アルコールががんリスクを高める機序:リスク低下のために知っておくべきこと

米国臨床腫瘍学会(ASCO)患者サイトCancer.NET

Eleonora Teplinsky医師は、ニュージャージー州パラマスにあるヴァリー・マウントサイナイ総合がんケアの乳腺婦人科腫瘍内科部長であり、マウントサイナイ・アイカーン医科大学の臨床助教です。乳がんと婦人科がんの治療を専門とし、がんにおける運動と栄養の役割、がん領域におけるソーシャルメディアとサバイバーシップを研究テーマとしており、Cancer.Netの編集委員でもあります。

アメリカがん協会(ACS)によれば、米国では、がんと診断される原因の約6%、がんによる死亡原因の約4%がアルコール摂取とされています。しかし、アルコール摂取は、私たちが変えることのできる、がんのリスク因子のひとつです。

アルコールは、国際がん研究機関(IARC)によって発がん性物質グループ1に分類されます。発がん性物質とは、がんを引き起こすことが知られているあらゆる物質のことです。グループ1(*サイト注:厚労省参考資料)に分類される発がん性物質には、アスベスト、放射線、タバコなども含まれ、がんを引き起こすリスクが最も高い区分となります。

アルコール摂取は、口腔、咽頭および喉頭を含む頭頸部のがん、乳がん、ならびに食道がん、肝臓がん、大腸がんを含む消化管のがんなど、複数の種類のがんリスク因子であり、アルコールは、メラノーマ(悪性黒色腫)、前立腺がん、膵がんなど、他のがんとも関連している可能性があります。アルコール摂取量が多いほどがん発症リスクは高まりますが、アルコールの種類に関係なく、どんな量のアルコール摂取でもこのリスクは高まります。

ここでは、アルコールががんリスクを高める原因、アルコール摂取を制限したり止めることががんリスクの低下につながる理由、そのためにできること、がん患者やがんサバイバーが飲酒について知っておくべきことについて詳しく説明します。

飲酒によって、がんリスクはどのように高まりますか?

アルコールはいくつもの理由でがんリスクを高める可能性があります。まだ明らかになっていない機序もあります。アルコールががんリスクを高める可能性のあるメカニズムには、以下のようなものがあります:

  • DNAへの損傷。ほとんどのアルコール飲料に含まれる主成分のひとつであるエタノールは、体内でアセトアルデヒドに分解され。アセトアルデヒドはDNAを損傷し得る化学物質であり、ヒト発がん性物質の可能性が高いとして分類されている。時間が経つにつれてDNAの損傷が蓄積されて、がんにつながる可能性がある。さらに、アルコールは細胞内に酸化ストレスを生じさせるが、これは体内の遊離基(フリーラジカル)が過剰で抗酸化物質が不足している場合に起こる。このストレスがDNAの損傷を引き起こして遊離基の一種である「活性酸素種」の産生につながったり、細胞の損傷やがんリスクの上昇につながる可能性がある。
  • 肝臓への損傷。アルコールとその副産物は肝臓を傷つけて、肝臓の炎症や肝硬変、つまり肝臓の瘢痕化につながる可能性がある。肝硬変は肝臓がんのリスク因子として知られている。
  • 有害な化学物質を分解して有用な栄養素を吸収するという体の能力に、影響を及ぼす。また、これによりタバコの煙に含まれるような化学物質が体内に入りやすくなる。
  • エストロゲン値を上昇させる。アルコールはエストロゲン値を上昇させ、乳がんのリスクに影響を及ぼす可能性がある。
  • 発がん性汚染物質への暴露。発酵や製造の過程でアルコールに汚染物質が混入する可能性がある。これらの汚染物質としては、ニトロソアミン、フェノール、炭化水素などがある。

また、遺伝的素因も、アルコール摂取によるがんリスクを高める可能性があります。例えば、体内でアルコールが分解される際に生成されるアセトアルデヒドは、2型アルデヒド脱水素酵素(ALDH2)と呼ばれる酵素によって除去されます。ALDH2が不活性型である遺伝子変異体を持っている人もいますが、これはアセトアルデヒドが過剰に蓄積していることを意味します。この過剰蓄積は、がんリスクの上昇と関連しています。

アルコール摂取をやめたり減らしたりすることで、がんのリスクを下げることができますか?

