CAR-NK細胞療法を強化するための重要な標的を特定する新たなツール
● 研究者らは、ヒト初代培養ナチュラルキラー(NK)細胞向けとして、全ゲノムを対象とした初のCRISPRスクリーニングツールを開発した。
● 本研究により、キメラ抗原受容体(CAR)NK細胞療法の改善を目的とした標的化が可能な、NK細胞活性の重要な制御因子が明らかとなった。
● 本知見は多様ながんに対する、より効果的なCAR-NK細胞療法開発への新たな道を開くものである。
テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの新研究によると、科学者らが全ゲノム対象CRISPRスクリーニング新規ツールで特定された主要な遺伝子標的を除去した結果、ナチュラルキラー(NK)細胞のがん細胞殺傷能力が著しく向上したことが明らかとなった。
本日、Cancer Cell誌に掲載された本研究は、ヒト初代培養細胞向けに最適化された、網羅的なCRISPR情報検索プラットフォームであるPreCiSEを用いて、複数のがん種を対象とするキメラ抗原受容体(CAR)NK細胞療法の抗腫瘍活性を高める手法の発見への新たな道を開くものである。
「標的遺伝子編集は、NK細胞の抗がん活性を高める強力なツールです」と責任著者であるKaty Rezvani医学博士(造血幹細胞移植・細胞治療学教授、 Institute for Cell Therapy Discovery & Innovation 副所長兼部門長)は述べた。「PreCiSEは単なるスクリーニングツールを超えた存在であり、腫瘍が細胞を抑制するメカニズムと、多様ながん種の全域におよぶ腫瘍による抑制に抵抗するためCAR-NK細胞を再設計する方法を解明する指針なのです」。
本研究は、Rezvani氏が主導し、共同筆頭著者であるAlexander Biederstaedt医師(元Rezvani 研究室博士研究員、現ミュンヘン工科大学所属)およびRafet Basar医学博士(造血幹細胞移植・細胞治療学助教授)が共同で執筆した。
研究チームが開発したPreCiSEを用いて、研究者らは腫瘍の周囲環境に見られる抑制圧力に直面した際のNK細胞活性をコントロールする複数のチェックポイントと経路を解明した。この腫瘍微小環境には、免疫活性を抑制する多くの因子が存在する傾向がある。
これらの標的を編集することで、治療に反応しなくなったがんモデルにおいて、自然免疫としてのNK細胞機能とCAR(キメラ抗原受容体)を介したNK細胞機能の両方が強化され、代謝的健常性が向上し、炎症性サイトカインの産生が増加し、細胞傷害性NK細胞サブセットが増大した。
本研究では3つの検証済みの標的遺伝子、すなわちMED12、ARIH2,CCNCの重要性が強調されているものの、その意義はこれら単一遺伝子をはるかに超えるものである。PreCiSEはNK細胞制御因子の偏りのない分布図を提供し、優先順位付け・編集・組み合わせにより、より効果的なCAR-NK細胞療法の設計が可能である。
本研究で、研究者らは複数の腫瘍モデルを使い、特定の免疫抑制ストレス下で、主要標的をin vivo(生体内試験)で検証した。MED12やCCNCなどの制御因子はT細胞の研究において既知の経路と共通の要素を持つが、ARIH2などの他の制御因子はNK細胞に特有であると考えられ、NK細胞自体に特化したプラットフォームの重要性を強調している。
「本研究結果により、より強力で精密であり、またがんへの抵抗性も備えている可能性を持つ次世代細胞療法に関する有意義な知見を得ることができました」とRezvani氏は述べた。
Rezvani研究室は、遺伝子改変NK療法の進歩を主導し、進行した血液疾患および固形がん患者を対象としたCAR-NKアプローチの臨床試験を実施してきた。 Institute for Cell Therapy Discovery & Innovationを通じて、Rezvani氏とそのチームは、治療を必要とする患者向けの画期的な細胞療法の開発と推進を継続する。今回の知見は、より多くのがん種に対するCAR-NK細胞の有効性と活性をさらに高めるうえで重要なものとなるだろう。
共同研究著者の全リストおよび開示情報は論文に掲載されている。
- 監修 吉原哲 (血液内科・細胞治療/兵庫医科大学)
- 記事担当者 山口みどり
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- 原文掲載日 2025/08/21
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