がん臨床試験、患者集積の遅れ―試験の種類と最初の患者登録

米国がん学会(AACR)の機関誌Clinical Cancer Research誌に公表された研究によると、国内の研究共同グループが主導するがん臨床試験と、試験開始から最初の患者の登録までにかかる時間は、患者集積の遅れに結びつく要因の一部だという。

「臨床試験は治療法の評価や新薬承認のゴールドスタンダード(最も信頼できる基準)ですが、臨床試験を行うには非常に費用がかかるため、その取り組みが確実に成果に結びつくことが重要です」と、テキサス大学MDアンダーソンがんセンター(米テキサス州ヒューストン)の数量研究副学科長補佐で生物統計学教授のJ. Jack Lee博士は語った。

臨床試験の成功に重要な要因の一つは、試験への安定した患者集積であると、Lee氏はいう。Lee氏と同僚らは、試験への患者集積を向上させる方法を特定するために、臨床試験への患者登録の特徴と障壁を評価することにした。

MDアンダーソンの放射線腫瘍学科レジデント、Chad Tang医師(主執筆者)らとLee氏は、1981年1月から2011年3月までにがんセンターで実施した臨床試験4,269件、登録患者総数145,214人から得られたデータを解析した。集積患者数が年間2人未満の試験を「集積の遅い試験」としたところ、755試験(18%)がこのカテゴリーに当てはまった。

研究チームは、第3相および第2/3相試験の大半は、第1相および第2相試験よりも集積速度が遅いことを明らかにした。米国内の共同研究グループが関連する試験は、企業主導試験よりも集積時間が4倍以上かかる傾向にあった。「十分な資金や、研究論文のオーサーシップなど他の報酬が研究者にないために、こうした試験の患者集積が遅くなるのかもしれないと推測しています」とLee氏は話した。

データによると、1つ以上の査読付き論文で公表されたのは、集積速度が遅い試験では14%しかなかったのに対し、年間2人以上の患者集積があった試験では69%だったことが明らかになった。

また、試験開始から最初の患者登録まで70日間より多くかかった臨床試験は、最初の患者登録まで70日間未満だった試験よりも、集積完了までの時間が約6倍かかったことがわかった。最初の患者登録の遅れに影響している要因は、研究の性質(希少疾患など)、試験の複雑さ(登録に際して生検が必要など)、同じ患者群に対して複数の試験があること、研究担当部局の熱意、試験に費やす資源などだと、Lee氏は説明した。

「最良の目的と取り組みであるにもかかわらず、私たちの研究対象とした試験の9%は患者集積がゼロです。このような試験はそもそも企画されるべきではないのです」とLee氏は語った。

「医師と病院は、臨床試験を公開する前に十分な患者集積が可能かどうかを慎重に検討し、利用できる資源を最大限活用するために、影響力が最も大きいと考えられる分野に投資するようさらに配慮する必要があります」とLee氏は加えた。患者集積のための米国内の共同研究グループに対してさらに資金援助するための資源を増やし、影響力が大きいと考えられる試験への人員支援を増加すれば、集積の遅さを部分的には緩和させることができると、Lee氏は指摘した。

「試験のアイデアを考案し、手順書を作成し、審査、承認を経て試験を公開し、試験の活性度を維持するには、資金と時間、人材が必要です。しかし、試験に参加する患者がゼロ、または非常に少ないと、情報が少なすぎて研究が掲げる疑問への答えが得られなくなります。こうした取り組みが無駄になれば、新薬開発費がかさみ、ひいては医療費の総額が増えることになります」とLee氏は語った。

この研究の限界は、結果が大規模がん専門医療機関である単一施設における知見に基づいているという点で、得られた知見の一部は地域病院に一般化することはできない。さらに、試験デザイン、治療の種類、ゲノムプロファイル、標的とする患者群など、一部の詳細項目は、この研究の対象としたすべての試験からは得られなかった。

この研究の研究費の一部は米国立がん研究所(NCI)から提供された。この研究の著者らは利益相反なしと申告している。

翻訳担当者 粟木 瑞穂

監修 野長瀬 祥兼 (消化器腫瘍/近畿大学医学部内科学腫瘍内科)

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