アルコールに関連するがんの発症リスクはがんの種類によって異なり、飲酒量が増えるにつれて増加します。アルコールの摂取をやめたり減らしたりしても、すぐにがんのリスクが減少するわけではないが、リスクは時間とともに減少していきます。

アメリカがん協会のガイドラインでは、アルコールは飲まない方がよいとされている。飲酒を選択する人については、米国臨床腫瘍学会(ASCO)とアメリカがん協会の両方が、摂取量を男性は1日2ドリンクまで、女性は1日1ドリンクまでに制限するよう勧めています。軽い飲酒でもがんリスクの上昇に関連することを忘れてはならず、できる限りアルコール摂取を控えるに越したことはありません。米国アルコール乱用・アルコール依存症研究所(NIAAA)は、基準飲酒量(ドリンク)を純アルコール約14グラムを含むものと定義しており、これは蒸留酒1.5オンス(約45ミリリットル)、ワイン5オンス(約150ミリリットル)、普通のビール12オンス(約360ミリリットル)に相当します。しかし、多くの人々や施設は、これらの測定値を知らないため、アルコールが提供される量は、この基準飲酒量1つ分(1ドリンク)を超えています。

アルコールの摂取を止めたり、制限したりするにはどうすればいいでしょうか?

アルコール摂取を制限したり、止めるには、いくつかの方法があります。まず、自分がなぜアルコールを飲んでいるのか、特に過剰に飲んでいる場合はその理由を知ることが大切です。これはしばしば「heavy drinking(大量飲酒)」または「binge drinking(暴飲)」と呼ばれます。大量飲酒とは、1週間あたり女性で8ドリンク以上、男性で15ドリンク以上飲むことを指します。また暴飲とは、1度に女性で4ドリンク以上、男性で5ドリンク以上飲むことを指します。

あなたのアルコール摂取を引き起こす習性、パターン、思考、行動を特定することが重要です。アルコールは中枢神経系を鈍らせ、抑制力、判断力、記憶力を低下させるため、ごく一般的に、人はリラクゼーション、不安の管理、あるいはストレス軽減のための対処メカニズムとしてアルコールを使用することがあります。医療専門家に相談することは、ストレスや不安を軽減するための他の対処メカニズムや方法を見つけるための有用な出発点になります。

同様に、不眠症を患う人の中には、睡眠を助けるためにアルコールを使うこともあります。しかし、アルコールはかえって睡眠を悪化させる可能性があります。不眠症の治療には、アルコールを使わない方法もたくさんあることを知っておくことが大切です。睡眠を助けるためにアルコールに頼っていることに気づいたら、かかりつけの医師に相談するとよいでしょう。

アルコール摂取の習慣のループを断ち切るのは難しいことではありますが、可能です。アルコール摂取に関する境界線を設定することは、懇親会の前にアルコール摂取の計画を立てることと同じくらい重要です。例えば、飲まないと気まずくなるような社交の場では、ノンアルコールカクテルを飲むという手があります。

減酒や禁酒を試みる人のために、対面式やバーチャルな情報源や支援団体がたくさんあります。禁酒の支援が必要な場合は、医師に相談してみるとよいでしょう。

がん患者やがんサバイバーは、アルコール摂取について何を知っておくべきでしょうか?

がんサバイバーにおけるアルコール摂取に関するデータは、アルコール摂取とがんリスクに関するデータと比べて非常に少ないですが、アルコール摂取は、がんの再発リスクや全生存期間に影響を及ぼす可能性があります。ただし、これはがんの種類によって異なります。さらに、特定のがん種では限られたデータしかなく、アルコール摂取とがん特異的な死亡との間に全体的な関連性が見いだされる科学的根拠は十分ではありません。このため、がんサバイバーに特化したアルコール摂取に関する一般的な推奨は現在のところありません。しかし、アルコールの摂取を制限することは、2度目のがん診断のリスクを減らし、その他の点でも健康に有益な影響を及ぼす可能性があります。

  • 監訳 大野 智(補完代替医療/島根大学 臨床研究センター)
  • 翻訳担当者 瀧井 希純
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  • 原文掲載日 2023/08/29

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