患者直接報告(PRO)を改善する新たなイニシアチブ

全米6カ所の病院情報システムで、がん治療に関連する症状の報告と管理を改善するための新たな共同研究が開始された。このイニシアチブはダナファーバーがん研究所が主導するもので、SIMPRO[シムプロ]リサーチセンターと呼ばれる。症例管理の改善および入院の減少を目的として、患者直接報告(PRO:Patient-Reported Outcome、「患者報告アウトカム」ともいう)の利用を、腫瘍治療を担当する医療従事者の日常業務の一環として取り入れていく。

がん患者は、各種の治療とともに、疲労、悪心、脱水、術後疼痛などのさまざま術後関連症状と闘うことになる。多くの場合、これらの症状はすでに確立された対処法により家庭でも効果的に管理可能である一方で、直ちに医師の診察を必要とする症状もある。

SIMPROは、患者がスマートフォンや自宅のコンピュータを使用してリアルタイムで症状を報告できるようにする。報告された症状は、患者の電子カルテに統合され、医療従事者は迅速に患者にアクセスし対応することができる。

「この多施設研究コンソーシアムは、症状管理に対する情報システムレベルの積極的アプローチ、21世紀型コミュニケーション戦略、チーム・サイエンスを展開することで患者の症状を軽減し、症状軽減を医療機関外でも可能にする」と、ダナファーバーがん研究所人口科学部門部長Deborah Schrag医師(腫瘍学者、公衆衛生学修士)は述べた。このイニシアチブの共同主任研究者の一人として、「成功すれば、患者、医師、ヘルスケアシステムのすべてにとって利益となる可能性がある」とも述べた。

SIMPROでは、eSyMというアプリケーション名のePRO(電子患者直接報告)報告管理システムを開発、実装(機能の作りこみ)、評価する。患者のスマートデバイスは、電子カルテを介してがん治療チームとの確実な接続を提供し、がん手術や化学療法後の症状追跡を容易にする。この試験では、患者の症状のモニタリングを行い、症状の管理方法を指導することで、入院や救急外来受診の必要性を減らすことができるかどうかを検証する。SIMPROチームは、最も広く使用されている総合健康記録ソフトウェアであるEpicで作業する。

開発とパイロットテストの後、eSyMは各参加医療機関の電子カルテに完全に統合される。これにより、患者の症状ダッシュボード(一覧表)にアクセスする医師らは、直接やりとりしたり、リアルタイムに情報を更新したりすることが可能になり、患者支援と指導の優先順位を決めることができるようになる。

「情報学の観点から見ると、患者の自主的な関与、医療従事者と患者のコミュニケーション、およびモバイルヘルスのインフラストラクチャ(基盤技術)への投資は、患者、医療従事者、研究者、および医療界全体にかなり大きなプラス影響を及ぼす可能性が高い」とダナファーバーがん研究所腫瘍内科のMichael Hassett医師(公衆衛生学修士)は述べた。Hassett医師は電子健康記録業者Epic と提携し、SIMPROプロジェクトの技術主任を務めている。

SIMPROの研究者は、患者、医師およびヘルスケアシステムの観点からeSyMの実装を評価するためのランダム化試験を実施する。がん医療のより良い提供を促進するため、すべての試験相でePROシステムの実装、導入、受け入れ(ユーザが使用しやすいかどうか)、および利用率を厳しく評価する。

SIMPROは、ボー・バイデンがんムーンショットイニシアチブ(Beau Biden Cancer Moonshot Initiative)に関連して米国国立がん研究所(NCI)から助成金を受けていると最近発表があった。前述の6カ所の共同研究機関は、ダナファーバーがん研究所/ブリガム・アンド・ウィメンズ病院がんセンター、バプティスト記念病院、ダートマス-ヒッチコック・メディカルセンター、ライフスパンがん研究所、ウェストバージニア大学がん研究所、メイン・メディカルセンターである。

このプロジェクトの詳細については、SIMPROリサーチセンターのウェブサイトwww.eSyMCancerMoonshot.orgを参照してください。

翻訳担当者 山岸美恵野

監修 石井一夫(計算機統計学/久留米大学バイオ統計センター)

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