術前ペムブロリズマブ療法が一部のメラノーマに有効

メラノーマ(悪性黒色腫)の治療は、おそらく他のどのがんよりも、この10年間で大きく変貌を遂げた。そして、米国国立がん研究所(NCI)が資金提供した臨床試験の初期の結果に基づき、悪性度が高いことが多い、このタイプの皮膚がんに対する新たな治療法の強化が目前に迫っている。この治療法は、がんが進行しているものの、手術可能な患者に有益であると考えられる。

本試験のグループの1つでは、手術で腫瘍を切除し、その後1年間、免疫療法薬のペムブロリズマブ(キイトルーダ)を定期的に投与する術後療法と呼ばれる治療を実施した。もう一方のグループでは、術前のペムブロリズマブの数回投与(術前療法)の後、術後10カ月間ペムブロリズマブによる投与(術後療法)を実施した。

これらの術前のペムブロリズマブの数回投与が功を奏したと考えられ、術前療法を受けた患者は、術後療法のみを受けた患者と比較して、がんの再発リスクが大幅に減少した。

また、術前にペムブロリズマブの投与を受けた患者の約20%で、原発腫瘍が完全に消失した。

この結果は、9月11日にパリで開催された欧州腫瘍学会(ESMO)で発表された。

SWOG Cancer Research Networkが実施した本試験は、ペムブロリズマブによる術前療法が患者の全生存期間を改善するかを判断するにはまだ十分な期間が経過していない。しかし、これまでのところ、この結果は非常に有望であると、本臨床試験責任医師のテキサス大学MDアンダーソンがんセンターのSapna Patel医師は述べた。

この結果に基づき、専門的な腫瘍学機構による治療ガイドラインが、このタイプのメラノーマの患者に対する術前ペムブロリズマブの検討を推奨するように改訂される可能性があると思われるとPatel医師は述べた。

このような患者に対して「手術の役割はまだある」と彼女は続けたが、手術のタイミングが変更される可能性は十分にある。

メラノーマ治療の専門家も同意見であった。ESMOの本試験結果に関するセッションで、トロントのSunnybrook Odette Cancer CentreのTeresa Petrella医師は、本試験は術前療法と術後療法が術後療法単独より有効であるという「考えを支持する」と述べた。

腫瘍をそのままにして、免疫反応を活性化

術後療法は、メラノーマを含む多くのがん治療で主流となっている。術後療法の前提は、手術で切除できないがん細胞や、体内の他の場所に潜伏し、いかなる方法でも検出できないがん細胞を死滅させることである。このようながん細胞は、しばしば微小転移と呼ばれる。

ESMOで発表されたこのS1801試験において、参加者のがんは、原発腫瘍の近位組織(近位リンパ節など)まで、あるいは遠隔部位にまで転移していた可能性がある。しかし、依然として手術がこれらのがん治療に有効な手段であると考えられた。

手術が可能な患者には、免疫療法または分子標的治療(腫瘍に特定の遺伝子変異がある場合)のいずれかによる術後療法が現在の標準的な治療法である。

S1801試験で研究者らは、術前に免疫療法を開始することで、患者の腫瘍とその周囲に既に存在する免疫細胞が利用可能かどうかを検証しようとした。

免疫細胞が存在するのは、「免疫系が既に腫瘍を危険なものとして認識している」ためであると、本研究のデザインに協力したNCIがん治療評価プログラムのElad Sharon医師は説明した。免疫反応は十分でなく、腫瘍を破壊することができなかっただけである。

免疫療法は、この既存の免疫反応に大きな刺激を与え、より致命的な攻撃を引き起こすことを目的とする。「しかし、測定可能病変がない場合、術後にのみ投与すると、免疫系が反応する余地があまりないという、理にかなったなリスクがあります」と彼は述べた。

ペムブロリズマブの初回投与時に腫瘍があれば、腫瘍を認識して攻撃できるT細胞の数を劇的に増やすことができるとPatel医師は述べた。「また、腫瘍切除後は、これらのT細胞は循環に移行し、循環中のより多くのT細胞が[微小転移を]追うことができるのです」。

