進行膀胱がんに新たな標的療法薬(FX-909)が有望

進行膀胱がんに新たな標的療法薬(FX-909)が有望

FX-909は、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体ガンマ(peroxisome proliferator-activated receptor gamma: PPARG)に対するfirst-in-class[画期的医薬品]経口低分子阻害薬であり、進行尿路上皮がん患者において臨床的有益性の初期徴候を示した。これは10月22日から26日に開催されたAACR-NCI-EORTC(米国がん学会、米国国立がん研究所、欧州がん治療研究機構)分子標的国際会議で発表された第1相臨床試験の結果に基づくものである。

膀胱がんは米国で6番目に多く診断されるがんである。膀胱がんの90%以上は尿路上皮がんで、膀胱の内側を覆う細胞から発生するがんである。「転移性尿路上皮がんは、治療選択肢が限られ予後不良な悪性度の高い疾患です。生存期間中央値は2.5年であるため、より優れた全身療法が求められています」と、Xin Gao医師(Mass General Brigham Cancer Instituteの腫瘍内科医、ハーバード大学医学部助教)は説明した。

ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体ガンマ(PPARG)は転写因子であり、進行尿路上皮がんの約3分の2で高発現している。多くの転写因子と同様に、従来から薬剤化が困難であったとGao医師は述べている。FX-909は、進行がん患者を対象に臨床評価された初のPPARG阻害薬である。

第1相用量漸増試験において、Gao医師らは進行がんにおけるFX-909の安全性、忍容性、最適投与量、および予備的な臨床抗がん活性を評価した。進行尿路上皮がん患者36人を含む進行固形がん患者46人が、28日サイクルで1日1回、30mgから100mgの用量でFX-909を経口投与された。研究者らはまた、腫瘍におけるPPARG発現を評価するためのバイオマーカー解析を実施し、治療に対する薬力学的変化を確認するために皮膚生検を行った。

最大耐用量は70mgと決定された。しかし、より低用量(30mgおよび50mg)では、同等の臨床活性を維持しながら忍容性が改善されたことから、現在、無作為化拡大試験へ移行中であるとGao医師は述べた。

有効性評価が可能な進行尿路上皮がん患者31人のうち、免疫組織化学検査でPPARG高発現(PPARGhigh)を示した患者は20人であった。このPPARG高発現の患者のうち、FX-909投与により腫瘍縮小が認められたのは14人であり、うち4人は部分奏効が確認された。さらに、PPARG発現が中程度であった患者1人が完全奏効を示し、ベースラインで測定不能病変を有していた別の患者も完全奏効を示した。

「PPARGを標的とした治療薬が尿路上皮がんにおいて臨床的な抗腫瘍活性を示したのは今回が初めてです」とGao医師は述べた。「現在進行中の用量拡大試験において、FX-909の有効性と安全性のプロファイルをさらに詳細に明らかにしたいと考えています」 。治療関連で特に多く見られたグレード3以上の有害な副作用は、貧血、血小板数減少、疲労感であった。その他、治療開始後によく報告された副作用としては、下痢および血糖値上昇があった。

30mgの低用量では、重篤な副作用が少なく、副作用の発現が遅く、治療の中断や減量も少なかった。「ほとんどの副作用が管理可能で、FX-909の低用量投与により、より良好な忍容性と、高用量投与と同等の抗腫瘍活性が認められたことは励みになりました。これによって、次の試験段階では30mgおよび50mg用量での継続を決定する判断材料となりました。次の段階では、安全性のモニタリングを継続するとともに、免疫組織化学的検査によってPPARG高発現腫瘍と判定された進行尿路上皮がん患者を対象としたバイオマーカー選択集団において、本剤の潜在的な有益性をさらに評価していきます」とGao医師は述べている。

患者から採取した皮膚サンプルは、FX-909が標的部位に到達し作用していることを示した。バイオマーカー解析では、全投与量レベルにおいてPPARGの標的遺伝子であるFABP4が90%以上抑制された。「本試験の重要な初期結果の一つは、すべての用量レベルにおいて、FX-909が標的部位に確実に作用している明確な証拠が得られたことです。これは新規作用機序を検証する臨床試験にとって極めて重要な知見です」とGao医師は述べている。

本研究の限界としては、症例数が少ないことと追跡期間が短い点が挙げられる。腫瘍反応の初期徴候は有望ではあるものの、これらの結果を裏付けるにはより大規模な研究と長期の追跡調査が必要であるとGao医師は述べた。
 
*本研究の情報開示については、原文を参照のこと。

  • 監修者 榎本 裕(泌尿器科/三井記念病院)
  • 記事担当者 青山真佐枝
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  • 原文掲載日 2025/10/22

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