学習済み機械学習モデルが資源の乏しい環境での非メラノーマ皮膚がん診断に有用

膨大なデータセットで事前学習済みの人工知能モデルは、組織サンプルのデジタル画像から非メラノーマ皮膚がん(NMSC)を識別する上で、従来の標準的なベースラインモデルよりも顕著に優れていることが4月25日から30日に開催された米国癌学会(AACR)年次総会で発表された研究で明らかになった。
 
研究者らは、事前学習済みのこれらの最新機械学習モデルにより、機械学習に基づくがん診断の適用範囲を資源の乏しい環境にも拡大できる可能性があると示唆している。
 
通常、非メラノーマ皮膚がんの疑いのある皮膚病変は切除され、薄切した切除組織がスライドに載せられて専門の病理学者によって評価される。このように説明するのは、シカゴ大学プリツカー医学部およびコンピュータサイエンス学部の医学科学者トレーニング プログラムで医学博士となる見込みのSteven Song氏である。
 
「しかし、資源の乏しい環境では、専門の病理医の不足により、非メラノーマ皮膚がんの迅速かつ広範な検査と診断が困難になっています」とSong氏は述べた。「人工知能と機械学習は長年、資源のギャップを埋める手段として期待されてきました。しかし、特注の機械学習モデルの開発と導入には膨大な資源を必要とし、入手できない場所が多いと考えられます。それらの資源とは、計算専門家、専用の計算ハードウェア、そして各モデルを訓練するための大量の厳選データです」。
 
Song氏らは、資源の豊富な環境における膨大なデータ(しばしば「基礎モデル」と呼ばれる)を用いた事前学習済みの機械学習モデルが、非メラノーマ皮膚がんの診断を導くための効果的な「既成」ツールになり得ると推論した。これにより、大規模なデータセットへのアクセスが限られている環境や、モデルをゼロから開発するために必要な特殊な機器や専門家が不足している環境でも、機械学習を活用できるようになる可能性があると同氏は指摘した。
 
本研究では、がん性皮膚病変の疑いのあるデジタル病理画像から非メラノーマ皮膚がんを特定する際の、3つの最新基礎モデル(PRISM、UNI、Prov-GigaPath)の精度を検証した。これら3つの基礎モデルはいずれも、病理組織標本の高解像度デジタル画像を小さな画像タイルに変換し、タイルから意味のある特徴を抽出し、これらの特徴を分析することで、組織に非メラノーマ皮膚がんが含まれている確率を計算する。
 
Bangladesh Vitamin E and Selenium Trialに参加したバングラデシュ人の553個の生検サンプルに相当する2,130枚の組織スライド画像を用いて、非メラノーマ皮膚がんの診断におけるモデルの精度が評価された。汚染された飲料水による高濃度のヒ素曝露が本集団の非メラノーマ皮膚がんのリスクを高めているため、本研究は実地診療の状況と関連しているとSong氏は述べた。合計2,130枚の画像のうち、706枚は正常組織、1,424枚は非メラノーマ皮膚がんと確定診断された(ボーエン病638例、基底細胞がん575例、浸潤性扁平上皮がん211例)。
 
3つの基礎モデルの精度は、画像認識のための既に確立されたアーキテクチャであるResNet18の精度と比較された。「ResNetアーキテクチャは、約10年間、視覚モデルのトレーニングの出発点として使用されてきました。新しい事前学習済みの基礎モデルのパフォーマンス向上を評価する上で、有意義な比較基準として役立ちます」とSong氏は述べた。
 
新しい3つの基礎モデルはいずれもResNet18よりも顕著に優れており、非メラノーマ皮膚がんと正常組織を92.5%(PRISM)、91.3%(UNI)、90.8%(Prov-GigaPath)の精度で正しく区別した。これに対し、ResNet18の精度は80.5%であり、パフォーマンスが大幅に向上した。
 
Song氏らは、資源の乏しい環境で基礎モデルをより使いやすくするため、各モデルの簡略版を開発してテストした。病理画像データの詳細な分析を必要としない簡略版モデルも、ResNet18より顕著に優れており、PRISMでは88.2%、UNIでは86.5%、Prov-GigaPathでは85.5%という精度を示し、複雑性を低減した場合でも堅牢性を示したと研究者らは述べている。
 
また、Song氏らは、これらの基礎モデルによって識別された組織スライド上のがん領域を強調表示するアノテーションフレームワークを開発して適用した。このフレームワークは大規模なデータセットでの学習を必要とせず、少数の生検から得られたがん組織のサンプル画像を活用する。さらに、病理画像タイルをこれらのサンプル画像と比較することで、がん領域を識別し、アノテーションを付与する。Song氏は、アノテーションによって、各スライド上の注視すべき領域にユーザーの意識を向けるのに役立つ可能性があると説明した。
 
「全体として、私たちの研究結果は、事前学習済みの機械学習モデルが非メラノーマ皮膚がんの診断を支援する可能性を秘めていることを示しています。これは、特に資源の乏しい状況において有益となる可能性があります」とSong氏は述べた。「私たちの研究は、様々な臨床応用に向けた基盤モデルの開発と適応を前進させる可能性のある知見も提供しています」。
 
本研究の限界は、モデルがバングラデシュの患者集団のみで評価されたことであり、本結果の他集団への一般化が限定される可能性がある。また、もう一つの限界は、本研究は資源の乏しい環境という観点から分析を行っているものの、実際にそのような環境において、事前学習済みの機械学習モデルを展開する上での詳細を検証していない点である。
 
「私たちの研究は、非メラノーマ皮膚がんの診断を支援するための資源効率の高いツールとして基礎モデルを示唆していますが、患者ケアに直接的な影響を与えるにはまだ程遠く、デジタル病理学インフラストラクチャの可用性、インターネット接続、臨床ワークフローへの統合、ユーザートレーニングなどの実際的な考慮事項に対処するためのさらなる作業が必要であることを認識しています」とSong氏は指摘した。
 
この研究は国立衛生研究所の支援を受けて行われた。Song氏は利益相反がないことを宣言している。

  • 監修 中村泰大(皮膚悪性腫瘍/埼玉医科大学国際医療センター )
  • 記事担当者 仲里芳子
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  • 原文掲載日 2025/04/27

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