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エンハーツ(T-DXd)術前療法はHR陽性HER2低発現の乳がんに臨床効果を示す

【サンアントニオ乳がん学会(SABCS2022)】

サンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS、2022年12月6日〜10日)でTRIO-US B-12 TALENT第2相試験の結果が発表された。この試験結果によると、術前療法としてトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd、販売名:エンハーツ)による治療を受けたホルモン受容体陽性HER2低発現の限局性乳がん患者において、全奏効率はトラスツズマブ デルクステカンのみを投与する群で75%、アナストロゾールを併用投与する群で63%であったことが示された。

「この結果は、ホルモン受容体陽性HER2低発現の限局性乳がん患者に対する術前トラスツズマブ デルクステカン療法についての初めての報告です」と、マサチューセッツ総合病院がんセンターのAditya Bardia医師(公衆衛生学修士、乳がん研究プログラム責任者、ハーバード大学医学部准教授)は説明する。「今回の結果は、早期乳がん患者に対するトラスツズマブ デルクステカンなどの抗体薬物複合体に関する今後の研究の基盤となる可能性があります」。

高リスクかつ限局性の乳がん患者は、術前化学療法を受けることが多い。しかし、エストロゲン受容体やプロゲステロン受容体が発現している乳がんの場合、術前化学療法による病理学的完全奏効率は5%未満であり、このような患者に対する新しい治療選択肢が必要とされているとBardiaは述べている。

トラスツズマブ デルクステカンは抗体薬物複合体であり、がん細胞に発現するHER2に結合するとがん細胞内に取り込まれ、細胞毒性物質を放出してDNAに損傷を与えることで、がん細胞を死滅させる。現在、同薬は米国食品医薬品局(FDA)により、HER2を過剰発現するいくつかの種類のがんの治療薬として承認されており、最近ではHER2の発現量が少ない転移性の乳がんの治療薬としても承認されている。

「トラスツズマブ デルクステカンは、転移性のHER2低発現乳がんにおいて目覚ましい効果を示しました。しかし、現在までのところ、治癒する可能性のある限局性のHER2低発現早期乳がんにおいて同薬を評価した臨床試験はありません。このことから、今回の術前療法の臨床試験を計画するに至りました」と、本研究の共同著者であるSara Hurvitz医師(ジョンソン総合がんセンター臨床研究ユニット医長、カリフォルニア大学ロサンゼルス校 血液・腫瘍内科学 内科学教授)は述べている。

Bardia医師とHurvitz医師らは、術前療法としてトラスツズマブ デルクステカンのみを投与する場合、またはアロマターゼ阻害剤であるアナストロゾールを併用投与する場合の安全性と有効性を評価することを目的として、第2相TRIO-US B-12 TALENT試験を実施した。本試験最初のデータカットオフ(2022年10月5日)の時点で、17 人の患者がトラスツズマブ デルクステカンの計画された8サイクルの投与を完了し、16 人の患者がトラスツズマブ デルクステカンとアナストロゾールを併用する計画された6サイクルの投与を完了した。

Bardia医師によると、本試験の主要評価項目は、病理学的完全奏効率(pCR率)5%であった(病理学的完全奏効率:手術時に腫瘍が完全に退縮しリンパ節転移が認められないことと定義される)。本試験最初のデータカットオフ時点では、アナストロゾールを併用投与する群ではpCRに達した患者はおらず、トラスツズマブ デルクステカンのみを投与する群では19人中1人(5.3%)がpCRに達した。

本研究最初のデータカットオフ時点において、トラスツズマブ デルクステカンによる術前療法を終え手術を受けた患者は33人、術前療法を終え手術待機中の患者は7人、まだ術前療法を施行中の患者は13人であった。奏効評価可能集団のうち、トラスツズマブ デルクステカンのみを投与する群では全奏効率が75%(部分奏効11人、完全奏効1人)、アナストロゾールを併用投与する群では全奏効率が63%(部分奏効10人、完全奏効2人)であった。

