レナリドミドは高リスク前がん性骨髄腫から多発性骨髄腫に進行するリスクを軽減

ASCOの見解
「がんが発症するかどうかわからない中で生きることは非常に難しいため、多発性骨髄腫のリスクが高い患者に、錠剤を飲めばがんを予防したり発症を遅らせたりすることができると言えるのは素晴らしいことです。しかし、このアプローチはすべての人に使えるわけではありません。というのも、重い副作用や多額の費用がかかる可能性があるからです。まだ当面は様子を見るのが明らかに得策で、すべての患者は主治医に相談すべきです」と、ASCO会長、Monica M. Bertagnolli医師(FACS、FASCO)は述べた。

第2 / 3相ランダム化臨床試験E3A06の結果、レナリドミド(レブラミド)は、前がん状態であるくすぶり型多発性骨髄腫(SMM)が多発性骨髄腫 に進行するリスクを、中リスクまたは高リスク患者において有意に低下させることがわかった。臓器損傷は通常、多発性骨髄腫にみられ、くすぶり型多発性骨髄腫と区別する方法のひとつである。 3年経過時点で、病態が進行しなかったのは、レナリドミドを投与したくすぶり型多発性骨髄腫患者のうち87%(第2相試験)および91%(第3相試験)であったのに対して、同治療薬を投与せず進行の可能性がないかどうか経過観察しただけの患者では66%(第3相試験)であった。経過観察は現在の標準的な対処法である。この試験はシカゴで開催される次回の2019年ASCO年次総会で発表される予定である。

「私たちが通常診察する患者は、2種類に分かれます。がんの発症を防ぐために何とかしたいと切望する患者と、もっと慎重で様子をみてもいいと考える患者です。特に前者の患者群にとっては、実行可能な治療法の選択肢があるかもしれないことがわかって喜ばしいです」 と、ジョージア州アトランタのエモリー大学ウィンシップがん研究所の所長であり、本試験の筆頭著者であるSagar Lonial医師は述べた。

レナリドミドは、数十年前に鎮静薬として開発された治療薬サリドマイドの類似体である。レナリドミドは、多発性骨髄腫にみられるような、腫瘍に栄養を与える可能性のある血管の形成を防ぐ一方、深刻な副作用のリスクも有する。

86,000人以上の多発性骨髄腫患者を対象とした最近の研究(1)では、13.7%がくすぶり型多発性骨髄腫であると最初に診断され、診断時の年齢中央値は67歳であった。多発性骨髄腫の診断データから米国全体について推定すると、米国では年間およそ4,400人がくすぶり型多発性骨髄腫と診断されていることになる。しかしながら、最初の5年間で多発性骨髄腫に進行するのは、そのうちの半数に過ぎない。多発性骨髄腫と診断された場合、5年生存率は50%を超える。生存率は、新しい治療法がいくつかあるおかげで、過去10年間で着実に上昇している(2)。

今年の初頭にASCOは、「がんに対する進歩を加速させる研究の優先順位」のリストに「前がん病変を検出し治療する戦略の特定」を挙げた(3)。今回の試験の知見は、この重要な必要性を支持し、この前がん状態の患者に新しい予防療法を提供するのに役立つ。

試験について

E3A06試験では、中リスクまたは高リスクのくすぶり型多発性骨髄腫患者を2つの相で登録した。第2相試験では、潜在的な有効性を評価するために患者44人にレナリドミドを投与した。第3相試験では、28日間の治療サイクルにおける最初の21日間、毎日レナリドミド25mgを1錠投与する群、または観察群のいずれかに182人を無作為に割り付け、登録前1年以内または登録から1年以上経過後に高リスクくすぶり型多発性骨髄腫と診断されたかどうかに基づいて層別化した。

この試験では、研究者らは登録時に脊椎および骨盤のMRIにより疾患を検出した。MRIは、通常のX線画像よりも感度が高い。くすぶり型多発性骨髄腫に対する介入を探索する先行試験ではX線画像が使用されていた。スペインで行われた2015年の試験では、レナリドミドとデキサメタゾンの併用により、くすぶり型多発性骨髄腫患者が多発性骨髄腫を発症するまでの期間が延長し、生存期間が延長したことが示された。

主要な知見

第2相試験と第3相試験の両方で、レナリドミドは中リスクおよび高リスクのくすぶり型多発性骨髄腫患者の転帰を改善した。

無増悪生存期間:第2相試験では、試験開始から3年後、登録者の87%がくすぶり型多発性骨髄腫から多発性骨髄腫に進行することなく生存していた(無増悪生存期間を骨髄腫発症までの期間として定義)。第3相試験では、試験開始から1年後、2年後、3年後の無増悪生存率は、レナリドミドを投与した患者でそれぞれ98%、93%、91%で、同治療薬を投与せず経過観察だけした患者ではそれぞれ89%、76%、66%であった。

安全性:レナリドミドに耐えることができなかった患者の割合は憂慮すべき結果であり、第2相試験の患者80%と第3相試験の患者51%が副作用のために薬の服用を中止した。患者28%に認められた最も多い副作用には、疲労など非血液毒性もしくは非血液(骨髄関連)のものがみられた。高グレードの好中球減少症(白血球の一種である好中球の数が少ない状態)は、患者約5%にみられた。 レナリドミドを服用した患者と服用しなかった患者の間に、患者報告による生活の質の差はなかった。

研究者らによると、この試験と2015年のスペインの試験とを組み合わせた肯定的な結果は、臨床診療における変革を裏付ける可能性がある。

次の段階

研究者らは現在、毒性のためにレナリドミドの服用を中止した患者の分析を行い、限られた用量でも多発性骨髄腫への進行を遅らせる可能性があったかどうかを調べている。Lonial医師は、この試験の最大の特徴として、早期介入により、患者が骨髄腫を有するとみなす現在の判断基準である臓器障害の発症を防ぐことができると示していると指摘した。

この試験は、米国国立衛生研究所から資金を受けた。

試験概要

試験の焦点:くすぶり型多発性骨髄腫から多発性骨髄腫への進行遅延におけるレナリドミドの有効性

試験の種類:第2/3相ランダム化臨床試験

参加患者数:226人

試験した治療法:レナリドミド 対 観察

主要な知見:レナリドミドによりがん発症が遅延したのは、患者の87%(第2相試験)および91%(第3相試験)であった。これに対して、第3相試験の観察群の患者で発症がみられなかったのは66%であった。

副次的な結果:第2相試験の患者80%および第3相試験の患者51%が、毒性のために薬剤投与を中止した。

参考文献

1 A Ravindran A, Bartley AC, et al. Blood Cancer J. 2016 Oct; 6(10): e486

2 Cancer.Net Multiple Myeloma Statistics: https://www.cancer.net/cancer-types/multiple-myeloma/statistics

3 ASCO: Nine Research Priorities to Accelerate Progress Against Cancer. https://www.asco.org/research-progress/reports-studies/clinical-cancer-advances-2019/nine-research-priorities-accelerate

翻訳担当者 有田香名美

監修 喜安純一(血液内科・血液病理/飯塚病院 血液内科)

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原文掲載日 

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