CTスキャン被曝線量の低減が条件設定変更で可能にーUCSF国際研究で初めて示唆

カリフォルニア大学サンフランシスコ校主導の国際研究チーム、CTスキャン線量の基準プロトコルを推奨

コンピュータ断層撮影(CT)による患者の被曝線量は施設や国によって大きく異なり、その差は主に各施設のCT装置の条件設定の違いに起因すると、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)が主導する国際的な研究が明らかにした。

研究者らは、精度を犠牲にすることなく線量を最適化するため、一定の国際的な基準を定めることを推奨している。

本研究は英国の医学誌、ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル誌に掲載されている。 

「CTからの放射線を含む放射線による被曝は、がんのリスク増加と関連することが示されています。したがって可能な限り被曝を最小限にすることが重要です」と、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の放射線医学、疫学および生物統計学、ならびに産科、婦人科および生殖医学の教授であり筆頭著者のRebecca Smith-Bindman医師は述べた。「われわれの研究により、CTスキャンの条件に関して一定の国際基準を設けて運用することで、これが達成できることが示されました」。

そのような基準を定めるため「まず医療機関がどのようなプロトコルを設定しているか、そして画質と診断精度のバランスについてどのようにコンセンサスを得るのかを把握する必要があります」と、同氏は述べた。

本研究では、カリフォルニア大学サンフランシスコ校CT国際線量レジストリ(the UCSF CT International Dose Registry)から収集した2015年11月から2017年8月までの期間のデータを使用した。研究者らは7カ国(スイス、オランダ、ドイツ、英国、アメリカ、イスラエル、および日本)にある151の医療施設において170万人の成人に実施された200万回以上分の診断用CTスキャンの記録を解析した。記録には、頭部、腹部、胸部、および胸腹部のスキャン結果が含まれていた。

研究者らは、CT撮影した解剖学的領域、患者の特性、CTスキャナの形式と型、施設の種類、およびスキャナの条件設定などの変動要素を一定のものとした。その結果、患者が同じ形式や型のCTスキャナで撮影されたとしても、または同じ臨床上の理由で撮影されたとしても、さらに患者の体格などの因子を調整した上でも尚、線量に差があることを発見した。

たとえば、肺の血栓の疑いのためCTスキャンを受けた患者の平均実効線量には線量の比較で上位10%に入る施設と下位10%に入る施設を比べると15倍以上の差(最大31ミリシーベルト(mSv)、最小2 mSv)があった。これは同じ型のCT装置同士で線量を比較した場合でも同じであった。「ミリシーベルト」とは放射線量の単位である。米国の人々が医療以外の放射線源から受ける平均環境放射線量は、年間3mSvである。

研究者らは、線量のばらつきの最大の原因は、各施設の検査に関わる者すなわち臨床スタッフによる管球条件を含む装置の技術的パラメータや1回のスキャンセッションあたりのスキャン数、スキャンする体の総面積(領域)の設定によるものであることを見出した。

Smith-Bindman医師によると、CT線量の基準とベンチマークは各病院、地域、または国によって個々別々に作成されているものであるし、あるいはそうであろうとSmith-Bindman医師は述べている。

「なぜこのように考えることが普通であるのかといえば, CT装置の型式やそれぞれの地域の患者集団の特性は異なるものである,という思い込みがあるからなのです」と同氏は述べた。「しかし、われわれの結果を踏まえると、この通念には意味がありません。放射線量について達成可能な品質基準を統一して設定し、すべての病院とCT検査施設に適用する必要があります」。

教育や施設間で連携をすることにより、こうした基準の設定が広く信じられているよりも容易に出来るかもしれないと、カリフォルニア大学サンフランシスコ校フィリップ・R・リー健康政策研究所およびカリフォルニア大学サンフランシスコ校ヘレン・ディラー・ファミリー総合がんセンターの一員でもあるSmith-Bindman医師は述べた。

「CTスキャンプロトコルを最適化するための鍵は、医師の意識を変え、線量を最適化するための最良の検査の実行方法を共有し、診断用CTスキャンの画質に対する期待を調整することです」と同氏は述べた。「被曝線量が低かった施設では、多相スキャン(*注:同一患者で一回の検査あたり何回もスキャンすること)の使用頻度は少なく、すべてのCT検査適応例でより低いX線(管球)設定にしていました」。

著者:本研究の共著者は以下の17施設の研究者らである:UCSF; UC Berkeley; UC Davis; UC San Diego; Assuta Medical Center; Tel Aviv-Yafo, Israel; Cantonal Hospital Aarau, Switzerland; Churchill Hospital, Oxford, UK; Columbia University Medical Center; Einstein Healthcare Network, NY; Essen University, Essen, Germany; Helios Kliniken Duisburg, Duisburg, Germany; Henry Ford Health System, Detroit, MI; Icahn School of Medicine at Mount Sinai, NY; Kaiser Permanente Washington, Seattle, WA; Aarau, Switzerland; St. Luke’s International Hospital, Tokyo, Japan; and University Hospital Essen, Essen, Germany. 全著者の一覧は論文を参照のこと(https://www.bmj.com/content/364/bmj.k4931)。

資金:本研究は米国国立衛生研究所(R01-CA181191)、患者中心のアウトカム研究所(CD-1304-7043)、米国疾病管理予防センター(CDC)、および UC総長事務局Center for Health Quality and Innovationより資金提供を受けた。

開示:すべての著者は、上記の資金源を含め、統一開示フォームに記入した。より具体的な開示については論文を参照のこと。

翻訳担当者 坂下美保子

監修 松本恒(放射線診断/仙台星陵クリニック)

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