腎がんを皮下注射型ニボルマブで治療、点滴より簡便になる可能性
米国国立がん研究所(NCI) がん研究ブログ
進行した腎がんの患者にとって、皮下注射投与型ニボルマブ(販売名:オプジーボ)は、本来の静脈内投与の適切な代替方法であることが、臨床試験の初期結果で示された。この皮下注射剤によって患者はより迅速かつ容易に治療を受けられるようになると専門家は言う。
その結果、「患者の治療経験は著しく改善されるでしょう」と、本臨床試験のリーダーであるSaby George医学博士(ニューヨーク州バッファロー、ロズウェルパーク総合がんセンター)は述べた。
本臨床試験には、進行または転移性腎がん患者500人近くが参加した。すべての参加者は、皮下注射投与型の新しいニボルマブ製剤または静脈内投与型のニボルマブ製剤のいずれかに無作為に割り付けられた。
本研究から、ニボルマブ皮下注射投与型は腎がんに対する効果と副作用において静脈内投与型と同様であることがわかった。また、皮下注射投与型は治療時間を30分から5分未満に短縮した。George医師は1月27日の米国臨床腫瘍学会(ASCO)泌尿生殖器がんシンポジウムでこの研究結果を発表した。
「皮下免疫療法は多くの面で胸が躍ります」と、腎がんを専門とするMark Ball医師(NCIがん研究センター。本試験には関与していない)は言う。例えば、治療時間の短縮、治療の利便性の向上、より多くの人々への治療機会の提供などをBall医師は挙げる。
Ball医師は「あまりに期待しすぎないことも大切だと思います。これが大変革となるかどうかはまだわかりません」と注意を促しつつ、「しかし、可能性をもっていることは確かです」と述べた。
ニボルマブ皮下注射:より速く、より楽な治療
ニボルマブは免疫チェックポイント阻害薬で、免疫細胞ががんを攻撃するのを助ける免疫療法の一種である。10種類以上のがんの治療に使用されている。
「現在、転移性腎がんに対する初回治療の多くは、チェックポイント阻害薬の静脈内投与で、点滴センターに通わなければなりません」とBall医師は説明した。点滴は通常、2週間または4週間ごとに2年間行われる。
しかし、多くの人々は点滴センターの近くには住んでおらず、そこに通う余裕もない。これは特に地方や発展途上国でみられる問題であるとBall医師は指摘する。また、点滴センターまで行ける人でも、予約が取れるまでに時間がかかることがよくある。
ニボルマブ皮下注射剤が最終的に米国食品医薬品局(FDA)から承認されれば、ニボルマブ皮下注射を自宅近くの医院で受けられるようになるため、患者にとって治療がより楽になるとGeorge医師は言う。
ニボルマブ皮下注射が可能になれば、患者にとって点滴センターへ頻繁に出向く時間、費用、ストレスが減るだけでなく、「必要とする人が多いために予約待ちが常に長期化している点滴センターにも余裕ができる可能性がある」とのことである。
また、ニボルマブ皮下注射投与は、静脈内投与ほど時間がかからず、外科的にポートを埋め込む必要がないため、ポートの埋め込みや維持に伴う合併症を避けることができる。
「患者さんにとって心理的なメリットも少しはあると思います」とBall医師は付け加えた。「点滴を受けるとなると、深刻な状況という感じがします」。しかし、皮下注射であれば、患者はより大きな力を得たように感じるかもしれないとのことである。
患者は「[がん治療を]通常の生活に適合させて仕事と生活のバランスをとろうとすでに奮闘している状態です」とBall医師は言う。そのため、多くのがんの治療に使用される薬剤が皮下注射剤になれば、患者のQOLが向上する可能性があると同医師は言う。
腎がんでは同様の効果
ニボルマブを製造するBristol Myers Squibb社が治験を依頼している本臨床試験には、進行または転移性腎がん患者500人近くが参加した。
この皮下注射剤は、ニボルマブをヒアルロニダーゼという天然酵素と結合させて製剤したもので、ヒアルロニダーゼは皮下注射後の薬剤の吸収を促進する。
