【ASCO2025】GLP-1受容体作動薬で、糖尿病患者の肥満関連がん14種のリスクがわずかに低下
ASCOの見解(引用)
「この試験は、糖尿病や肥満の治療薬として利用が増えているGLP-1受容体作動薬が、がん発症リスク低減に何らかの効果をもたらす可能性があるという、興味深い仮説を提起しています。私は肥満の患者を多く診ていますが、がんと肥満の間には明らかな関連性があることから、がん予防におけるGLP-1受容体作動薬の臨床的役割を明確にすることは重要です。この試験では因果関係が証明されていませんが、これらの薬剤が予防効果を持つ可能性を示唆しています。今後の研究で、糖尿病ではない患者も含め、今回の知見を検証する必要があります」と、ASCO会長のRobin Zon医師(FACP、FASCO)は述べる。
研究要旨
焦点 | グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬が14種類の肥満関連がんのリスクに与える影響 |
対象者 | 米国における肥満(体格指数BMI 30以上)かつ糖尿病のある成人170,030人 |
主な結果 | 肥満かつ糖尿病のある患者において、GLP-1受容体作動薬は、ジペプチジル ペプチダーゼ-4 (DDP-4) 阻害薬と比較して、14 種類の肥満関連がん、特に大腸がんを発症するリスクの若干の低下に関連する。 |
意義 | ・ 肥満は14種類のがんの発症リスクの上昇と関連がある。これには、食道がん、結腸がん、直腸がん、胃がん、肝臓がん、胆嚢がん、膵臓がん、腎臓がん、閉経後乳がん、卵巣がん、子宮内膜がん、甲状腺がん、多発性骨髄腫、髄膜腫が含まれる。 ・ GLP-1受容体作動薬は、糖尿病治療薬の一種で、血糖コントロールを促す。これらの薬剤の一部は、肥満治療薬としても承認されている。 ・ GLP-1受容体作動薬ががんリスクに及ぼす影響については、ほとんどわかっていない。これらの薬剤は比較的新しいもので、最初のものは2005年に糖尿病治療薬として承認されたが、新しいGLP-1受容体作動薬は過去10年間で広く使用されるようになっている。 ・ 糖尿病および肥満の管理のためにGLP-1受容体作動薬を使用する人は年々増えており、米国の人々の12%がこれらの薬剤のいずれかを処方されているという報告もある。 |
米国における糖尿病および肥満である患者17万人以上を対象とした大規模観察研究で、GLP-1受容体作動薬はDDP-4阻害薬と比較して、14種類の肥満関連がん、特に大腸がんのリスクを若干低下させる可能性があることが明らかになった。この研究は、5月30日から6月3日までシカゴで開催される2025年米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表される。
研究について
「肥満は米国および世界中でますます重要ながんの原因として認識されていますが、肥満に関連するがんリスクを低減する効果が証明された薬剤はまだありません。本研究は、糖尿病、肥満、および関連疾患の治療薬として比較的新しいが、広く処方されているGLP-1受容体作動薬を評価することで、このギャップを埋める第一歩となります。私たちの研究結果は、GLP-1受容体作動薬が特定のがん、特に大腸がんの発症リスクをわずかに低減し、全死因による死亡率を低下させる可能性を示唆しています。これらのデータは心強いものですが、因果関係を証明するにはさらなる研究が必要です」と、本研究の筆頭著者であるLucas A. Mavromatis氏(理学士、ニューヨーク州ニューヨーク大学グロスマン医学部学生)は述べる。
この大規模観察研究では、米国の43の医療システムに登録されている成人170,030人が対象となった。患者は体格指数(BMI)が30以上であり、糖尿病と診断されていた。医療システムのデータを調査した結果、2013年から2023年の間に、半数(85,015人)がGLP-1受容体作動薬による治療を開始し、残りの半数がDPP-4阻害薬による治療を開始した。DPP-4阻害薬は酵素DPP-4の働きを阻害することで作用するが、GLP-1受容体作動薬とは異なり、体重減少への効果は示されていない。参加者の平均年齢は56.8歳であった。参加者の約半数が女性で、70%超が白人、14%超が黒人であった。平均BMIは38.5であった。
これはターゲット トライアル エミュレーション研究であり、無作為に治療を割り当てるのではなく、既に2種類の治療を受けた大規模患者群を用いた観察研究である。傾向スコアマッチングを用いることで、2つの群の特性が類似するようにして、より比較に適した群が作成され、バイアスが減少した。
主な知見
- GLP-1受容体作動薬を服用した患者は、DDP-4阻害薬を服用した患者と比較して、肥満関連がんを発症するリスクが7%低く、あらゆる原因による死亡リスクが8%低かった。
- GLP-1受容体作動薬群では、85,015人中2,501人が新たに肥満関連がんと診断された。DDP-4阻害薬群では、85,015人中2,671人が肥満関連がんと診断された。
- 研究者らは、男性と女性における肥満関連がんリスクの違いを調べた。男性の場合、肥満関連がんまたは全死亡原因のいずれにおいても、2治療群間に統計学的に有意な差は認められなかった。
- GLP-1受容体作動薬で治療された女性は、DDP-4阻害薬で治療された女性と比較して、肥満関連がんのリスクが8%低く、全死亡原因のリスクが20%低かった。
- GLP-1受容体作動薬の服用は、2種の関連するがん、すなわち結腸がんと直腸がんの予防にも効果があった。GLP-1受容体作動薬を処方された群では、結腸がんの症例が16%少なく、直腸がんの症例が28%少なかった。
- この治療群では、肥満に関連する14種類のがんのいずれについてもリスク上昇は認められなかった。
次のステップ
研究者らは今後、GLP-1受容体作動薬を4年以上服用している患者を追跡調査し、糖尿病ではなくGLP-1受容体作動薬を服用している人々のがんリスクについても引き続き調査したいと考えている。
本研究は、米国国立衛生研究所(NIH)傘下の国立糖尿病・消化器・腎臓病研究所の資金提供を受けて実施された。
- 監修 野長瀬祥兼(腫瘍内科/市立岸和田市民病院)
- 記事担当者 山田登志子
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- 原文掲載日 2025/05/23
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