FDAが遺伝性がんのリスクを評価する血液検査を承認

米国国立がん研究所(NCI) がん研究ブログ

米国食品医薬品局(FDA)は、特定のがんの発症リスクを高める可能性のある遺伝的な遺伝子変異を検出する血液検査に対して、販売承認を与えた。FDAは9月29日、同血液検査がこの種の検査として初めての販売承認取得であることを発表した。

この検査は、Invitae Common Hereditary Cancers Panel(以下、「Invitaeパネル検査」という)と呼ばれ、遺伝性のがんに関連する47の遺伝子変異を血液サンプルから分析するものである。FDAはこの検査について、「特定のがんの素因の可能性を含め、個人の健康についてより多くの情報を提供できる重要な公衆衛生ツールである」と説明している。

がんの最大10%は、親から子へと受け継がれる遺伝子変異によって引き起こされると考えられている。このような変異を受け継いだからといって、必ずがんになるわけではないが、がんになる可能性は高くなる。

医師は、個人歴や家族歴から、がん発症リスクが高い可能性のある人を特定することができる。例えば、同じ種類のがんに罹患した親族が複数いる人は、がんを発症するリスクが高くなる可能性がある。

Invitaeパネル検査は、遺伝性がんのリスクが高いと疑われる人を対象に、47の標的遺伝子における何百もの可能性のある遺伝的変異やバリアント(多様体)の有無を確認するために使用される。

「この検査は、がんになるリスクが高いと思われる人が、そのリスクの程度をよりよく理解するためのものである」と、Lori Minasian医師は述べた。NCIのがん予防部門の副部長である同医師は、本検査の開発には参加していない。

自分の家族歴ががんのリスクになるかどうか心配な人は、遺伝カウンセラーに相談すべきだともMinasian医師は言う。Invitaeパネル検査は、医師の処方がある場合のみ利用可能である。

遺伝子検査結果を治療方針に役立てる

この検査の47の遺伝子パネルには、BRCA1とBRCA2遺伝子が含まれている。これらの遺伝子における特定のDNAの変異は、遺伝性の乳がんや卵巣がん、さらにいくつかの種類のがんのリスクを増加させる。

このパネルには、MLH1、MSH2、MSH6、PMS2も含まれている。これらの遺伝子は、さまざまながんの発症リスクを高める遺伝性疾患であるリンチ症候群に関連している。リンチ症候群の人の中には、20歳代で大腸がんを発症する人もいるが、これは一般的に検診が開始されるよりもずっと早い時期である。

遺伝子検査を含め、がんのリスクを評価する多くのツールがここ数十年の間に開発されてきた。「この特定の検査は、FDAの厳しい審査を受け、その使用目的に対して安全かつ有効であることを証明した最初のものである」とMinasian医師は述べた。

FDAによれば、この検査の性能を検証するために、Invitae社の研究者らは、この検査に含まれる遺伝子変異のいずれかを持つことがわかっている9000人以上のサンプルを分析し、検査されたすべての変異について99%以上の精度を達成したという。

NCIがん予防部門の上級科学官であるWendy Rubinstein医学博士によれば、遺伝子検査によってがん関連遺伝子の変異を受け継いでいることを知った人は、がんのリスクを減らし、早期に発見するための手段を講じることができるかもしれない。

Invitaeパネル検査を認可したFDAオフィスにおいて、かつて副ディレクターを務めていたRubinstein医学博士は、「この種の遺伝子検査の目的は、遺伝性がんに罹患した家族の予防と早期発見の機会を作ることである」と言う。

例えば、BRCA1またはBRCA2遺伝子の有害な変異を受け継いでいる人は、若い年齢から乳がん検診を開始する、リスクを減らす手術を受ける、リスクを下げる薬を使用するなど、がんリスクを減らすためのさまざまな選択肢がある。