術前ペムブロリズマブ療法は無イベント生存期間を改善

第2相試験には、合計313人の患者が登録され、全員がステージ3または4のメラノーマを有していた。

参加者は、術後に18回のペムブロリズマブ投与(静脈内投与)を1年間受ける群と、術前2カ月間に最初の3回のペムブロリズマブ投与を受け、術後10カ月間に残りの15回の投与を受ける群に無作為に割り付けられた。

本試験の主要評価項目は、術前のペムブロリズマブ3回投与による無イベント生存期間(特定のイベントを経験せずに生存する期間)の延長期間であった。

2年後、術前療法群の72%がイベントなしで生存していたのに対し、術後療法群では49%であったとPatel医師はESMOで報告した。

無イベント生存期間の定義
S1801試験では「イベント」を下記のとおり定義した。
 ・術後療法開始後のがんの再発

 ・診断後、手術が不可能なほどの病勢進行
 ・術後療法を予定どおりに開始しない
 ・何らかの原因による死亡

術後療法期間中のがん再発に関して、群間で明確な差がみられた。術後療法群の159人中44人でがんが再発したのに対して、術前療法群でがんが再発したのは、154人中わずか9人であった。

術前療法のアプローチで懸念されるのは、がんがペムブロリズマブに反応せず悪化した場合、手術が選択肢でなくなるリスクがあることだとSharon医師は指摘した。

そして実際、そのようなことが起きた。術前療法群の42人には、術前療法期間中にがん進行を示す何らかのエビデンスがあった。しかし、そのうちの30人は進行が限定的で、まだ手術が可能であった。

術前療法群で手術を受けられなかった少数の患者をどうするかは不明であるとPatel医師は注意を促した。少なくともそのうちの何人かでは、進行は原発腫瘍から離れた部位のがんである可能性が高い。そのような患者がすぐに手術を受けても、転移を防ぐことはできなかったと彼女は続けた。

つまり、少なくともこれらの患者の何人かは、「手術をしても意味がなかった、生物学的に攻撃的ながんに対して手術を免れた」可能性があると彼女は述べた。これらの参加者に起きていることをより深く理解するために、チームはデータを「深く掘り下げる」予定であると彼女は付け加えた。

重篤な副作用はほとんどなく、副作用の発現率に群間差は認められなかった。治療法の真の差は、ペムブロリズマブの最初の3回がいつ投与されたかだけであることを考えれば、これは驚くべきことではないとSharon医師は述べた。

リサーチクエスチョン:術前免疫療法を併用するか。術後療法の回数を減らせるか。

本試験の結果が、ステージ3または4のメラノーマの治療法にどの程度影響するかは不明であるとPatel医師は述べた。

メラノーマの治療法は急速に変化しているため、医療機関によって治療が異なることがある。Sharon医師によると、免疫療法は短期的および長期的に重大な副作用がみられる可能性があるため、一部の医療機関では、これらのステージのメラノーマ患者に対して術後免疫療法はほとんど使用されていない。

Petrella医師は、この結果はすぐに影響を与えるはずであると示唆した。本試験結果は、「この患者集団の新たな標準治療」を支持すると彼女は述べた。

Patel医師は、術前療法については、まだ多くの疑問点が残っていると述べた。

たとえば、2種類の免疫療法剤を併用することで、特に単剤のみでは反応がみられなかったがんを有する患者にとってより有効である可能性があるだろうか。また、術前療法で腫瘍が完全に消失した患者にも術後療法は必要だろうか、それとも投与回数を少なくできるだろうか。

しかし、少なくとも免疫療法による術前療法に関しては、これらの新しい知見はメラノーマやおそらく他のがんに対する治療パラダイムの転換を意味するとPatel医師は考えている。

「診断後すぐに手術を行うことが標準的な治療法でしたが、少なくとも短期間はがんをそのままにしておくことが望ましい場合があると示されたと思います」彼女は述べた。

監訳:中村泰大(皮膚悪性腫瘍/埼玉医科大学国際医療センター)

翻訳担当者 吉田 加奈子

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