モチキサフォルチドは多発性骨髄腫患者の造血幹細胞移植を改善する可能性

米国国立がん研究所(NCI) がん研究ブログ

多発性骨髄腫患者に対する治療法は、がん化した血液細胞を大量化学療法により殺傷し、その後、患者自身の血液から採取した細胞を用いて造血幹細胞移植を行い、回復を促すことが多い。しかし、移植に適格な患者の約15~30%において、採取した造血幹細胞の数が移植の成功にとって最適ではない。

新規臨床試験の結果から、ある治験薬がこうした課題の打開に役立つ可能性が示される。治験薬であるモチキサフォルチドは、造血幹細胞がヒトの骨髄から血流に移行するよう促すものである。

この臨床試験では、モチキサフォルチドの1回注射投与+G-CSF(顆粒球コロニー形成刺激因子、造血幹細胞を骨髄から血液に「動員」するために最も広く用いられる薬剤)の一連の注射投与により、G-CSFの単剤投与と比較して、採取した幹細胞数が顕著に増加した。

NCIとBioLineRx社(モチキサフォルチドの製造企業)の支援を受けたランダム化第3相臨床試験の結果は、Nature Medicine誌4月17日号に発表された。

「モチキサフォルチドが高い有効性と簡便性を備えていることから、この結果は実臨床を変える可能性があります」とEduard Schulz医学博士(NIH骨髄性悪性腫瘍プログラムのメンバー。この臨床試験には不参加)は述べた。

この新薬がこの用途で米国食品医薬品局(FDA)により承認されると、より多くの多発性骨髄腫患者が、造血幹細胞移植に最適な数の幹細胞を採取できるようになるだけでなく、採取工程の迅速化と効率化も期待できると、この臨床試験の筆頭研究者である Zachary Crees医師(ワシントン大学医学部)は述べた。

造血幹細胞移植が正常な血球数の回復を促す

多発性骨髄腫では、異常な形質細胞(白血球の一種)が骨髄や血液中に蓄積し、骨に腫瘍を形成する。Schulz氏は次のように説明する。「多発性骨髄腫は治癒できませんが、長期寛解が可能です」。「大量化学療法、および患者自身の細胞による造血幹細胞移植である自家造血幹細胞移植が、長期寛解を達成する主な方法の1つです」。

大量化学療法は骨髄腫細胞だけでなく、骨髄にある健常な造血幹細胞(未分化な血液細胞)も殺傷する。患者は危険なほど血球数が少なくならないようにするため、その後に造血幹細胞移植を受けることになる。

大量化学療法と自家造血幹細胞移植には、いくつかの段階が存在する。患者は、体内の腫瘍量を減少させて寛解を導入するための初期治療レジメン(導入療法という)を受けた後、造血幹細胞をさまざまな薬剤によって動員し、アフェレーシスという手法で血液から採取する。

次に、患者は導入療法後に残存する骨髄腫細胞の殺傷を目的とする大量化学療法を終えた後、輸血と同様の方法で造血幹細胞が戻される。造血幹細胞は骨髄に到達し、そこで生着という過程で新たな白血球、赤血球、および血小板の産生を開始する。患者は、血球数が回復するまで入院する。

移植のために最適な数の造血幹細胞を確保する

造血幹細胞移植でその数が最適未満だと、回復が遅れたり抑制されたりする可能性がある。「そのため、入院期間が長くなったり、輸血の必要性が高まったり、感染症リスクが高まったりする可能性があります」とCrees氏は述べた。

特に造血幹細胞移植施設から遠く離れた場所に住んでいる場合、「患者にとって移動や経済的な面で大きな負担」となる可能性もあるとCrees氏は指摘した。

造血幹細胞の採取量が少ないことは、「患者が将来、造血幹細胞を必要とする場合に備えての、造血幹細胞が残らないということでもあります」とCrees氏は言い添えた。

造血幹細胞を採取する前に、医師は患者に、できるだけ多くの造血幹細胞を血流に乗せるための治療を行う。動員療法には、G-CSF単剤療法、G-CSF+一部の化学療法薬、G-CSF+プレリキサホル(モゾビル)、または上記の3つを併用した方法があるとSchulz氏は述べた。

十分量の造血幹細胞が採取できるまで、患者はG-CSF+プレリキサホルの注射投与とアフェレーシスを何日も受ける必要があり、その場合でも、細胞数が迅速かつ確実に回復するためには、最適ではない可能性があるとCrees氏は述べた。

移植関連医療の改善により、高齢患者は造血幹細胞移植を安全に受けられるようになった。しかし、高齢であること、および、多発性骨髄腫の治療に用いられる新薬もしくは薬剤併用療法は、造血幹細胞の動員を損なう可能性があるとCrees氏らは記した。

