にみられ、臨床的に検出可能だが無症状の前がん状態の段階である。骨髄腫の発症リスクが高い集団、特にアフリカ系アメリカ人または血液悪性腫瘍患者の一等親におけるMGUSの有病率は発表されていなかった。2019年、ダナファーバーの研究者らはPROMISE試験を開始した。この試験は、骨髄腫のリスクが高い人を対象とした米国初の全米スクリーニング試験であり、スクリーニングと疾患の前駆段階における早期介入で最も恩恵を受ける集団をより確実に特定するために実施されている。骨髄腫リスクが高い集団のMGUSの有病率を評価し、陽性と判定された人の臨床的変数を特徴付けることを研究者らは目指している。ダナファーバーの研究者らは最初の参加者2,960人について暫定的なスクリーニングデータを報告する。

【演題】高リスクくすぶり型骨髄腫患者の免疫療法への反応の指標となる免疫バイオマーカーを単一細胞RNA配列解析により同定

アブストラクト:330  著者:Romanos Sklavenitis-Pistofidis医師  セッション開始時間:12月11日(土)午後5:15

くすぶり型多発性骨髄腫(SMM)患者は通常、明らかな多発性骨髄腫に進行するまで観察されるが、高リスク患者の早期治療により予後が改善される可能性がある。臨床バイオマーカーおよびゲノムバイオマーカーは進行リスクの高いくすぶり型多発性骨髄腫患者の特定に役立つが、腫瘍の免疫微小環境のプロファイリングを並行して行うことでモデルの改良が進むかどうかはまだ不明確である。

【演題】多発性骨髄腫患者におけるコロナワクチンの有効性は不十分:米国退役軍人局による全米大規模研究

アブストラクト:400  著者:Nikhil Munshi医師  セッション開始時間:12月12日(日)午前10:15

SARS-CoV-2ウイルスによる2019年新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は多発性骨髄腫患者において特に深刻であり、いくつかの研究では死亡率が30%を超えると推定されている。一般集団では、コロナワクチンの接種が感染予防に有効な方法であることが実証されている。しかし、ワクチン接種の試験に骨髄腫患者は含まれていない。免疫不全の患者はコロナワクチン接種への抗体反応が低下することが最近の研究で示唆されており、骨髄腫患者は、骨髄腫自体やその治療のために免疫不全にある場合が多い。米国退役軍人局医療制度(national Veterans Affairs healthcare system)の後ろ向きコホート研究では、初回ワクチン接種後140日の期間にコロナワクチン接種が骨髄腫患者のCOVID-19感染を予防する効果を実臨床で評価する。

【演題】低リスクくすぶり型多発性骨髄腫を鑑別するための進行確率をゲノムレベルで定義

アブストラクト:545  著者:Anil Aktas-Samur医学博士  セッション開始時間:12月12日(日)午後5:30

診断から5年以内に毎年平均で、意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症(MGUS)の1%、くすぶり型多発性骨髄腫(SMM)の10%が、症候性骨髄腫に進行する。くすぶり型多発性骨髄腫患者の進行確率は最初の5年が経過すると有意に低下する。しかし、特定のくすぶり型多発性骨髄腫患者群は2年以内に進行し、20/2/20や特定のゲノム特性などのリスクマーカーに基づいて高リスク患者に再分類される。くすぶり型多発性骨髄腫に関する高リスクのゲノム特性は最近の研究で評価されているが、長期(5年以上)の追跡調査後に骨髄腫に進行しなかったくすぶり型多発性骨髄腫患者のゲノム背景は解明されていない。

