FDAが前立腺がんに初のPSMA標的PET画像診断薬を承認

2020年12月1日、米国食品医薬品局(FDA)は、前立腺がんを有する男性に前立腺特異膜抗原(PSMA)陽性病変のポジトロン断層撮影(PET)に対する初の薬剤であるガリウム68PSMA-11(Ga68 PSMA-11)を承認した。

本剤は、前立腺がんの転移(がん細胞が最初にできた場所から体の他の部位へ拡がること)が疑われる患者で、手術や放射線治療で治癒する可能性がある場合に適応となる。また、血清中の前立腺特異抗原(PSA)上昇に基づいて前立腺がんの再発が疑われる場合にも適応となる。Ga68 PSMA-11は、静脈内注射で投与される放射性診断薬である。

「Ga68 PSMA-11は、医療従事者による前立腺がん評価を支援できる重要な道具です」と、FDA 医薬品評価研究センター特殊医薬品部門の副所長代理であるAlex Gorovets医師は述べている。「今回、前立腺がん患者対象のPSMAを標的とするPET画像診断薬が初めて承認されたことで、医療従事者は、がんが体の他の部位に転移しているかどうかを検出するための新たな画像検査方法を手にすることになります」。

前立腺がんは、米国で3番目に多いがんである。米国国立がん研究所によると、2020年における前立腺がんの新規患者数は19万人を超え、この疾患による死亡者数は3万3千人に達すると推定されている。前立腺がん患者に対しては、コンピュータ断層撮影(CT)スキャン、磁気共鳴画像法(MRI)スキャン、骨スキャンといった従来の画像検査方法が用いられることが一般的ではあるものの、前立腺がん病変の検出には限界がある。前立腺がんの画像検査で承認されているPET薬剤は、他にF18フルシクロビンおよびC11コリンの2つがある。しかし、この2つの薬剤は、がん再発が疑われる場合のみ使用が承認されている。

Ga68 PSMA-11は、注射により投与されると、PSMAに結合する。前立腺がん細胞には通常、この抗原が多く発現しているため、PSMAは前立腺がんの画像検査において重要な薬理学的標的となっている。陽電子を放出する放射性薬剤であるGa68 PSMA-11は、体内の組織にPSMA陽性の前立腺がん病変が存在することを示すため、PETによる画像化が可能となる。

Ga68 PSMA-11の安全性および有効性は、前立腺がんを有する男性960人を対象に、Ga68 PSMA-11を1度ずつ注射した2件の前向き臨床試験で評価された。最初の試験では、生検により確かめられた前立腺がんを有する患者325人を対象にGa68 PSMA-11を用いて、PET/CTスキャンまたはPET/MRIスキャンを実施した。これらの患者は、前立腺および骨盤リンパ節の外科的切除を受ける可能性の高い患者で、転移高リスク群と考えられた。手術に移行した患者のうち、Ga68 PSMA-11によるPETで骨盤リンパ節に陽性反応が認められた患者は、臨床的に重要な確率で外科病理学的にも転移がんが確認された。こうした情報が治療前に得られると、患者のケアに重大な影響をもたらすことが予想される。例えば、一部の患者では不必要な手術を避けることができる可能性がある。

2番目の試験では、初回の前立腺手術後または放射線治療後に血清前立腺特異抗原(PSA)が上昇し、前立腺がん再発が生化学的に確認された635人の患者が登録された。すべての患者に対し、Ga68 PSMA-11を単回投与し、PET/CTスキャンまたはPET/MRスキャンを実施した。その結果、患者の74%において、Ga68 PSMA-11PETで検出された陽性病変が1カ所以上の身体部位(骨、前立腺床、骨盤リンパ節、または骨盤外軟部組織)に、少なくとも1つ認められた。Ga 68 PSMA-11 PETで陽性であった患者で、相関する組織生検の病理検査を受け、、従来の方法でのベースライン時またはフォローアップの画像検査結果、または比較可能な連続的PSAレベルが得られた患者の約91%に前立腺がんの局所再発または転移が確認された。そのため、2番目の試験結果にて、Ga68 PSMA-11PETは、前立腺がん再発の生化学的根拠のある患者において、病変部位を検出することが示され、治療方法に影響を与える重要な情報をもたらすことが実証された。

Ga68 PSMA-11に起因する重度の有害反応は認められなかった。Ga68 PSMA-11の使用により最もよくみられた有害反応は、吐き気、下痢、めまいであった。Ga68 PSMA-11は、他のがん種や非悪性の病変にも結合し、読影エラーを引き起こす可能性があるため、誤診を生じさせるリスクがある。また、Ga68 PSMA-11は、がんのリスク増加に関連する長期累積放射線曝露に寄与するため、放射線リスクがある。

FDAは、カリフォルニア大学ロサンゼルス校およびカリフォルニア大学サンフランシスコ校に承認を与えた。

FDAは、米国保健福祉省内の機関であり、ヒトや動物の医薬品、ヒトに使用するワクチンおよびその他のバイオ医薬品、医療機器における安全性、有効性およびセキュリティーを保証することにより、公衆衛生を保護している。また、米国の食糧供給、化粧品、栄養補助食品、電子放射線を放出する製品の安全とセキュリティー、そしてタバコ製品の規制にも責任を負っている。

翻訳担当者 重森玲子

監修 榎本 裕(泌尿器科/三井記念病院)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

前立腺がんに関連する記事

進行前立腺がんにカボザンチニブ+アテゾリズマブ併用療法が有望の画像

進行前立腺がんにカボザンチニブ+アテゾリズマブ併用療法が有望

米国臨床腫瘍学会(ASCO)ASCO専門家の見解「転移を有する去勢抵抗性前立腺がんの予後は非常に不良です。アテゾリズマブ(販売名:テセントリク)とカボザンチニブ(販売名:カボメ...
FDAが転移のない前立腺がんにエンザルタミドを追加承認の画像

FDAが転移のない前立腺がんにエンザルタミドを追加承認

米国国立がん研究所(NCI) がん研究ブログ前立腺がんの治療選択肢は過去10年間で爆発的に増えた。その流れは留まる気配がなく、最近では米国食品医薬品局(FDA)がエンザルタミド(販売名...
150回達成: ロボット手術HIFUで変わる前立腺がん治療の画像

150回達成: ロボット手術HIFUで変わる前立腺がん治療

カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)リスク少なく回復が早い高密度焦点式超音波療法(HIFU)で世界をリードするカリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)ヘルス...
FDAがBRCA変異転移性去勢抵抗性前立腺がんにニラパリブ/アビラテロン+プレドニゾン併用を承認の画像

FDAがBRCA変異転移性去勢抵抗性前立腺がんにニラパリブ/アビラテロン+プレドニゾン併用を承認

米国食品医薬品局(FDA)2023年8月11日、米国食品医薬品局(FDA)は、FDAが承認した検査で判定された、病的変異または病的変異疑いのあるBRCA遺伝子変異去勢抵抗性前立腺がん(...