ヒトを対象とした小規模予備試験で、モチキサフォルチドが血液中の造血幹細胞数を著しく増加させる可能性が示された。そこで研究者らは、造血幹細胞移植を必要とする高齢患者を含む多発性骨髄腫患者を対象とする、より大規模で厳密な臨床試験で、モチキサフォルチドを検証しようと考えた。

モチキサフォルチドの安全性と有効性

GENESIS試験に、18~78歳の多発性骨髄腫患者122人が登録された。参加患者は造血幹細胞動員のために、G-CSF+モチキサフォルチド投与患者とG-CSF+プラセボ投与患者にランダムに割り付けられた。

自家造血幹細胞移植に最適な幹細胞数は体重1kgあたり500万~600万個以上、「最低でも1kgあたり200万個」で、「通常、最適な数の幹細胞が投与されると、生着や血球の回復が早くなり、患者は早期に退院できます」とSchulz氏は述べた。

GENESIS試験では、G-CSF+モチキサフォルチド投与患者の約93%から、1日おきに最大2回のアフェレーシスを行い、1kgあたり600万個以上の造血幹細胞を採取できた。一方、G-CSF+プラセボ投与患者では約26%に留まった。

その上、G-CSF+モチキサフォルチド投与患者の89%では、たった1回のアフェレーシス処置で1kgあたり600万個以上の造血幹細胞を採取できた。一方、G-CSF+プラセボ投与患者では10%に留まった。1日のアフェレーシスで動員された造血幹細胞数の中央値は、G-CSF+モチキサフォルチド投与患者では1kgあたり1,080万個で、G-CSF+プラセボ投与患者では1kgあたり225万個であった。

「これこそが大きな違いで、この(アフェレーシス)処置を何度も経験する必要のない、患者にとってより良い生活を実現できる可能性があります」とSchulz氏は述べ、アフェレーシス追加処置の抑制と入院期間の短縮により、医療費の削減もできると指摘した。

しかし、モチキサフォルチドがFDAに承認された場合の費用はまだ不明であるとSchulz氏は警告した。

BioLineRx社は、造血幹細胞動員促進薬としてFDAに承認を申請しており、9月までに決定する予定である。

モチキサフォルチドの副作用、生存率、およびプレリキサホルとの比較

全体として、G-CSF+プラセボ投与患者の約5%、およびG-CSF+モチキサフォルチド投与患者の約28%で、治療関連の重篤な副作用が認められたが、致死的なものは存在しなかった。モチキサフォルチド投与に関連する最も頻度の高い副作用は、注射部位の短時間の疼痛や発赤、ならびに顔面紅潮、掻痒、もしくは熱感などの一時的な全身性反応であった。

造血幹細胞移植から1年後の全生存率は、2つの治療患者間で差は認められなかった。GENESIS試験の研究者らは、より長期にわたる追跡調査後に生存率の差が生じるかどうかを確認するため、参加患者の追跡調査を継続している。

GENESIS試験の研究者らは、G-CSF+プレリキサホル投与患者14人とGENESIS試験の参加患者の一部と比較した小規模付随試験の結果も報告した。これらの結果から、G-CSF+モチキサフォルチド併用投与は造血幹細胞の動員において、G-CSF+プレリキサホル併用投与よりも優れていることが示唆される。

しかし、これらの両剤がランダム化試験で直接比較検証されなかったため、この結果は確定的なものではないとSchulz氏は警告し、プレリキサホルとモチキサフォルチドの両剤は、造血幹細胞が骨髄内に留まるように指示する化学的シグナルを阻害することで作用するので、両剤を比較するランダム化臨床試験は「より優良で公平な比較試験になったはずである」と述べた。

最後に、Crees氏らは、G-CSF+プラセボ、モチキサフォルチド、もしくはプレリキサホルによって動員された異なる種類の造血幹細胞を検証する一連の試験を実施した。

「すべての幹細胞が同一とは限りません」とSchulz氏は解説し、これらの試験から、モチキサフォルチドはプレリキサホルやプラセボと比較して、最も未分化な造血幹細胞を高い比率で動員することが示され、より迅速な生着につながる可能性があると述べた。

大量化学療法後の造血幹細胞移植が多発性骨髄腫の治療において中心的な役割を果たすとはいえ、CAR-T細胞療法やその他の種類の免疫療法などの、長期生存や治癒の可能性がある治療法を研究者らが探し続けているため、その状況は変化することがある。また、こうした治療法がいつ自家造血幹細胞移植に取って代わるか、または、その必要性を大幅に減らすことができるのか、現在も議論が続いているとSchulz氏は述べた。

  • 監訳 喜安 純一(血液内科・血液病理/飯塚病院 血液内科)
  • 翻訳担当者 渡邊 岳
  • 原文を見る
  • 原文掲載日 2023年5月23日

【この翻訳は、米国国立がん研究所 (NCI) が正式に認めたものではなく、またNCI は翻訳に対していかなる承認も行いません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】

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