遺伝性(生殖細胞系列)の遺伝子変異検査を受けるがん患者はごく一部

米国国立がん研究所(NCI) がん研究ブログ

がんと診断された人のうち、特定のがんと診断された人に強く推奨される、生殖細胞系列の遺伝子型検査を受けている人はごく一部である。これは、NCIの資金提供による現在進行中の研究からの最新知見である。

患者の腫瘍における特定の遺伝子変異を調べる検査により、腫瘍医はその患者に対して最も効果的な治療法を選択できる。こうした検査はバイオマーカー検査と言われることが多く、日常的ながん治療で広く用いられている。

また一方、いくつかの医療機関のガイドラインでは、さまざまながんに罹患していると診断された人に対して、生殖細胞系列遺伝子検査も受けることも推奨している。こうした検査は血液検体を用いて、親から遺伝した特定のがん関連遺伝子変異を調べるものである。

バイオマーカー検査と同様、生殖細胞系列遺伝子検査により、医師は患者に対する最適な治療法を決定できる。一方、こうした検査は、発がん遺伝子変異候補の検査を家族に勧めるべき人々の特定にも役立つことがある。

ガイドラインでは、男性乳がん患者、卵巣がん患者、膵臓がん患者、および転移性前立腺がん患者すべてが生殖細胞系列遺伝子検査を受けるよう推奨する。有害な遺伝性遺伝子変異の可能性が低い、その他のがんに関しては、生殖細胞系列遺伝子検査の推奨は一律ではない。

しかし、2013~2019年にカリフォルニア州とジョージア州でがんと診断された人の生殖細胞系列遺伝子検査の場面 を調査している研究からの新たな知見によると、生殖細胞系列遺伝子検査の実施率はまだ低いことが分かった。130万人を超える本研究調査対象者のうち、2021年3月31日までに生殖細胞系列遺伝子検査を受けた人はわずか約93,000人、すなわち6.8%であったことがJAMA誌7月3日号で発表された所見で示された。

生殖細胞系列遺伝子検査の普及率は、がんの種類によって異なっていた。乳がんと診断された男性の検査率が最も高く、50%であった。卵巣がん患者では約38%しか検査を受けなかった。ガイドラインでは、これら2種類のがんと診断された人は全員、生殖細胞系列遺伝子検査を受けるよう推奨する。乳がん女性患者では、26%しか検査を受けていなかった。

生殖細胞系列の遺伝子変異に関連する可能性のある他のがんの患者の検査は、はるかに少なかった。子宮内膜がん患者では生殖細胞系列遺伝子検査を受けた割合は約6%、大腸がんと膵臓がん患者では約5.6%にとどまった。前立腺がんと肺がんの患者で生殖細胞系列遺伝子検査を受けた割合はそれぞれ、1.1%と0.3%に過ぎなかった。

JAMA誌の付随論説で、Zsofia Stadler医師とDeborah Schrag医師(スローンケタリング記念がんセンター)は、「(本論文で)報告されたがん遺伝子検査率の低さは懸念すべき問題であり、がんの負担を軽減する目的で遺伝子検査率を高めるための介入を促すべきである」と警告した。

改善しているとはいえ、検査率の低さは依然として重大な懸案事項

本研究を実施するために、スタンフォード大学医学部のAllison Kurian医師と、他の複数の研究機関の共同研究者らは、カリフォルニア州とジョージア州の全州がんレジストリ(NCI監視疫学遠隔成績[SEER]プログラムの一部)から得たがん罹患データを、両州でほとんどの生殖細胞系列遺伝子検査を実施している4つの検査施設から得られた遺伝子検査結果とリンクさせた。

この新たな知見は、2010年代初頭に乳がん患者と卵巣がん患者の検査率を分析した、今回の研究者の一部による先行研究に続くものである。この分析から、乳がんと卵巣がんの患者における生殖細胞系列遺伝子検査の実施率は低いこと 、そして検査を受けた患者のごく一部においては、その結果によって治療法の変更が正当化される可能性があることが示された。

この最新の分析で判明した通り、これらのがんに対する生殖細胞系列遺伝子検査率は時がたつにつれて上昇しており、乳がん女性患者の検査率は24%から26%に上昇した。卵巣がん患者の検査率はより著しく上昇し、2013年と2014年では30.1%であったが、最新の分析終了時では38.6%であった。

乳がんや卵巣がんと同様に、膵臓がんと診断された人の生殖細胞系列遺伝子検査率も著しく上昇し、2013年の1.2%から2019年では18%以上に上昇した。

それでもなお、「遺伝子検査率は徐々に上昇したとはいえ、2021年においても、診療ガイドラインで検査が推奨される特定のがん種における検査率は100%には程遠い状況でした」とKurian氏らは警告した。

がんの生殖細胞系列遺伝子検査における格差と新たなケア提供モデルの構築

研究チームは、検査率にかなりの格差があることも突き止めた。男性もしくは女性乳がん、または、卵巣がんに罹患している白人患者の31%が生殖細胞系列遺伝子検査を受けた一方、これらのがんに罹患しているアジア系、ヒスパニック系、および、黒人患者では22%~25%しか検査を受けなかった。

不確定な生殖細胞系列遺伝子検査結果は、がんリスクへの影響が不明な遺伝子変異を特定するものであるが、そうした結果は「非白人患者で有意に多かった」とStadler氏とSchrag氏は指摘した。

不確定な結果は「最適でない」患者ケアや「患者の不安の増大」につながる可能性があるため、これは重要な発見であるとStadler氏とSchrag氏は記し、「生殖細胞系列遺伝子検査結果率の低さと、臨床的意義不明の変異の頻繁な同定が相まって、既存の格差が長期化する可能性がある」とも述べている。

本研究は生殖細胞系列遺伝子検査率が低迷する理由を説明できなかったが、遺伝カウンセラーへの相談が限られていることなどの医療制度に関連する問題と、遺伝子検査に対する不確実性や不信感などの患者レベルの要因の両方が主な原因である可能性が高いとStadler氏とSchrag氏は解説した。

「がん感受性遺伝子検査の実施率を上昇させるためには、新たなケア提供モデルが必要です」とStadler氏とSchrag氏は記し、こうしたモデルの開発と検証はがんムーンショット計画の主要な標的であると指摘した。

  • 監訳 石井一夫(計算機統計学/公立諏訪東京理科大学工学部情報応用工学科)
  • 翻訳担当者 渡邊 岳
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  • 原文掲載日 2023/08/01

【この記事は、米国国立がん研究所 (NCI)の了承を得て翻訳を掲載していますが、NCIが翻訳の内容を保証するものではありません。NCI はいかなる翻訳をもサポートしていません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】

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