FDAが多発性骨髄腫に初のCAR-T細胞療法薬としてidecabtagene vicleucelを承認

速報 

2021年3月27日

米国食品医薬品局(FDA)は、4種類以上の治療法に奏効がみられなかったか再発した成人の多発性骨髄腫患者を対象に、細胞ベースの遺伝子治療薬idecabtagene vicleucel[イデカブタジェン ビクルユーセル](販売名:Abecma)を承認した。idecabtagene vicleucelは、多発性骨髄腫の治療薬としてFDAから承認された最初の細胞ベースの遺伝子治療薬である。

FDA生物学的製剤評価研究センターのピーター・マークス所長は、「FDAは、患者のニーズが十分に満たされていない分野において、新たな治療法を推進することに尽力している。多発性骨髄腫に根治療法はないが、診断時の年齢や病状によって、長期的な見通しは異なる。この薬剤の今回の承認により、珍しいタイプの患者に新たな治療の選択肢を提供することができる」と述べている。

多発性骨髄腫は、異常な形質細胞が骨髄に蓄積し、全身の骨に腫瘍を形成する珍しいタイプの血液がんである。この病気では、骨髄が健康な血球を十分に作れなくなるため、血球数が少なくなる。また、骨髄腫は骨や腎臓にダメージを与え、免疫システムの機能を低下させる。多発性骨髄腫の明確な原因は不明である。米国国立がん研究所によると、骨髄腫は、2020年に米国で新たに発生したがん患者の約1.8%(32,000人)を占めていた。

idecabtagene vicleucelは、B細胞成熟抗原(BCMA)誘導型の遺伝子組み換え自家キメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法であり、白血球の一種である患者自身のT細胞を用いて骨髄腫を攻撃するようカスタマイズした治療法である。患者のT細胞を採取し、骨髄腫細胞を標的にして死滅させるための新しい遺伝子を組み込み、改変する。改変されたT細胞は再び患者へ投与される。

 idecabtagene vicleucelの安全性と有効性は、多施設共同試験で確立され、少なくとも3種類の骨髄腫に対する治療を受けた、再発性骨髄腫(治療終了後に再発した骨髄腫)および難治性骨髄腫(治療が奏効しなかった骨髄腫)の患者127人が対象となった。本試験では、約88%の患者が以前に4種類以上の骨髄腫に対する治療を受けていた。全体として、72%の患者に治療に対する部分的な奏効または完全な奏効がみられた。試験対象者のうち28%の患者にidecabtagene vicleucelに対する完全奏効、すなわち多発性骨髄腫のあらゆる兆候の消失が認められ、さらにそのうち65%の患者が少なくとも12カ月間は完全奏効を維持した。

idecabtagene vicleucelの治療は、重篤な副作用を引き起こす可能性がある。添付文書には、サイトカイン放出症候群(CRS)、血球貪食性リンパ組織球症/マクロファージ活性化症候群(HLH/MAS)、神経毒性、および長期の細胞減少症に関する、枠組み警告が記載されており、これらはすべて致命的または生命を脅かす可能性がある。CRSおよびHLH/MASは、CAR-T細胞の活性化と増殖に対する全身反応で、高熱やインフルエンザのような症状を引き起こす。また、長期の細胞減少症は、特定の血球の細胞数が長期間にわたって減少する。idecabtagene vicleucelに最もよくみられる副作用は、CRS、感染症、疲労、筋骨格痛、免疫システムの機能低下などである。治療による副作用は通常、治療後1~2週間以内には発現するが、一部の副作用はそれ以降に発現することもある。多発性骨髄腫の患者は、idecabtagene vicleucelが自身とって適切な治療法かどうかを判断するため、医療従事者と十分な相談をするべきである。

CRSおよび神経毒性のリスクがあるため、idecabtagene vicleucelは安全に使用するためのリスク評価およびその緩和策をとることを前提に承認されている。FDAは、idecabtagene vicleucelを調剤する病院とその関連クリニックは特別な認定を受け、同剤の処方、調剤、投与に携わるスタッフが、CRSや神経毒性、その他の副作用を認識し、管理するためのトレーニングを受けることを要求している。また、患者には、重篤な副作用の可能性があること、投与後に副作用が発現した場合は速やかに病院を受診することの重要性を伝えるべきである。

翻訳担当者 滝坂美咲

監修 喜安純一(血液内科・血液病理/飯塚病院 血液内科)

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原文掲載日 

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