グレード3以上の主な治療関連有害事象は、低カリウム血症、下痢、好中球減少、疲労、頭痛、嘔吐、脱水、悪心で、それぞれ6%未満の患者に発生した。また、1人の患者にグレード2の間質性肺疾患がみられたが、治療中止後に解消した。

全体の患者数および有効性のデータは不完全であり、シンポジウム開催時に情報が更新される予定である。

Hurvitz医師は、病理学的完全完解(pCR)や全奏効率などの結果について、データカットオフまでにすべての患者がスキャンや手術を受けたわけではないことから、データとして完全とはいえないことを強調した。総合的に考えれば、忍容性と全奏効率の結果は有望であり、今回の試験の患者集団を対象としたトラスツズマブ デルクステカンに関する今後の研究を保証するものであるとHurvitz医師は述べている。

「本試験では、ホルモン受容体陽性、HER2低発現、限局性の乳がんにおいて、トラスツズマブ デルクステカンが比較的安全であることが証明されました。本試験は、臨床転帰をさらに改善するための術前療法における併用レジメンといった、今後の研究のための橋渡しとなる構想の枠組みを示しているでしょう」とBardia医師は語った。

Bardia医師とHurvitz医師らは、治療前・治療中・治療後に採取した腫瘍組織と血液サンプルから得られるバイオマーカーを分析することによって本臨床試験をフォローアップすることを目指している。Bardia医師は、これらのバイオマーカーの研究が、研究者らがHER2発現状況をより正確に評価し、どのようながんに対してトラスツズマブ デルクステカンによる治療が最も奏効するかを予測し、トラスツズマブ デルクステカンに対して耐性を持つようになる潜在的なメカニズムを明らかにすることに役立つことを期待している。

本研究の限界には、第2相試験の特徴である被験者数の少なさが挙げられる。このことにより本試験では2つの治療群を正確に比較することができなかった。また、本試験の主要および副次的評価項目は、奏効を評価するものであり、長期生存を評価するものではなかった。

本試験は、TRIO-US (Translational Research in Oncology-US)ネットワークによる研究者主導研究として実施された。本研究は第一三共株式会社により資金提供を受けている。Bardia医師は、以下のコンサルタントまたは諮問委員会のメンバーを務めている:Pfizer社、Novartis社、Genentech社、Merck社、Radius Health社、Immunomedics/Gilead Sciences社、Sanofi社、第一三共株式会社(Daiichi Sankyo)、AstraZeneca社、Eli Lilly and Company社。また、Bardia医師は以下より研究資金を受け取っている:Genentech社、Novartis 社、Pfizer社、Merck 社、Sanofi 社、Radius Health社、Immunomedics/Gilead Sciences社、第一三共株式会社(Daiichi Sankyo)、AstraZeneca社、Eli Lilly and Company社。Hurvitz医師は、第一三共株式会社(Daiichi sankyo)から講演謝礼金を受け取っている。また、Hurvitz医師は以下より研究資金を受け取っている:Ambrx社、Amgen社、Arvinas 社、AstraZeneca 社、Bayer 社、Biomarin Pharmaceutical社、Cascadian Therapeutics社、CytomX Therapeutics社、第一三共株式会社(Daiichi sankyo)、Dantari社、Dignitana社、Genentech/Roche社、G1 Therapeutics社、Gilead Sciences社、GlaxoSmithKline社、Immunomedics 社、Eli Lilly社、MacroGenics 社、Merrimack Pharmaceuticals社、Novartis 社、OBI Pharma社、Orinove 社、Pfizer 社、Phoenix Molecular Designs社、Pieris Pharmaceuticals社、Puma Biotechnology社、Radius Health社、Sanofi社、Seattle Genetics社、Zymeworks 社。

 

監修:小坂 泰二郎(乳腺外科・化学療法/医療社会法人石川記念会 HITO病院)

翻訳担当者加藤 千恵

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