がん診療に高齢者の機能評価を導入すると、高齢患者のQOLが向上し入院が減少

ASCOの見解
「65歳以上の人口は今後も世界中で増加し続けることが予想されており、高齢患者に提供する治療の質を最適化するために、より厳密な研究が急務となっています。本研究は、高齢者機能評価により、高齢がん患者のQOLが明確に改善され、より良い治療計画が可能になることを示しています」と、ASCO会長のHoward A. Burris III医師(米国内科学会フェロー:FACP、米国臨床腫瘍学会フェロー:FASCO)は述べた。

抗がん治療を受けることになった高齢がん患者において、治療計画に包括的な高齢者機能評価および老年病専門医主導の管理を取り入れた場合、QOLに有意な改善がみられた。本試験の著者らによると、前向きランダム化非盲検試験であるINTEGERATE試験は、老年腫瘍学における初のランダム化臨床試験で、老年病専門医と腫瘍専門医が連携して取り組む統合的なアプローチにより、QOLが向上し、入院および有害事象による早期治療中止が減少したことが明らかになった。

試験の概要

【焦点】 高齢がん患者のQOL向上のための介入

【対象患者集団】  抗がん治療を受けることになった70歳以上の患者154人

【結果】  包括的な高齢者機能評価および老年病専門医主導の患者治療計画を取り入れることによる介入が、QOLを向上させ、病院利用および有害事象による早期治療中止を減少させた。

【重要性】  高齢がん患者治療に老年病専門医と腫瘍専門医の両者が関与する初のランダム化介入試験

研究結果は、2020年米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会のバーチャル科学プログラムで紹介される予定である。

主な知見

包括的な高齢者機能評価とは、高齢者の医学的、心理社会的、および機能的な限界を特定する、詳細な系統的評価である。現在、がん患者は通常、病態が進行し、日常的な作業の遂行に重大な問題が生じた場合にのみ、老年病専門医を紹介される。しかし、包括的な高齢者機能評価および早期の老年病専門医の関与を含む統合的なアプローチ(「統合的高齢者がん治療」としても知られている)では、高齢がん患者を最適な状態にするための統合的な計画を作成することができる。

「包括的な高齢者機能評価は、高齢がん患者治療を最適化することが可能なため、強力なツールとなります」と、オーストラリアのメルボルンにあるEastern Healthの老年病専門医であり腫瘍内科医でもある、筆頭著者のWee-Kheng Soo氏( 内科・外科学士:MBBS、 王立オーストラリア医学校フェロー:FRACP)は述べた。

この介入の結果、計画外入院および有害事象による早期治療中止の減少など、より客観的な尺度でも改善がみられた。

試験について

本試験では、化学療法、分子標的治療、免疫療法のいずれかの治療を受ける予定の70歳以上のがん患者154人を対象とした。患者を、統合的高齢者がん治療を受ける群および通常治療を受ける群に無作為に割り付けた。

本研究の主要転帰であるQOLは、ELFI(Elderly Functional Index)スコアと呼ばれる有効な評価ツールを用いて測定した。欧州がん研究治療機構(EORTC)のQOL質問票も評価に用いた。

介入群の患者では、通常治療群と比較して、追跡調査の12週、18週、24週目にELFIスコアが有意に良好であったと報告されている。最大差は18週目に認められた(推定限界平均ELFIスコアが、介入群で72.0、通常治療群で58.7)。さらに、介入群では、機能、移動性、病気の負担、将来の不安など、他のQOLの指標においても有意な改善がみられた。

介入群では、病院利用が減少した。救急外来受診では1人当たり年間1.3回(通常治療群より39%減)、計画外入院では1人当たり年間1.2回(43%減)少なかった。宿泊数も1人当たり年間7日少なかった(24%減)。有害事象による早期治療中止患者の割合は、通常治療群よりも低かった(32.9%対53.2%)。この減少は、治療関連毒性が減少したことによると思われる。

次のステップ

研究者らは、(老年病専門医主導、看護師主導、腫瘍専門医主導など)老年腫瘍学におけるさまざまな治療モデルおよび(外科腫瘍学、放射線腫瘍学、入院患者など)さまざまながんの状況を比較する大規模多施設実施試験において、老年腫瘍学の治療モデルを実施することを計画している。

資金調達

本研究は、オーストラリア国立保健医療研究評議会(National Health and Medical Research Council)より資金提供を受けた。

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翻訳担当者 会津麻美

監修 高濱隆幸(腫瘍内科/近畿大学奈良病院)

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