同様に、リンチ症候群に関連する遺伝性変異を受け継いでいる人は、大腸がんの徴候を早期発見するために、ガイドラインで推奨されているよりも早く大腸がん検診を開始したり、より頻繁に検診を受けたりすることができる。

FDAによれば、この検査はがんのリスクがある人の遺伝性変異を検出するだけでなく、既にがんと診断された人の変異を同定するためにも使用できる。このようなバリアントに関する情報は、疾患に対する最良の治療方法の決定に役立つ可能性がある。

新たな規制区分

FDAは、Invitaeパネル検査と同じ用途を持つ将来の多遺伝子パネル検査に対し、新たな規制区分を設けたと発表した。これらの検査はデバイスとして分類され、その結果、医薬品とは異なる規制を受けることになる。

Invitaeパネル検査の利用者の中には、たとえ陰性であったとしても、がんを発症するリスクがあることに気づかない人もいるかもしれないと、同機関は注意を促している。というのも、この検査は、がんリスクの上昇に関連する遺伝子をすべて評価することを意図しているわけではなく、また、人の遺伝的体質以外の多くの要因ががんの発生に寄与する可能性があるからである。

また、偽陽性や偽陰性の結果が出る可能性もあり、これにはそれなりのリスクが伴う。例えば、偽陽性の結果が出た人は、がんと診断される可能性を減らすために不必要な治療を受けるかもしれない。

しかし、FDAによれば、この規制分類の下で認可された検査の場合、これらのリスクは「この検査の分析性能のバリデーション、臨床的バリデーション、適切な表示」によって軽減される。

がんに関与する可能性のある新たな変異体が明らかに

Invitae社の検査では、次世代シーケンサーを用いて47の標的遺伝子の変異をチェックする。検査結果を解釈するために、同社は、発表された研究、公的データベース、予測プログラム、Invitae社内のがん関連遺伝子変異のキュレートデータベースからの情報など、さまざまな情報源からのエビデンスを使用している、とFDAの広報担当者であるJim McKinney氏は説明した。

McKinney氏は、「患者を検査する際に、新たなバリアントが同定されるかもしれない」と述べ、BRCA1とBRCA2遺伝子には、数千もの遺伝性バリアントが同定されていると付け加えた。

新しく同定されたバリアントの臨床的意義は、少なくとも最初のうちは明らかではないかもしれない。しかし、時間が経つにつれて、研究者らは、これらのいわゆる意義不明のバリアントについて、そしてそれらが遺伝性がんのリスク上昇に寄与しているかどうかについて、より多くのことを知るようになるかもしれない。

Minasian医師は、「研究が進むにつれて、重要性が不明であったバリアントが、実際にはがんのリスクを増加させる可能性があることが分かってくる」と述べた。

同医師は、最近の研究で、研究が開始された時点では意義が不明であったバリアントが、研究参加者の何人かに認められたことを指摘した。しかし、時間が経つにつれて、研究者らはこれらのバリアントに関連するがんリスクについてより多くのことを知り、Minasian医師のチームはこの情報を研究参加者と共有することができた。

「私たちが潜在的なリスクを持つバリアントを研究するとき、リアルタイムで情報を収集する。そして、より多くのエビデンスが蓄積されるにつれて、これらのバリアントが、それを受け継いだ人々にとって何を意味するのかを発見することができる」と、Minasian医師は述べた。

Invitaeパネル検査の結果には、重要性が不明なバリアントが含まれている可能性がある。Invitae社の広報担当者によれば、これらのバリアントの1つが臨床的に治療決定に役立つ形で再分類された場合、同社は処方した医師と患者に最新の報告書を提供する。

  • 監訳 花岡秀樹(遺伝子解析/イルミナ株式会社)
  • 翻訳担当者 河合加奈
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  • 原文掲載日 2023/11/02

【この記事は、米国国立がん研究所 (NCI)の了承を得て翻訳を掲載していますが、NCIが翻訳の内容を保証するものではありません。NCI はいかなる翻訳をもサポートしていません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】

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