米医療費負担適正化法(ACA)により、卵巣がんの診断・治療が迅速化

ASCOの見解
「あらゆる種類のがん、特に卵巣がんにおいて早期発見と迅速な治療は重要です。この研究は、健康保険が利用できることが重要であり、ケアを受ける機会格差の是正にも役立ち、最終的には卵巣がん患者に対する長期的な転帰を改善することを裏づけています」と、ASCO専門員でFACP(Fellow of American College of Physicians:米国内科学会フェロー) のMerry-Jennifer Markham医師は述べている。

National Cancer Databaseからのデータ分析によると、2010年医療費負担適正化法(Affordable Care Act:ACA)施行後、65歳未満の女性で、卵巣がんが早期段階において診断および治療されたことがわかった。診断から30日以内に治療を受けた女性も増加し、それによって生存の可能性が高まった。

この研究は、本日の記者会見で発表され、2019年米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表される。

「早期段階での卵巣がんの発見および治療は、進行した治療不能段階でのがんの治療と比較して、より多くの命を救い、医療費を削減することができます」と、本研究の筆頭著者で、メリーランド州ボルチモアのジョンズホプキンス産婦人科研修医Anna Jo Smith医師(公衆衛生学修士)は言う。「健康保険への加入は、病気の症状を監視し、必要に応じてそれらの症状に対処できる医療ケアを女性が利用できるかどうかにおいて、大きな役割を果たします」。

早期卵巣がんと診断された女性の5年生存率は75%以上だが、進行した段階で診断された女性は30%以下である[1] 。早期段階で卵巣がんを検出できるスクリーニング検査はなく、わずかな症状が何年も続く可能性がある。患者がこれらの症状をより早く医師に報告すれば、臨床検査を行ってがんであるかどうかを確認することができ、その後できるだけ早く治療することができる。

2010年3月の医療費負担適正化法(ACA)成立後に保険適用が可能となり、2016~2017年までに約1,270万人がACAによる保険に加入した[2]。保険に加入していない米国人の割合は、2010年初めの16%から2016年には12%以下まで低下した。

研究について
研究者らは、新たな卵巣がんの全症例の約70%に関するデータを収集している、National Cancer Database[3]から卵巣がんデータを調査した。研究者らは、2004年~2009年(ACA施行前、35,842人の患者)と2011年~2014年(ACA施行後、37,145人の患者)のそれぞれの期間に卵巣がんと診断され 、治療を受けた女性に関するデータを収集した。21~64歳の女性について、診断時点の卵巣がんステージと治療までの時間に基づきデータを評価した。この21~64歳の女性グループと、ほぼ同人数の65歳以上の女性グループを比較検討した。このうち65歳以上のグループを対象群(コントロール)とした。なぜなら、彼女らはメディケア(米国の高齢者向け医療保険制度)を利用できるため、ACA施行前後どちらにおいても無保険であるリスクがかなり低かったからである。

研究者らは 、女性が加入している保険の種類を調べ、人種、地方在住、近隣の世帯収入、教育レベル、医療機関までの距離、国勢調査地域および彼らがケアを受けた医療機関の診療環境について調整した。研究者らはまた、併存疾患のある人々について入院後1年以内の死亡リスクを予測するチャールソン併存疾患スコアに基づきデータを調整した。

主な知見
研究者らは、「差分の差分(DD)」アプローチにより2群間の経時的変化を比較分析した。計算の結果、21~64歳女性において卵巣がん早期診断(ステージ1または2として定義)を受けた割合のACA施行後の増加は、65歳以上女性の増加と比べて1.7%高かった。また、診断後30日以内に治療をうけた割合のACA施行後の増加においても、21~64歳女性は65歳以上女性と比べて1.6%高かった。

ACA施行後に公的保険を利用した女性が最大の利益を享受したこともわかった。公的保険に加入している女性の中で、21~64歳の女性は、早期診断および適時治療を受けた割合のACA施行後の増加が、65歳以上の女性と比較して2.5%高かった。上記のすべての改善は、人種、収入、または教育レベルに関わりなくみられた。

Smith医師は、「早期診断における1.7%の差はそれほど大きいとは思えないかもしれませんが、米国で卵巣がんと診断される女性が毎年22,000人もいることを考えると、 400人近い女性が、早期の治療可能な段階で診断され、より長生きする可能性が高くなることを意味するのです」と述べた。

次のステップ
研究者らは現在、2014年以降のデータを調査中で、他の婦人科がんの傾向とACA施行との相関関係など、さらなる知見を収集している。

この研究は、ジョンズホプキンス産婦人科ケリー協会助成金(Kelly Society Grant)による資金提供を受けた。

研究概要
研究の焦点: ACA施行後の卵巣がん診断時点での病期
研究の種類: 統計分析
調査人数:各期間(ACA施行前 対 ACA施行後)および各年齢群(<65対≧65)について30,000人以上
研究した側面: 早期卵巣がんの診断までの時間と治療までの時間

主な知見
ACA施行後、より多くの女性が卵巣がんの早期段階で診断された。

副次的な知見
ACA施行後、より多くの女性が卵巣がんの診断から30日以内に治療を受けた。

参考文献
[1] NCI PDQ: www.cancer.gov/types/ovarian/patient/ovarian-screening-pdq
[2] Kaiser Family Foundation Marketplace Enrollment: https://www.kff.org/health-reform/state-indicator/marketplace-enrollment
[3] American College of Surgeons: www.facs.org/quality-programs/cancer/ncdb

翻訳担当者 畔柳祐子

監修 斎藤千恵子(薬学、毒性学/ テンプル大学)

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原文掲載日 

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