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トラスツズマブ デルクステカンがHER2低発現転移乳がんの無増悪生存期間を2倍に延長

ASCOの見解

「本試験の結果は、HR陽性、HER2低発現の乳がん患者において、トラスツズマブ デルクステカンが化学療法単独と比較して無増悪生存期間を2倍に延長することを示しています。本試験は、HER2低発現という乳がんの新たなカテゴリーを効果的に設定することにより、乳がんの分類方法を再定義し、HER2標的治療が有効な患者集団を大幅に拡大すると考えられます」と、ASCO乳がんエキスパートのJane Lowe Meisel医師は語る。

シカゴ―新たなHER2標的抗体薬物複合体であるトラスツズマブ デルクステカン(販売名:Enhertu[エンハーツ])の投与により、従来の化学療法による標準治療と比較して無増悪生存期間が2倍に延長した。また、ホルモン受容体の状態にかかわらず、HER2受容体低発現の転移性乳がん患者の全生存期間が有意に延長した。診療に変化をもたらすこれらの知見は、HER2低発現という乳がんの新たなタイプを同定し、多くの転移性乳がん患者の治療を問い直すものである。この最新の研究は、米国臨床腫瘍学会年次総会2022(ASCO22)で発表された。

試験要旨

【目的】 トラスツズマブ デルクステカンと標準化学療法の有効性比較。

【対象者】 アジア、ヨーロッパ、および北米のHR陰性またはHR陽性、HER2低発現、切除不能、または転移性乳がん、あるいはこれらをすべて満たす患者557人。

【結果】 追跡期間中央値18.4カ月の時点で、HR陽性でトラスツズマブ デルクステカンの投与を受けた患者は、

・標準化学療法を受けた患者に比べてがん進行リスクが49%、死亡リスクが36%減少した。

・無増悪生存期間(PFS)(腫瘍が安定または退縮した期間)は、標準化学療法を受けた患者の5.4カ月に対し、10.1カ月であった。

全生存期間(OS)は、標準化学療法を受けた患者の17.5カ月に対し、23.9カ月であった。

トラスツズマブ デルクステカンまたは化学療法に関連する有害事象の発生率はほぼ同等であったが、肺毒性が発生したことから、重大な安全上の懸念事項として今後注意深く監視していく必要がある。

【意義】 DESTINY-Breast04の結果は、診療に変化をもたらす。トラスツズマブ デルクステカンの有効性は、転移性乳がんの新たな治療標的カテゴリーとしてHER2低発現の使用を支持する。

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主な知見

DESTINY-Breast04試験において、患者は、医師が選択した標準化学療法(カペシタビン、エリブリン、ゲムシタビン、パクリタキセル、またはナブパクリタキセル)か、トラスツズマブ デルクステカンのいずれかを投与された。トラスツズマブ デルクステカンは、トラスツズマブ(HER2モノクローナル抗体)とデルクステカン(がん細胞のDNA複製を阻害するトポイソメラーゼ1阻害薬)が結合した新たな抗体薬物複合体である。トラスツズマブ(販売名:ハーセプチン)は、HER2高発現乳がん(HER2陽性乳がん)には有効であるが、HER2低発現乳がんには効果がないことが証明されており、そのためトラスツズマブは一部の乳がん患者にしか使用できない。

HER2低発現でホルモン受容体が陽性(HR陽性)のがん患者において、主要評価項目の無増悪生存期間(PFS)は、トラスツズマブ デルクステカンが標準化学療法に比べて2倍近く延長した(10.1カ月対5.4カ月)。副次的評価項目の全生存期間(OS)についても、トラスツズマブ デルクステカンの投与を受けたHER2低発現、HR陽性の患者は、標準化学療法の患者に比べて有意に延長した(23.9カ月対17.5カ月)。

治療関連有害事象は、トラスツズマブ デルクステカン群が標準化学療法群よりも少なかった(52.6%対67.4%)。これは、これらの薬剤について行われた過去の臨床試験の結果と一致する。安全性に関する新たな懸念も確認されなかった。

筆頭著者で、スローンケタリング記念がんセンター(ニューヨーク)の腫瘍学者であるShanu Modi医師は次のように語る。「われわれの試験は、トラスツズマブ デルクステカンが、この新たに定義された患者集団に投与可能な、新規かつ非常に有効な標的治療になり得ることを示しています」。「特に、HER2低発現状態は、一般的に広く行われている検査で判定できますから、陽性か陰性かだけでなく、自分のがんがどの程度HER2を発現しているかを知ることが患者にとって重要です」。

HER2発現は、がん細胞上のHER2タンパク質量を測定する検査や、がん細胞のHER2遺伝子のコピー数を測定する検査によって決定される。

2022年に米国で新たに診断される乳がんは290,560例と推定されている。このうち、最も悪性度の高い病態である転移性乳がんの診断を受けた患者は、約15〜20%がHER2陽性とみなされ、HER2標的治療薬による治療の対象になると考えられる。残りの約80%の転移性乳がんは現在、HER2陰性に分類されており、このうち約55〜60%はHER2低発現である。

試験について

二重盲検第3相試験であるDESTINY-Breast04には、転移性乳がんに対して1〜2ラインの化学療法歴のあるアジア、ヨーロッパ、および北米のHER2低発現転移性乳がん患者557人が登録された。対象者は、トラスツズマブ デルクステカンか、医師が選択した複数の標準化学療法剤のいずれかに、2:1の割合でランダムに割り付けられた。

主要評価項目は、HR陽性患者の無増悪生存期間(PFS)であった。主要な副次的評価項目には、全患者(HR陽性およびHR陰性)のPFS、ならびに全患者とHR陽性患者の全生存期間(OS)が含まれた。その他の評価項目は、客観的奏効率、奏効期間、安全性、およびHR陰性患者の予備解析であった。

トラスツズマブ デルクステカンはすでに、抗HER2抗体による治療歴のある切除不能または転移性HER2陽性乳がんの成人患者の治療薬として40カ国以上で承認されている。2022年4月27日、米国食品医薬品局は、トラスツズマブ デルクステカンのHER2低発現転移性乳がんに対する画期的治療薬指定を行った。

本試験は、第一三共株式会社、アストラゼネカ社から資金提供を受けた。

次のステップ

現在、複数の試験でHER2低発現転移性乳がん患者に対するトラスツズマブ デルクステカンの投与が行われているが、このうち一部の試験では、トラスツズマブ デルクステカンの効果を得るために必要なHER2発現量の最小閾値が模索されている。

 

監修尾崎 由記範(乳がん/がん研有明病院)

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