【演題】くすぶり型および新たに診断された多発性骨髄腫患者におけるエピゲノムによるMYC調節異常の新たなメカニズムの解明

アブストラクト:504  著者:Mahshid Rahmat医学博士  セッション開始時間:12月12日(日)午後5:45

MYCがん遺伝子の発現亢進は、多発性骨髄腫を含む多くのヒトがんの発生と維持に関連する。骨髄腫はクローン性の形質細胞の悪性腫瘍であり、MYC調節異常は、意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症(MGUS)およびくすぶり型多発性骨髄腫(SMM)の前駆段階から症候性骨髄腫に進行する際の重要な兆候である。8q24.21 MYC遺伝子座の転座および増幅は、一部の患者の前がん期のMYC調節異常のメディエーターとして知られている。しかし、患者のDNAおよびRNA配列解析から、MYC遺伝子座が無傷である場合もMYC調節異常を呈することが明らかになり、骨髄腫のMYC調節異常にはさらなるメカニズムが関与していることを示している。本研究発表では、骨髄腫細胞内のエピゲノムによるMYC転写調節異常の新メカニズムをダナファーバーの研究者らが説明する。骨髄腫に特異的な転写因子(TF)の結合を介した新規非コード制御領域の活性化が骨髄腫のMYC調節異常と関連していることを、研究結果は示している。

【演題】慢性リンパ性白血病の若年患者の初回治療としてイブルチニブをフルダラビン、シクロホスファミドおよびリツキシマブ(iFCR)と併用する多施設共同第2相試験の長期追跡調査

アブストラクト:640  著者:Matthew Davids医師・医科学修士  セッション開始時間:12月13日(月)午前11:15

フルダラビン+シクロホスファミド+リツキシマブ(FCR)療法は、同種移植を除けば、若年で健康なIGHV変異型慢性リンパ性白血病(CLL)患者に対する長期追跡調査において機能的治癒の可能性が有意に認められている現在唯一の治療法である。若年で健康な慢性リンパ性白血病患者の広範な集団におけるイブルチニブ(販売名:イムブルビカ)の優れた有効性と忍容性をもとに、新薬(イブルチニブ)と化学免疫療法を期限付きで併用した場合に、IGHVの状態に関係なく慢性リンパ性白血病患者が長期寛解を得ることが可能かどうかを判断するために、研究者らはiFCRの一次治療試験を計画した。中央値16.5カ月の追跡期間で、FCR療法後2カ月の骨髄微小残存病変陰性(BM-uMRD)に基づく完全奏効率(主要評価項目)は33%であり、患者の84%が最良効果としてBM-uMRDを達成したと、ダナファーバーの研究者らは以前に報告した。米国血液学会では、iFCR治療後に2年間のイブルチニブ維持療法を完了する機会が患者全員に与えられた、より長期の追跡調査の最新データを報告する。

【演題】くすぶり型多発性骨髄腫のゲノムプロファイリングにより、異なる病原性表現型と臨床転帰を持つ分子グループを分類

アブストラクト:723  著者:Irene Ghobrial医師  セッション開始時間:12月13日(月)午後3:15

多発性骨髄腫は、治癒の見込みのない形質細胞の悪性腫瘍であり、それに先立って一般に無症状期のくすぶり型多発性骨髄腫(SMM)が生じる。骨髄腫は、染色体の増減(CNV)、転座、点変異(SNV)といった有意なゲノム不均一性を特徴とし、これらはくすぶり型多発性骨髄腫患者にもみられる変化である。しかし、現在のくすぶり型多発性骨髄腫リスクモデルは臨床マーカーのみを用いているため、進行リスクを正確に把握できない。ゲノムバイオマーカーをいくつか取り入れることによって予測が向上するが、骨髄腫ゲノム特性をすべて用いて包括的に患者を層別することで、くすぶり型多発性骨髄腫のリスク層別化の精度が向上する可能性がある。

*****

研究発表に加え、ダナファーバーの研究者2人が年次総会で表彰を受ける。Margaret Shipp医師には、Ernest Beutler Lecture and Prizeが授与される。この賞は、ホジキンリンパ腫のゲノミクスとその腫瘍環境への影響を解明したShipp医師の研究が評価されたものである。Donna Neuberg科学博士には、ASHと血液学への長年の奉仕と献身に対し、the 2021 Exemplary Service Awardが授与される。ASH Presidential SymposiumではMatthew Davids医師が講演予定であり、多くの有効な薬剤が利用可能になった現在、急性および慢性血液悪性腫瘍の変異型p53とその経路を阻害または再活性化する現在の治療戦略について論じる。

*(アスタリスク)は2021年米国血液学会年次総会のプレスプログラムに選ばれた研究を示す。

翻訳担当者 松長愛美

監修 吉原哲(血液内科・細胞治療/兵庫医科大学)

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原文掲載日 

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