院内調剤所の設置で治療の質が向上し、処方ミスも減少

専門家の見解

「がんセンター内にある院内調剤所の新たなモデルを採用した結果、処方ミスや、患者が薬剤を受け取るまでの時間が著しく減少しました」と、米国臨床腫瘍学会(ASCO)の専門委員で、Quality Care Symposium News Planning Team(クオリティケアシンポジウム・ニュースプランニングチーム)リーダーであるDon S. Dizon医師は述べた。「今回、経口化学療法向けに共同で行われた患者中心型アプローチによって浮いた経費は、患者の教育、モニタリング、支援に回されました」。

新たな経口抗がん薬が次々に現れ、患者はより便利に、かつ侵襲が少ない方法で薬剤を服用できるようになるが、このような治療はしばしばアドヒアランス 処方された薬剤を指示どおり服用すること)の困難さや医療ミスを伴う。新たな研究は、コネチカット州ニューヘイブンのがんセンターに院内調剤所を設置したことにより患者への医療の全般的な質が向上し、患者が薬剤を受け取るまでの時間が短縮され、経口化学療法薬の充填、調剤、服用に関連するミスを防げたことを示している。著者らは、フロリダ州オーランドで3月3~4日に開催されるASCOのクオリティケアシンポジウムで彼らの知見を発表する。

「院内調剤所設置前は、院外調剤薬局へ処方箋を送付した後のことは何も知りませんでした」と本研究の統括著者であり、イェール・ニューヘイブンにあるSmilow Cancer Hospitalの医学部助教、品質責任者であるKerin Adelson医師は述べた。「患者は推奨より遅れて服薬を開始したか?患者は薬を正しい組み合わせで常に服用したか?これらはすべて、診療の品質と予後に影響を及ぼす質問項目ですが、以前は私たちでは答えることができませんでした。今では答えられます」。

エール大学ニューヘイブン健康システムのSmilow Cancer Hospitalでの院内調剤所の設置に続き、すべての経口化学療法薬に対する治療プロトコルに沿って、研究者らは患者治療の質が劇的に向上するのを認めた。患者は薬剤をより迅速に受け取った―患者の80%が処方から72時間以内に経口薬を受け取った。調剤所設置前は、薬剤を受け取るのに2~3週間待たされると患者が申し立てることがしばしばあった。さらに、本プログラムの開始以降、薬剤師により処方ミスを400件以上防止することができた 。

著者らは、薬剤受け渡しの迅速化、服薬アドヒアランスおよび毒性モニタリングの向上を目的として、医師、看護師、薬剤師、患者からなる分野横断作業部会を開催した。本作業部会は、すべての経口抗がん薬に対する治療プロトコルを作成し、医療センターの電子カルテシステムに組み込んだ。すべての経口抗がん薬処方箋は、がん専門薬剤師や調剤所に送付され、がん看護専門看護師やがん専門薬剤師がすべての注文を確認した。薬剤師は、毒性を評価するために経口薬処方箋を記入してから1日後、5日後、および21日後に患者に電話した。経口化学療法に関連する全過程が、臨床チーム全体がアクセス可能な電子カルテの分野横断フローシートに記録された。

「経口抗がん薬や他のがん治療を処方される患者に対しても、クリニックまたは病院内で静脈注射により化学療法薬を投与する患者と同様に注意深く介助し、経過観察するべきです」と共同著者でイェール・ニューヘイブン病院のがん化学療法薬剤部副部長Howard Cohen氏(薬学士、理学修士、FASHP (米国病院薬剤師会フェロー))は述べた。「プロトコルに基づき、服薬 アドヒアランスや副作用に前向き に取り組むことができ、これらはすべて患者に対する治療品質の向上につながります」。

研究者らは、Quality Oncology Practice Initiative(QOPI:質の高いがん診療推進活動)のデータが経口薬に対する診療の質の乖離を示したことを受け、調剤所設置の検討を急いだ。QOPIは、がん専門医主導で、診療に基づく質の評価プログラムであり、診療が自己検診および改善の文化を創造するのを後押しすることで、優れたがん治療を促進することを目的としている。

薬剤受け渡しの遅延とともに、研究者らは、患者が別の場所で処方を受ける場合に、処方ミスが増加するのを認めた。患者の中には、正しい用量を服薬していなかったり、投薬計画終了後も薬の補充を続けていた人もいた。

調剤所の設置はまた、追加収入をもたらし、非営利のがんセンターが服薬支援プログラムの拡充などの追加サービスを患者へ提供できるようになった。2016年、月平均140人の患者が薬の交換および患者自己負担金に関する支援の形で服薬支援を受け、患者にかかる経費は月当たりにすると合計で約150万ドルを上回る。

研究者らは、今回の方式が、治療の質の向上や患者による薬剤の適時受け取りを目指す他の医療機関のモデルとなることを望んでいる。

翻訳担当者 太田奈津美

監修 東海林洋子(薬学博士)

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