本試験の主な目的は、皮下注射投与型ニボルマブが患者の体内での挙動(薬物動態)において、静脈内投与型ニボルマブより悪くない(非劣性)かどうかを確認することであった。
複数の指標によれば、ニボルマブの両投与型は類似した薬物動態を示した。例えば、治療開始後28日間のニボルマブの平均血中濃度は、皮下注射投与群と静脈内投与群で同様であった。
この試験では、腎がん増殖に対するニボルマブの皮下注射投与と静脈内投与の効果も比較された。がんが部分的または完全に縮小した患者の割合(客観的奏効率)は、皮下注射投与群で24%、静脈内投与群で18%であった。
さらに、がんが悪化せずに生存した期間(無増悪生存期間)は両群ともほぼ同じで、中央値は皮下注射投与群で7カ月、静脈内投与群で6カ月であった。
これらの結果は、「[皮下注射型ニボルマブの]臨床的有効性は静脈内投与型ニボルマブと少なくとも同等に良好であることを示しています」とGeorge医師は説明した。
皮下注射型ニボルマブは安全性に関しても静脈内投与型ニボルマブと同様であるとみられた。治療に関連した重度の副作用を経験した患者の割合は、皮下注射投与群では10%、静脈内投与群では15%であった。
ニボルマブ皮下注射投与群のほうが注射部位の発赤、腫れ、痛みを経験した患者が多かったとGeorge医師は述べた。しかし、これらの反応はすべて短期間であり、治療をしなくても消失したとのことである。
George医師によれば、両群間で唯一みられた大きな違いは、患者の血液中のニボルマブに対する抗体のレベルであった。この抗薬物抗体のレベルは、皮下注射投与群の方が静脈内投与群よりも高かった(23%対7%)。
免疫系は薬剤、特にニボルマブのようにヒトや動物のタンパク質から作られる薬剤に対して抗体を産生する可能性がある。抗薬物抗体は薬剤の機能を阻害したり、その血中濃度を変化させたりすることがあるが、皮下注射投与型ニボルマブに対する抗体は薬剤の薬物動態、有効性、安全性に影響を及ぼさないようであったとGeorge医師は述べている。
皮下注射投与型ニボルマブについてさらに知るべきこと
皮下注射投与型ニボルマブについて知るべきことはまだあるとBall医師は言う。例えば、他のがん種に対する効果においては、静脈内投与型ニボルマブと同等であるかどうかはわかっていない。
しかし、George医師によれば、薬物動態データは腎がんに特異的なものではないので、FDAが腎がんへの皮下注射投与型ニボルマブの使用を承認すれば、その承認が他のがんにも及ぶ可能性はある。
「しかし、それはFDAが決めることです」と同医師は言う。
ニボルマブ皮下注射製剤の費用も大きな問題であり、特に皮下注射投与によって節約できる時間が見込み費用を上回るかどうかが重要であると専門家らは言う。
また、免疫療法薬が皮下注射あるいは静注点滴のどちらで投与されるかによって、活性化される免疫系の部分が異なることが複数研究で示されているとBall医師は説明した。ニボルマブの投与方法によって、「腫瘍内の免疫細胞の種類や免疫プロファイルに違いがあるかどうかに興味があります」と話す。
他の免疫チェックポイント阻害薬の皮下注射剤も近い将来開発されるかもしれない、とBall医師は付け加えた。
「本研究の良好な結果から考えて、他[の企業]が同様の試験を行わないとしたら、大変驚きます」。
- 監訳 田中文啓(呼吸器外科/産業医科大学)
- 翻訳担当者 山田登志子
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- 原文掲載日 2024/03/13
【この記事は、米国国立がん研究所 (NCI)の了承を得て翻訳を掲載していますが、NCIが翻訳の内容を保証するものではありません。NCI はいかなる翻訳をもサポートしていません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】
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